意識高い系諸葛亮~プロローグ~
三国志の世界観をムチャクチャにぶっ壊した自己満ノベルです。
※旧版はほぼ会話オンリーで進めようとしたのですが、挫折したため本稿にリライトしました(登場人物多すぎてムリ)。今後はこちらの方式で書き進めたいなぁなんて考えています。
諸葛亮曰く「自分をブランディングすべきなんだよね」
西暦206年頃、襄陽のス〇ーバックスで、司馬徽(しばき)の主催するSNSグループのオフ会があった。参加者は4人。グループ主催者の司馬徽(しばき)、龐統(ほうとう)、徐庶(じょしょ)、そして後の世に諸葛孔明として知られる諸葛亮(しょかつりょう)であった。
エスプレッソを一口含んでから諸葛亮は切り出した。
「なんか最近、CGデザイナーやってるのもダルくなってきてさ…」
彼はSNSで絵を描いて小遣い稼ぎをしている穀潰しニートだ。「俺は大物になるから」と真面目に農業をしている弟のスネをかじって生きている。まずまずの名家に生まれ、その待遇を謳歌しているとも言える。そんな諸葛亮の発言を聞けば、「いい加減就職したらどうか」なんて説教をしたくなるのが普通だ。しかし、そんな常識的な友人とは既に縁が切れている。
「へぇ、勿体ないな。才能あるのに。だいたいどの絵も『1万いいね』くらいつくだろ」
グランドサイズのアイスコーヒーをがぶ飲みしながら龐統がそういった。
「亮ちゃんの萌絵は僕も好きだけどなー」
フルーツのフラペチーノをかき混ぜながら徐庶もそれに同調した。諸葛亮の周囲にはもはやこういうイエスマンしか残っていないのだ。
「才能あるのは俺も分かってるよ。このまま描き続ければ絵師で5本は稼げる。でもパッションのベクトルが違うんだよね。もっとなんかこう、ビッグでイノベーティブなデザインがしたいんだよ俺は」
そう言った諸葛亮に龐統が聞いた。
「ビッグでイノベーティブねぇ。具体的に何かあるのか?起業でもするか?」
「起業ってのもアリだけど、そういう既存のコンセプトに捉われたくないんだよね。だから、国家とか、人々の価値観とかそういうものをドラスティックに変革する。それが俺のデザインかなって思うんだよね」
そう返答してから諸葛亮は司馬徽に目を向ける。
「……」
司馬徽は無言でタブレットを触っていた。彼の日課はSNSで1日3千回「いいね」を押すことだ。そんな日課だから口を開いて何かを語っている暇がない。常時スマホかタブレットを見ながら、「いいね」できるネタを探しているのだ。
「国家とかそういう規模の話なら、曹魏カンパニーに就職すんのがいいんじゃないの?もはやあそこは国家そのものだよ」
徐庶の言ったとおり、現代の中華で覇権を握っているのは曹操(そうそう)率いる曹魏カンパニーだ。曹魏カンパニーは曹操の幼名である阿瞞から名前をとった「aman.com」という通信販売事業を基幹事業とする巨大コングロマリットで、物流を支配することで官民を支配し、皇帝すらも跪かせて傀儡化している。
「俺もそう考えてメリデメをサマったんだけどさ、今から大企業に入ってもイニシアチブとるの無理くね?それにさ、社長の曹操の考え方が古いんだよ。やってる商売は新しく見えるけどさ」
そう答えた諸葛亮に龐統が反論した。
「でも、独立したところで、曹魏カンパニーに歯向かったら潰されるだろ。この近辺じゃ孫呉HDも結構勢力伸ばしてきてるし、舵取りが難しすぎて不可能だろ」
現在、曹魏カンパニーが中華の最大勢力なのは間違いないが、勢力圏(営業エリア)は人口密集地の河北・中原(黄河の中下流域とその北側)に限定されている。中華全土の北半分を支配しているに過ぎない。逆を言うと、南部各地にはまだまだ抵抗勢力がいるのだ。
その南部抵抗勢力の代表格が江東エリア(中華の南東海岸沿い・のちの『南京』周辺)を勢力圏とする孫呉ホールティングスだ。こちらは「孫呉警備保障(そんごけいびほしょう)」という民間警備会社から発展した巨大グループである。警備サービスと地域情報提供サービス「Hakhoo!」を基幹事業としている。
ちなみに、諸葛亮らの住んでいる襄陽は地理的に中華の中央にあり、北側に曹魏カンパニー、東側に孫呉ホールディングスの勢力圏があるという「狙われやすい土地」と言える。しかし、諸葛亮はそこに活路があるとも考えていた。
「曹魏カンパニーはそうだろね。でも孫呉HDはネゴ次第でどうにかなるっしょ」
それを聞いた徐庶が食い気味にたずねる。
「どゆこと?」
