意識高い系諸葛亮~1章1節~

2019年10月21日

キャラ紹介とか用語説明は長くなりそうなんで、設定置き場を別ページで作りました。興味ある人は見てね!

前回のあらすじ

CGデザイナーで意識高い系ニート諸葛亮は、自己顕示欲を満たすために劉備に取り入ることを決意。龐統や徐庶と協力して、「自分を高く売るため」に策動をはじめた。

諸葛亮曰く「マーケットトレンドを見極めないとキャピタルロスする」

マッチポンプとは、マッチで火事を起こしてからポンプで消化し、自作自演ヒーローになることである。しかし、必然として「火事で燃えるもの」が無くてはならない。そのため、諸葛亮は蔡瑁(さいぼう)という人間に燃えてもらおうと考えた。蔡瑁は諸葛亮にとって義理の叔父(許嫁の母の弟)であり、顔を合わせば「就職しろ」とうるさいからだ。

蔡瑁は荊州地区(長江の中流周辺域)の大手総合小売チェーンKマートの取締役である。そこまで出世できたのは、現社長劉表(りゅうひょう)の後妻が彼の姉だからである。つまる話、彼は「姉が良家に嫁いで成り上がったラッキーコネ野郎」なのだ。「少しくらい炎上して社会的地位を失ってもいいだろ」と考えた諸葛亮は早速彼の家を訪ねた。

「蔡さん、御無沙汰しています」

「やあ亮くん、定職にはついたかい?」

もうその言葉は聞き飽きたと諸葛亮は感じつつ、ひとまずは受け流すことにした。会話でペースを掴むには落差が肝要なため、最初は思い通りに喋らせるのが吉である。

「いやあ、まだまだ自分探しやってますねぇ」

「変わらずニートかぁ。均君(諸葛亮の弟である諸葛均のこと)も苦労するねぇ」

「ホント弟には感謝仕切りですよ」

「さっさと定職について、均君と月英(諸葛亮の許嫁)を楽にしてやってくれよ。で、今日は何の用だい?」

いつもならここから長々と説教が始まるのだが、今日はそういう気分ではないらしい。面倒が省けて好都合だと思った諸葛亮は頭のギアを切り替えて、一気に畳みかけることにした。

「ショートノーティスな話です。蔡さんが持ってる『Kマート新野』の株を曹魏カンパニーに売りませんか?」

「はぁっ!?いきなり何言ってんの??」

蔡瑁は驚いて、甲高い声を挙げた。

「だからショートノーティスだって言ったじゃないですか。ショートノーティスの意味わかってます?」

「わ、分かってるよ!バカにするなよ!」

蔡瑁は無駄にプライドの高い人物だ。それゆえ、見下している相手に「その言葉の意味が分かりません」とは口が裂けても言えない男である。諸葛亮はそれを十二分に理解した上で煽り、会話の主導権を握ろうとしているのだ。

「売ってもいいじゃないすか、『Kマート本社』じゃなくて『Kマート新野』は新野地区営業統括用の子会社ですし」

「だったとしても取締役の私が売っちゃったらコンプラとか、アレとかヤバイだろう!」

話の流れに泡を食っている蔡瑁は言葉が出てこない。おそらくコンプライアンスとか信頼性といった言葉を使いたかったのだろうが、それすらも出て来ない様子だ。それを見て諸葛亮はさらに言葉を重ねる。

「地場の小株主さんは曹魏カンパニーと面会アポとり始めてますよ。向こうが50%以上買い占めたら、後の株主は用済みで、買い叩かれてバカを見るだけです。マーケットトレンドを見極めてポジション取らないキャピタルロスしますよ」

「なんだと!?」

「そもそも、曹魏カンパニーのやっている通販事業aman.comと、旧来の小売を続けてるKマートでは勝負になりませんよ。ロジスティクスが何よりもダンチですから、コスト面でまず勝てないでしょう。今売るか、後で潰れるかどっちかです。アンダスタン?」

蔡瑁も学が無いわけではない。ゆえに、なんとなく雰囲気で意味は分かる。自分の保有する『Kマート新野』の株式が紙くずになってしまう可能性について諸葛亮が語っていることくらいは理解できているのだ。しかし、細かいところは分からない。分からないがゆえに、それを隠そうと知りもしない用語を使おうとしてしまう。

「ロジティクは確かにそうかもしれんがね……」

「ロジスティクスですよ、ロ、ジ、ス、ティ、ク、ス。分かってます?」

ロジスティクスとは、原材料の調達から製造、販売までのモノの流れを指す。曹魏カンパニーの基幹事業であるaman.comは通信販売業界の風雲児であり、その強さの秘訣はロジスティクスにある。大量の注文を効率的にさばき、高速の配送を可能しているのは曹魏カンパニーが作り上げたロジスティクスのシステムが抜群に優れているからだ。

「わ、分かってるよ!バカにするなよ!」

「はぁ…」

この用語にこだわっていても諸葛亮に勝ち目がないと思った蔡瑁は持ち株比率に話を逸らそうとした。

「そもそも、曹魏がいくら『Kマート新野』をTOBしようとしたって、50%に届かないだろ。Kマート本社が25%、社長夫婦が10%、Kマート新野社長の劉備が10%、そこに私みたいな本社重役連中の持ち分を足したら55%に達するんだぞ」

