スタッツから見た久保建英(チーム編/シーズン中盤)
以前書いた、久保建英とマヨルカの分析記事の続きです。今回は、所属するチームであるマヨルカの現状を再分析してみます。(シーズン中盤の久保個人スタッツの分析はコチラ)
※今回の記事は26節終了時点のデータを用いていますが、エイバル対ソシエダが延期(ゴミ処分場火災の影響とか)されたままのため、この2チームだけ25試合分のデータです。
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ある種『妥当』な状況にあるマヨルカ
最初に、今のマヨルカの状態を簡潔明瞭に表現する四字熟語があるので紹介します。それは『降格危機』です。
ラ・リーガ1部はシーズン終了時に下位3チームが2部に降格します。18,19,20位がアウト、17位以上がセーフです。26節終了時点でマヨルカは勝ち点22の18位ですから、このままだと2部降格となります。
ここ5年の平均だと勝ち点34あたりがセーフラインの目安ですので、最低でも残り13試合を3勝3分7敗くらいで乗り切らないといけません。(現17位のセルタが勝ち点25ですので、もう少し上積みしないと安心はできない感アリ)
ただ、予算額からすると、この結果はある種順当かもしれません。先日公開されたラ・リーガ1部のクラブのサラリーキャップ額(※1)を元にすると、マヨルカが人件費として使える予算は0.34億ユーロ(約41億円)で20クラブ中最下位です。この金額は、バルセロナの6.56億ユーロ(約785億円)、レアル・マドリードの6.41億ユーロ(767億円)の19分の1に過ぎません。良い選手、良いスタッフを引き留めるだけの予算が無いのですから、苦戦は必至と言えます。
ちなみに、マヨルカの人件費予算41億円というと、選手で言うとメッシ0.5人分、監督で言えばモウリーニョ1人分くらいだと推定されます。(諸説ある推定年棒の話なので参考まで…)
(※1)サラリーキャップとは財政規律を高めるために、協会側から設定されるクラブ人件費の上限額です。協会に会計帳簿をチェックされた上で、「あなたのクラブは裕福(貧乏)だから、人件費に〇〇円使っていいよ」と設定された金額を指します。
貧乏なりに頑張っているチームと比較してみる
サラリーキャップと実際の順位を比較した際に、「健闘している」と言えるのはヘタフェとグラナダです。この2チームとマヨルカを今回は比較してみたいと思います。
基本成績(~26節)
サラリーキャップ 金額 |
サラリーキャップ 順位 |
実際の順位 | 勝ち点 | |
ヘタフェ | 0.64億ユーロ (約77億円) |
12位 | 4位 | 45 |
グラナダ | 0.38億ユーロ (約45億円) |
18位 | 9位 | 37 |
マヨルカ | 0.34億ユーロ (約41億円) |
20位 | 18位 | 22 |
上記表の通り、サラリーキャップ額においてヘタフェはマヨルカの1.9倍程度ですが、成績はなんと4位で、このまま行けばUCL出場権ゲットです。グラナダはマヨルカと同じく昇格組で、予算的なサイズもほぼ同じですが9位です。この2チームは予算額の割に、滅茶苦茶頑張っていると言えるでしょう。
次に、スタイルを比較するために、パス関連スタッツを比較してみましょう。ちなみに、以下の表においての本数は1試合あたりの平均値で、ロングパスとショートパスの境目は距離25ヤード(約23メートル)です。
チームスタッツ抜粋(パス関連)
パス成功率 | ロングパス 総数 |
ロングパス 成功率 |
ショートパス 総数 |
ショートパス 成功率 |
|
ヘタフェ | 61.5% | 80.1 | 37.6% | 213.8 | 70.5% |
グラナダ | 72.2% | 65.2 | 41.1% | 263.0 | 79.9% |
マヨルカ | 76.6% | 52.3 | 43.6% | 304.1 | 82.3% |
パス成功率で言えば、マヨルカはむしろこの2チームに勝っています。マヨルカのショートパス成功率などは、82.3%という驚くべき値です。逆にロングパス総数52.3というのは、20クラブ中最少タイ(もう1チームはレアル・ソシエダ)です。続いて、シュート関連のスタッツも確認してみましょう。
チームスタッツ抜粋(シュート・被シュート関連)
シュート数 | 枠内 シュート数 |
被 シュート数 |
|
ヘタフェ | 10.4 | 3.5 | 7.5 |
グラナダ | 10.3 | 2.9 | 12.0 |
マヨルカ | 10.3 | 3.1 | 13.1 |
シュート数、枠内シュート数に、それほど大きな違いはありません。しかし、ヘタフェ比較だと被シュート数は大差です。ちなみに、ヘタフェの1試合あたりの被シュート数7.5はラ・リーガ1部20クラブの中で最低値(最優秀)です。
問題点①「チンタラし過ぎ」
パス成功数・成功率ともに、ヘタフェやグラナダに勝っているにも関わらず、マヨルカは「同数程度のシュートしか打てず、同数以上のシュートを受けている」という状況です。こうなっている原因ですが、私は全てが「チンタラし過ぎ」だからではないかと考えます。後方を中心に、ショートパスばかり回して、前線にボールを入れられていないのです。
この「チンタラし過ぎ説」を確認するために、ヘタフェとマヨルカのセンターバック同士を比較してみましょう。ヘタフェのセンターバックのカブレラは1試合平均で15.4本のロングパスを蹴っていますが。マヨルカのバリエントは4.6本、ライージョは5.5本しか蹴っていません。2人あわせてカブレラの3分2程度です。無難に近距離パスを選んでいる疑惑が深まります。