「孫呉HDは曹魏カンパニーと対抗したいみたいだから、そこに有用な存在だってアピールできたら、タスクフォース的なアライアンスには持ち込めるんじゃないかって思うんだよね。この襄陽周辺を曹魏カンパニーに取られるくらいなら、アライアンス組んだ勢力に支配させた方がマシって考えるハズなんだよ」
その時、司馬徽の「いいね」ペースが上がった。諸葛亮の意見に大きく同調しているらしい。相変わらず無言だが、賛成か反対かは非常に分かり易い御仁だ。
だが、龐統はまだ食い下がった。
「でもよ、俺達が独立したところで孫呉はマトモに話を聞いてくれねーぞ」
「だから、話聞いてくれそうなヤツを担ぎ上げちゃえばよくね?」
「あ、分かった。最近落ち延びてきた有限会社劉備組の社長さんを利用するってことでしょ?」
徐庶の発想に諸葛亮はわざとらしくニヤリと笑った。
「イグザクトリー。皇帝の血縁者だしね。使える権威は使えばいい」
劉備(りゅうび)は曹魏カンパニーの勢力圏となっている河北エリアで雑貨店チェーンを経営していた男である。ホントかウソかは分からないが、皇帝の血縁者を自称している。劉備は最近曹魏カンパニーの勢力拡大に押される形でビジネスの継続が難しくなり、親戚を頼って南に落ち延びてきたのだ。
「で、劉備組に入り込んでスムーズにイニシアチブ握る方法を考えたのよ。そのためには、やっぱ俺達が自身をブランディングしないといけないんだよね」
いきなりブランド論の話が出てきたため、徐庶は困惑して聞いた。
「ブランドってなんで?」
「だって劉備組って何つかさ、体育会系バカじゃん。今どき藁製品中心の生活雑貨店なんて流行るわけねーよ」
それを聞いた徐庶と龐統はうなずきながら声をあわせて言った。
「分かるー」
「だからさ、上手いことポジションを得られるようなスキームを考えないと、俺らみたいなブレイン型人材は社内で叩かれて終わっちゃうのよ。でも逆言えばさ、バカだからブランドには弱いワケじゃん」
意識高い系特有の偏見に基づいた理屈だが、説得力はあったようで司馬徽もうんうんと頷きながら「いいね」を連打している。
「でさ、色々考えたんだけど、どうよ俺たち3人で劉備組乗っ取っちゃわない?3人でシナジー発揮してクリエイティブにやっていこうよ」
「アグリー!」
2人はノリ良く答えた。諸葛亮ほどではないが、徐庶も龐統もプライドが高く「人生の一発逆転」にあこがれているのだ。面白い話が来たら乗ってみるしかないという点では、彼らも同じ穴のムジナである。
「よし、じゃ手始めに、俺と龐ちゃんはブランディングのために、自分のキャッチフレーズを作ろう。俺はCG屋アカウントの『伏龍』をそのまま使うからいいんだけど、龐ちゃんも隠れた大器感のあるキャッチーなの作ろう。で、ジャストアイディアなんだけど『鳳雛』ってどうかな?」
「鳳凰の雛ってことか。風呂敷広げすぎな気もするが…」
「ダイジョブダイジョブ。それくらいの方が話題性あっていいんだよ。伏龍と鳳雛のセットでプッシュしていこう。んじゃ司馬徽先生、SNSでそれを拡散して貰えません?すげぇ奴らがいるって感じでバズらせて欲しいです」
テンションの上がった諸葛亮が司馬徽に無茶振りをした。しかし、司馬徽もテンションが上がっているようで、コクコクと頷きながらサブアカウント管理アプリを起動して工作を始めた。
そこで、1人放置された格好になった徐庶が聞いた
「ねぇねぇ僕は僕は?」
「徐ちゃんはあんまそんなキャラじゃねぇし、俺らの中じゃ体育会系ノリもできる方でしょ。だから、徐ちゃんは劉備組にアウトバウンドでダイレクトマーケティングする役割にアサインしたいんだよね」
「ふーん。で、何を売ればいーの?」
「売るってか、コンサル契約取ってほしいのよ。『敵対的買収をしようと曹魏が動いています。対策しないとダメですよ』って劉備を焚きつけて、契約したら阻止する方法を伝授するって流れにして欲しいんだ」
アイスコーヒーの氷を噛んでいた龐統が、それを聞いて眉間に皺をつくった。
「そんな動きがあるのか?聞いたこともないぞ」
龐統は3人の中で唯一定職を持っており、地元の公務員である。産業振興に関わる部署にいるため、営業拡大を目指す曹魏カンパニーの動きには詳しいのだ。
だが、諸葛亮はそれを当然ながら見越していた。
「ないよ。そういう動きをさせるんだよ俺らで」
徐庶が不安そうな表情を浮かべる。
「それって、なんていうのかな、アレだよね」
「そう、マッチポンプ」
「まじで僕がそれやんのぉ……」
~続く~
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