セリエA移籍を推進する新税制

クリスティアーノ・ロナウドの移籍を皮切りに、セリエAへ移籍する有力選手が増加しているように思います。
今回はその背景となっているであろう「イタリアの税制」を取り上げます。

イタリアの税制変更の概要

イタリアで2020年の年初から導入予定となっている新税制では、国外の優秀な人材がイタリアで経済活動するのを促進するために、高額所得者の減税が盛り込まれる予定です。
その減税対象となるのは、以下の3つの条件全てを満たす人です

条件A:イタリア移住前に2年以上イタリア国外に居住していること
条件B:イタリア移住後、最低2年はイタリアに居住すること(2年未満で出国すると返納)
条件C:2020年以降にイタリア移住していること
※対象者の国籍は問わない

富安を例にすると、彼はイタリア居住実績がありませんので条件AはOKです。
条件BもOKです。もし来夏にリーガやプレミアに引き抜かれても差額返納すりゃいいのです。
しかし、移籍自体が2019夏だったので条件Cが無理です。
(ただ、抜け道が存在する可能性があります。詳細は後述)

逆に、日本育ちの日本人選手が来年夏にJリーグからセリエAに移籍した場合は条件を満たすと予想されます。

また、例えば2018夏にナポリからチェルシーに移籍したジョルジーニョや、ここ数年は中国で指揮をとっているカンナバーロなどが、もし来年の2020夏にイタリア帰国した場合などもA,B,C全てを満たすため、減税対象となります。イタリア人でも外国に2年以上居住しているならOKです。

さて、どれくらい税金が安くなるかと言うと、「移住後5年間、『源泉徴収前の給与総額』の50%が非課税扱いとなる」です。

つまり、給与総額が1億円だった場合、今までは1億円✖所得税率43%=税額4300万円だったんですが、この法律施行後は1億円✖50%✖所得税率43%=税額2150万円となるのです。給与総額が同じなら、税金が半分になるってことです。

実際どれくらい安くなる?

ただ、欧州サッカーにおいて(一般市民もそうらしいが)、契約は源泉徴収後の『手取り額』で結ぶのがほとんどです。
制度や税率が変わろうと、雇用者側(クラブ側)が手取り額を保証する形で契約するのです。

そのため、税制改革がなされても直接的に選手は儲かりません。
直接的に儲かるのは、税込み支払い額を安く抑えられるクラブ側なのです。

では、このクラブが支払う「税込み額」がどれくらい安くなるか考えてみましょう。

<手取り年棒10億円の選手の場合>

選手手取り額
(総支払額
-課税額)
クラブ側の
総支払額
課税対象額
(2019は総支払額と同)
(2020は総支払額の半分)
課税額
(課税対象額✖43%)
2019
年末まで
10億円 17億5400万円 17億5400万円 7億5400万円
2020
年以降
12億7400万円 6億3700万円 2億7400万円

つまり、クラブ側の負担は17億5400万円から12億7400万円と、4億8000万円も減るわけです。割合にして27%も減少することになるのです。
国境を超える取引の多いビッグクラブにとっては、まさに「天の恵み」と言えるでしょう。

抜け道について


上記した通り、これは2020年以降に移住してきた人が対象となります。なので、条文を真正面から解釈すると、2018夏に移籍してきたクリスティアーノ・ロナウドや、2019夏に移籍してきたデリフトやルカクなどは対象外となります。

ただ、未確認ですが「住民登録を遅らせる」という抜け道があるようです2020年の年明けまでは旧住所に居住したままにしておき、2020年になると同時に移住申請をすることで、制度の適用対象になれるそうです。
なので、富安もシントトロイデン時の住所に住民票を置いておき、2020年年始にボローニャに移住申請すれば、この制度の対象となるかもしれません。

ちなみに、もしこの抜け道が可能な場合、ユベントスではデリフト、ダニーロ、ラムジー、ラビオの4人が減税対象になります。ブッフォンは1年で帰ってきてしまったので条件Aが満たせず対象外です。

この4名はそれぞれ年俸が1200万ユーロ、700万ユーロ、700万ユーロ、400万ユーロです。
上記と似たような計算をすると、この4人への報酬支払においてユベントスが2020年以降浮かせられる金額は、なんと年間1440万ユーロ。日本円にして約17.3億円の減税になるのです。

これぐらい浮けば、大物選手をもう1名は獲得できそうですなぁ。

まとめ

私が中高生の頃は、セリエAが世界最高のリーグと言われていた時代でした。
サッカー漫画でも主人公が目指すのはセリエAでしたしね。草場道輝先生の『ファンタジスタ』とか。
(ちなみに私はヴァレンティノ監督が好きでした)

最近はユベントス以外の凋落が激しくて、どうにも熱が冷めてしまっているセリエAですが、これを期に盛り返してくれることを願っています。