スタッツから見た久保建英(久保個人編/シーズン中盤)
以前書いた、久保建英とマヨルカの分析記事の続きです。今回は、久保建英の個人スタッツに焦点をあてて、現状分析を試みます。(ちなみに、直近のマヨルカのチーム分析はコチラです)
※今回の記事はラ・リーガ1部26節終了時点のデータを用いています。データはwhoscored.comから拝借しています。
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久保建英の近況
最初に久保選手の近況を簡単に紹介します。
前回の記事をUPした10月末以降、久保はスタメンに定着し、13節のビジャレアル戦ではリーガ初ゴールを挙げるなど調子が上向いてきました。(初ゴールは下記参照。何度見てもいいですねぇ)
しかし、シーズン開幕当初は負傷状態でメンバーから外れていたクチョ・エルナンデスが年末に復帰した影響で、1月中旬のバレンシア戦から2月中旬のアラベス戦まで途中出場が5試合続きました。
クチョ・エルナンデスは現在20歳で、コロンビアU20代表に選ばれているフォワードです。彼の本所属はワトフォードで、昨年は19位で降格してしまったウエスカにレンタル(34試合出場で4ゴール3アシスト)、今年はマヨルカにレンタルと「降格候補チームレンタルで武者修行(苦行?)」をさせられている若手です。(余談ですが、ワトフォードも不調で降格争い中です)
クチョ・エルナンデスは攻撃重視型の選手(シャドーストライカーっぽい感)ですので、推測ですが「守備バランスを考慮すると、久保との同時起用は危険」とモレーノ監督は考え、去年の実績からクチョを優先起用したのだと思います。
そんな事情から一時的に出場時間を減らした久保でしたが、25節アウェイのベティス戦で、久保とクチョを同時起用したら予想外に攻撃が上手く運び、3-3の引き分けと善戦しました。(ハイライトは、YoutubeのLaliga公式リプレイでご覧ください)
この試合で1点ずつGETした攻撃陣3人の頭文字を取って、「BCK(ブディミル、クチョ、久保)」なんて持てはやす向きもあり、期待が高まっています。3人に攻撃を任せて、他の選手がサポートに徹するようなサッカーの方がバランスもとり易そうですし、26節ヘタフェ戦でもスタメンでしたので、今後は久保がスタメンに戻るのではないかと思います。
久保建英の直近のスタッツ
前置きが長くなりました。久保建英の個人スタッツを見ていきましょう。出場時間やゴール数から行きます。
※11~26節のデータについては、通期の値と前回記事で紹介した1~10節の値から、筆者にて逆算しています。
先発 出場 |
途中 出場 |
出場 時間 |
平均 評価 |
ゴール | アシスト | |
1~10節 | 2 | 6 | 384 | 6.48 | 0 | 1 |
11~26節 | 10 | 5 | 965 | 6.63 | 2 | 1 |
通期 | 12 | 11 | 1349 | 6.59 | 2 | 2 |
一目瞭然で先発出場機会が増え、出場時間も激増しました。ゴールやアシストの数字も出ていますので序盤戦に比べれば良い状態になっていると言えるでしょう。続いて攻撃関連の指標をピックアップします。(※本数や回数は90分換算したデータです)
シュート 本数 |
キーパス 本数 |
パス 本数 |
パス 成功率 |
ドリブル 回数 |
ドリブル 成功率 |
タッチミス 回数 |
被タックル | |
1~10節 | 1.4 | 0.5 | 20.2 | 62.8% | 4.7 | 45.0% | 1.9 | 2.3 |
11~26節 | 1.9 | 1.6 | 25.5 | 71.7% | 4.6 | 46.0% | 3.6 | 1.7 |
通期 | 1.8 | 1.3 | 24 | 69.2% | 4.6 | 45.7% | 3.1 | 1.9 |
タッチミス回数を除いて、順調に数値が改善しています。とくに、パス関連の指標が向上しているのは良いですね。前回記事で「修正すべきだ」と指摘したパス成功率が7割近い値に改善されています。パス総数が増えた上で、成功率も上がっているのですから大したものです。記事で指摘した甲斐がありましたね(何様だ)。
加えて、キーパス本数が序盤戦に比べて約3倍になっているのは驚きです。マヨルカのチーム内で見ると、90分あたりのキーパス数で久保より上にいるのはサルバ・セビージャ(90分あたり2.4本)だけです。ただし、セビージャはセンターハーフというポジションでパス回しの根幹を担っていますので、パス本数が1試合あたり56.6本と多いです。(ちなみにチーム分析記事では、これがマヨルカの癌だと考察しています)
久保の倍以上のパス本数なのですから、その中に含まれるキーパスも多くなって当然です。パス本数に対するキーパスの割合で言えば、久保が“実質"チーム内1位でしょう。
さらに上を目指すために
上記したスタッツを見る限り、「久保はラ・リーガ1部の標準的アタッカー水準には達しつつある」と言った状況でしょう。18歳の日本人プレイヤーが、ラ・リーガ1部のデビューシーズンでこの成績なのですから、感嘆すべきことです。
しかし、私は敢えて、「もっと上を目指しましょうよ!」と言いたいです。私も、おそらく久保に注目している日本のサッカーファンも、見たいのは「久保がラ・リーガ1部で通用している姿」ではなく「久保がレアル(等メガクラブ)で、勝負を分けるような存在になっている姿」です。レアルに戻って定位置を確保し、欧州サッカーの最上層で活躍しているところが見たいのです。