「TOBなんて言葉知ってるんですね。意外です」

「知ってるよ!バカにするなよ!」

実際、『Kマート新野』の株主比率から考えると、社長夫妻か重役連中のどちらかを攻略しない限りTOBに勝ち目は無い。平常時の蔡瑁であれば、その程度のことには気付けるハズである。しかし、今日に限っては諸葛亮の煽りスキルの方が何枚も上手である。もはや会話の主導権など聞くにおよばずとなってしまった。

「ただ、劉備は売りそうですよ。彼はカネコマですからね」

「カネコマは分かるぞ!」

「聞いてませんけどね……」

「あのな!劉備は曹操と犬猿の仲なんだよ!仕えるのが嫌だったから袁紹(えんしょう)の元へ身を寄せ、それがダメそうになったから親類筋を辿ってこっちに逃げてきたんだ」

これは一面として真実ではある。劉備は一時期曹魏カンパニーの顧問として、トップの曹操の相談役をやっていた。しかし方針の違いから仲違いし、退職して名袁物産(めいえんぶっさん)に転職しているのだ。つまり、劉備と曹操の不仲はもはや衆人の知るところなのである。

だが、そうであるがゆえに、諸葛亮にとっては「想定していた反論」と言える。予想の内なのだから、そんな指摘をされたところで焦りも不安も全く湧いてこない。むしろ蔡瑁に対する憐れみの気持ちすら湧いてきていた。

「はぁ……、蔡さんもうちょっとオブジェクティブに考えてくださいよ。彼を招き入れた団体やら企業やらは、結局、曹魏カンパニーに都合よく組み込まれているように思いませんか?陶謙(とうけん)も、呂布(りょふ)も、袁紹(えんしょう)もやられましたよね」

考えたこともない事実を提示され、蔡瑁の中で怒りより不安や疑念の方が上回った。

「ヤツがスパイだとでも言うのか?」

「さあ、どうでしょうね。でもこんなエビデンスを私は持っていますよ」

そういって諸葛亮はスマホを手にし、蔡瑁に1枚の写真を見せた。

「なんだこの飲み会写真は。劉備じゃないか。これ隣に映っているのは誰だ?」

「曹仁(そうじん)ですよ。曹操のイトコでaman.comの荊州エリアサービスのローンチ責任者ですね。ローンチ、分かります?」

「わ、分かってるよ!バカにするなよ!貸し出し責任者ってことだろ」

「はぁ…」

ローンチとはサービスなどの『開始』を意味する言葉である。現在のところaman.comはKマートの勢力圏である荊州での営業は行っていない。その荊州でのサービス開始の責任者が曹仁なのだ。曹魏カンパニーが進める「荊州エリア営業開始プロジェクト」のプロジェクトリーダーだと考えてもいいだろう。

「この写真、どうせ劉備が曹魏カンパニー顧問だった時代の写真だろう!?」

劉備は曹魏カンパニーの顧問をやっていたのだ。幹部の1人である曹仁と知己の間柄であってもおかしくはない。しかし、こんな反論も諸葛亮にとっては想定問答の1部である。

「劉備さん最近このくらいメタボってますよね。ストレスで白髪も増えたとか」

そう言われて、蔡瑁は諸葛亮の手からスマホを奪い取って写真を凝視する。確かに、体型や頭髪に混ざる白髪の割合は今の劉備と酷似しているように思えた。

「劉備が曹魏カンパニーの顧問だったのは10年前です。そのころはもっとスリムで、健康診断で引っ掛かることもなかったそうですよ。昔はバリバリの営業マンで、すげーイケメンだったって噂もあるじゃないですか」

それを言われた蔡瑁は、Kマートで社員向けにやっている健康診断の結果について劉備と話したことを思い出した。

「そういや今年は『ガンマGTPがやべぇ』って苦笑していたなぁ…」

写真を見てから一気に弱気になった蔡瑁を見て、退き時だと悟った諸葛亮は話をまとめにかかった。

「写真はあとで転送しときますね。で、株を売る話はショートノーティス案件でスケジュールバッファが無いので、クライアントの気が変わらない内に、早めにDMしてくださいね。スケジュールバッファって分かります?」

「時間がないから早急に決断しろってことだろ」

「知らない言葉は知らな……、いや正解ですね」

「今バカにしようとしたろ!」

蔡瑁は落ち着くと頭は回らない方ではないのに、勢いに飲まれるとワケが分からなくなる残念な人材である。諸葛亮からすれば、思いついたカタカナで適当に煽っておけば、思い通りに話を進められるカモでしかないのだ。


蔡瑁との話し合いが終わって外に出ると、龐統からLI〇Eのメッセージが届いた。龐統は現職公務員であり、その立場を使って曹仁との接触を試みていたのであった。

龐統「曹仁にKマート新野の株主名簿渡せたお」

諸葛亮「今どきその語尾はねぇよ」

ほくそ笑みながらツッコミを入れる諸葛亮であった。

~続く~

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