センターハーフ同士も比較すると対照的です。ヘタフェのアランバーリとマクシモビッチは共に1試合あたりのパス総数は20~25本に過ぎませんが、マヨルカのセビージャとババはそれぞれ48.7本と36.7本で、その内9割がショートパスです。無難に近距離で回しているだけの、かつての日本代表が目指していた(?)ような「俺たちのサッカー」の中毒患者疑惑が深まります。
こういった数値から、現在マヨルカの攻撃と守備において起きている問題を推定すると、以下の通りです。
- ボールを奪取しても、チンタラとショートパスばかり繋いで攻撃が遅くなり、シュートを打つ頃には相手ゴール前に人だかりができている。(⇒シュート数の割に得点が伸びない)
- ショートパスを繋いで一丁前にじっくり崩そうとした結果、逆に自分達の配置が崩れる。それにより、ボールロストから容易に決定機を作られてしまう。(⇒被シュート数&失点数増)
ヘタフェの試合を見ていると分かり易いですが、彼らはディフェンスラインを高くした上で、ロングパスサッカーをやっています。中盤の密集陣形を維持したまま、攻撃は素早くシンプルに実行し、敵にボールを獲られると密集陣形で「刈り取り」、そしてまた素早くシンプルに攻める。何度もこれを繰り返して勝利をもぎ取るという、まさに弱者のサッカーです。
100%ヘタフェのスタイルをそのままやれ!とは言いません(本音では言いたいが…)。しかし、今のマヨルカに必要なのは、何らかの方策でギアを上げて、スピーディに攻めることだと思います。
問題点②「セットプレーから点が取れない」
もう1点、私がマヨルカの試合を見ていて問題だと思うのは、「マヨルカのセットプレーは、ほんとに怖くねぇな」ということです。セットプレーからゴールの生まれる気配が全くありません。ということで、セットプレーからどれだけゴールを得たかデータを調べてみました。
セットプレーからの得点数(26節まで)
1位 | バルセロナ | 10 |
1位 | セビージャ | 10 |
3位 | ヘタフェ | 8 |
3位 | エイバル | 8 |
5位 | レアル・マドリード | 7 |
5位 | ソシエダ | 7 |
5位 | ベティス | 7 |
5位 | レバンテ | 7 |
5位 | グラナダ | 7 |
10位 | バレンシア | 6 |
10位 | アトレティコ・マドリード | 6 |
10位 | オサスナ | 6 |
10位 | アラベス | 6 |
10位 | セルタ | 6 |
15位 | エスパニョール | 5 |
15位 | ビジャレアル | 5 |
15位 | バリャドリード | 5 |
15位 | レガネス | 5 |
15位 | ビルバオ | 5 |
20位 | マヨルカ | 1 |
「26試合で1点ってオイ…」と頭が痛くなりますね。「逆に、この1点はどの試合で取ったのだ?」と気になったので調べてみると、1月のバレンシア戦の先制点でした(下動画0:40~)。マヨルカの今シーズンのセットプレーからの得点はこれ1つなのです。
どうしても守備的に試合を運ばないといけない弱小チームにとって、本来セットプレーは有効活用すべきツールです。ヘタフェ、グラナダ、レバンテといった、予算サイズからすると健闘しているクラブは、どこもセットプレーを得意としています。マヨルカも、もう少しセットプレーで点が入るようにテコ入れした方が良いのではないかと思います。
セットプレーで点が入るには、①キック精度、②ヘディングの強さ、③こぼれ玉に反応する反射神経、といった要素が必要ですが、②ヘディングの強さや、③こぼれ玉に反応する反射神経といった点においては、そこまで大きな差があるとは思いません。問題は①キック精度です。
マヨルカのセットプレーのキッカーはセビ爺こと、サルバ・セビージャが担当することが多いですが、彼のキック精度はお世辞にも高いとは言えません。昇格プレーオフのデポルティボ戦で決めたフリーキックの印象が強くて(見たい人はココの20秒~)、FKをそのまま任されているのかもしれませんが、そろそろ冷静にキッカーを育てるなり、獲得するなり、レンタルで来ている日本人の若者に託してみるなり、といった英断をしてもよいのではないかと思いますね。
まとめ
マヨルカが残留するには、「縦に素早い攻撃」と「セットプレーの質向上」が必須かと思います。この2点を重視する上では、久保建英という駒は「使える駒」だと思いますので、シーズン後半のモレーノ監督の采配に期待したいですね。
えっ、私が監督をやらないのかって? オファーは随時受け付けておりますよ!(S級ライセンスは持っていません)
ディスカッション
コメント一覧
タケ本人の記事はまだかーい‼️
カペッロさん、ご愛顧ありがとうございます!
現在進行形で書いてます!しばしお待ちやがってください!
(データを見ていると、クラブの方が色々イチャモンつけるアイデアが浮かんだので、見切り発車で公開したのです・・・)
※3/7正午追記
個人記事を書きました!
スタッツから見た久保建英(久保個人編/シーズン中盤)
カメ吉さん、こんにちは(日本では『こんばんは』ですかね)
お陰様で、今期ようやく敵地で勝ち点3を取ることができました。
これも単衣にロングパスのアドバイスのおかげだと思っております。
ありがとうございました。
(今日はご指摘のあった縦のスピードを意識したつもりです、いかがでしたでしょう?)
これからもいろいろと参考にしていきたいと思いますので、記事よろしくお願いします。
モレーノ監督?、アウェイでの初勝利おめでとうございます。
今日はいつもよりアグレッシブに前に前に進んでいたので見ていて楽しかったです。
参考にしていただけたようで、光栄の至りです。今後もご愛読ください!
(個人的にはイドリスババが踏ん張りを利かせていたように見えました)
ところで監督、発信いただいたIPアドレスを調べると”O〇N”って出たんですが、どちらにお住まいですか?