ということで、今回は「次に久保が目指すべきところ」をスタッツ面から考えてみたいと思います。やり方としては、「次に久保が目指すべき水準にある」と私が勝手に考えている選手と比較します。その選手とは『ラ・レアル』ことレアル・ソシエダのミケル・オジャルサバルです。
※ミケル・オジャルサバルはこんな顔
¡Oyarzabal marca su 6º GOL en #LaLigaSantander! ????#RealSociedadBarça pic.twitter.com/QfmXKkl5vo
— LaLiga (@LaLiga) December 14, 2019
レアル・ソシエダは現在リーガ6位と善戦しています。加えて、準々決勝でレアル・マドリード、準決勝でオサスナを下して国王杯決勝進出も決めました。そんな好調ソシエダの攻撃陣を牽引しているのが、オジャルサバルです。彼はソシエダユースからの生え抜きで、若干22歳ですが既にキャプテンマークを巻いています。スペインA代表にもなっており、ユーロ2020予選でも活躍していました。(年齢的には東京五輪にも出られるますが、どちらの代表に名を連ねるのやら…)
プレースタイルは良い意味で万能型のウイングです。最近は左ウイングが主戦場ですが、元々はトップ下だったので真ん中もできます。後方に降りてきて組み立て参加したり、華麗なドリブルで抜いていったり、豪快なロングシュートを蹴り込んだりと何でもできるタイプで、久保とは似たプレイスタイルと言えるでしょう。ただ、パワー面と上背があるのは久保との相違点ですね。ヘディング争いを苦にしない印象があります。次代のサッカー界を担う『若手超有望株アタッカー』と言えるでしょう。
細かいスタッツの比較前に、オジャルサバルの今シーズンのゴール数&アシスト数を紹介します。リーガデビューから今期で5シーズン目となるオジャルサバルの成績は24試合出場7ゴール6アシストです。では、久保の11~26節の値とオジャルサバルの通期の値を比べます。(データの並べ方としては少々卑怯ですが、目的は久保の今後をイメージすることなのでご容赦ください)
シュート 本数 |
キーパス 本数 |
パス 本数 |
パス 成功率 |
ドリブル 回数 |
ドリブル 成功率 |
タッチミス 回数 |
被タックル | |
久保建英 11~26節 |
1.9 | 1.6 | 25.5 | 71.7% | 4.6 | 46.0% | 3.6 | 1.7 |
オジャル サバル 通期 |
2.1 | 1.5 | 30.3 | 76.6% | 3.4 | 67.6% | 3.0 | 1.8 |
シュート本数やキーパス本数という点では、あまり差はありません。決定的に違うのは、成功率です。オジャルサバルの方が回しているパスが多く、さらに成功率は5%高いです。ドリブルの方は、回数自体は久保の方が多いですが、ドリブル成功率に大きく差があるため、ドリブル成功"数"だとオジャルサバルに抜かれます(久保2.1回、オジャルサバル2.2回)。タッチミスに関しても、ボールタッチ数の累計データが無いので推測ですが、オジャルサバルの方がボールタッチ数は多いはずですから、タッチミス発生率を計算すれば久保の方が高いと考えられます。
「チャンス作ってる数が一緒なんだから、成功率なんてどーでもイイじゃん」という意見もあるかと思いますが、私はそうではないと考えます。なぜなら、サッカーというスポーツの性質上、成功率が高まると失敗率=ボールロスト率が低下するからです。高い精度のプレイ、あるいは正しいプレイ選択ができた結果、オジャルサバルは少ないボールロストで多くのチャンスを作り出し、ゴールやアシストという、目に見えた結果を出しているのです。
逆に言えば、久保はまだまだ無理なチャレンジをしているとも言えます。「無理そうなパスやドリブルでも、久保がやらないことにはチームとして攻撃の手がない」というマヨルカのチーム事情がマイナス要因なのは事実ですが、多くボールロストして、敵にボールを献上するのが褒められたことでないのもまた事実です。
実際に、中盤に降りてきてボールを貰った時に相手を華麗にかわそうとして失敗し、失点に繋がったシーンもありました。こういったリスクが多いと、安心して起用できる選手ではなくなってしまうのです。
つまり、久保がオジャルサバルのような「リーガ1部を代表する若手有望株」になるには、プレー精度のさらなる改善が必要でしょう。あるいは、成功率の高いプレイを選択する判断力を磨くことが必要なのかもしれません。
まとめ
私はオジャルサバル並の数字を、今シーズン後期の久保には期待しています。こういった値を叩き出さないとレアル・マドリードに戻れないからです。ソシエダ生え抜きのオジャルサバルと違い、本所属レアル・マドリードの久保は抜きん出た活躍をしないと、レンタル武者修行がループするだけです。場合によっては、マヨルカよりもっと活躍しにくいクラブにレンタルされる可能性だってあるのですから、「いつでもマドリーに帰れますよ」とアピールするには、早急に数字を上げることが必要なのです。
久保のスタッツがさらに向上し、ゴールやアシストが増加し、それによってマヨルカが残留を決められれば、リーガ1年目としては上々の結果だと言えます。そうなることを切実に期待しています!
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