フェニックスファイナンス-2章10『会議だよ全員集合』後編

2020年4月11日

2章10『会議だよ全員集合』後編


納得の表情を浮かべるソニアから、鷹峰はロゼに視線を移す。

「ちなみに、違法性の方はどうだ? 今出ている内容が露見した場合、バルザー金庫だけでなく、オプタ銀の評判が落ちるのは間違いないだろうが、大元であるオプタ銀の法的責任は追及できるのか?」

ロゼは顎に手をあてて、少し考えてから答える。

「現状では、オプタ銀行を法律的に追求するのは難しいです。違法な取立を指示していた証拠が残っていれば、犯罪教唆(違法行為を指示した罪)は成立しますが」

「さすがにそれを残すような馬鹿はやらないだろうな。ブロル・ベリタのスキャンダルのような、顧客情報の漏洩の方は?」

ロゼは首を横に振って即答する。

「道徳的には良くないですが、法律的にそれを問うのは至難ですね。加えて、そもそもがブロル・ベリタの『身から出た錆』という悪印象があるので、訴えるだけ無駄でしょうね」

確かに、裁判での心証は限りなく悪い。

「と言うことは、本丸でなくてバルザー金庫に対して訴訟を起こすか、『評判が落ちるぞ』とオプタ銀行を脅しつけるしかないか」

鷹峰は内容を反芻するかのように、ゆっくりと2,3度首を縦に振ってから次に移った。

「ハイディの金額試算の方はどうだ? どれくらいまとまった?」

「はーい。報告しますねー」

ハイディは元気よく返事してメモを取り出す。

「訴訟に賛同してくれた7ギルドでー、明確に過払いっていう金額は1億フェンほどですねー。それとは別に、無理矢理に奪っていった現金や金品が1.5億フェンほどですからー、合計すると2.5億くらいですー」

「あいつら1.5億フェンも強盗まがいのことしてるの?」

ソニアの驚きにハイディは苦笑を浮かべつつ頷いて肯定する。

「建物の損傷被害の方はどうだ?」

「金額の算定が難しいものもありますがー、建物や壊された商品の単純な修繕費を見積もると、合計で3千万といったところですー」

1.5億を奪い、3千万ぶち壊す。悪党としては爽快極まりない。

ハイディの説明が一段落したところで、ロゼが付け加えた。

「肉体的・精神的苦痛に対する賠償は、とりあえず1ギルドあたり2千万くらいが妥当ですね。また、海運ギルド『ホナシス』がサピエン王国のパモストン子爵から預かっていたゴブダーン織を強奪され、サピエンの港に入港禁止されてしまった件については、過去の判例から、ひとまず7千万フェン程度を営業妨害による損害額として計上すればよいと思います」

「賠償請求の総額は5億フェンに届かないくらいか。裁判費用ってどれくらいだ?」

「この案件なら、準弁護士の私でも弁護が担当できますから、訴訟手続きの費用だけですね。全部で10万フェン程度です」

それは安く上がって結構だ。

「コンサル料の報酬は、現金で取り返した分の25%くらいで契約したから、上手く行けば1億2千万フェンくらいか。もう少し上乗せしたいところだな」

「他にも被害者ギルドがいないか探してみる?」

と、ソニアが口にした時、カンカンとドアの呼び鈴を鳴らす音がした。


「お客さんですかねー?」

ハイディがそう言いつつ、入り口の方へ向かい、ドアを開けた。

「ああ、すいません。こんにちは」

ドアの向こう側には、大男が立って居た。身長は目測で2メートル程度もあり、おでこから上がドアの木枠によって見切れている。年齢は30歳前後と思われ、右手には今脱いだと思われるベレー帽が握られている。

「こんにちわー。あのー、失礼ですが、どちら様でしょうかー?」

「ムラーフ男爵の命で参りました。家人のアルトと申します」

ハイディの問いに対して、大男は柔和そうな顔でそう答えて、頭を軽く下げた。

「ドルミール草粉末を売って頂けないかというご相談に参りました」

アルトと名乗った大男の言葉を受け、「どうする?」という意を込めて、ハイディが鷹峰を見た。

ドルミール草粉末を売って欲しいという言葉に、「懸念していた貴族様のお怒りを買ってしまったかな」と鷹峰は考えつつ、応接セットの方を親指で指さした。

「立ち話もなんですのでー、あちらにどうぞー」

「ありがとうございます。お邪魔します」

ハイディに促され、アルトはドア枠に頭をぶつけそうになるのを中腰になって大げさに避けつつ入室して来た。それに合わせて、ハイディ以外のメンバーも応接セットに向かって移動を始める。

その時、鷹峰は後ろから服を引っ張られる感触を覚えた。

「ん?」

と呟きつつ振り返ると、先ほどの打ち合わせには参加せず、窓際でうたた寝をしていたシルビオがいつの間にか鷹峰の背後に立っていた。

「怪しい」

他のメンバーには聞こえないような小さな声でシルビオが言った。

「怪しいって、なにがだ? 身分か? ムラーフ男爵ってのが存在しないとか?」

「違う。おそらく、アイツ変化魔法を使ってるよ。さっきドアをくぐる時、大げさに中腰になったでしょ。あの時、ドアの木枠が歪んで見えたんだ。実体はもっと大きいんだと思う」

「なに?」

そう言いつつ、鷹峰は応接セットに向かって歩いて行くアルトの後ろ姿を再度視認した。

「実体はもっとデカイって、あれより大きい人間が……」

シルビオは鷹峰のセリフを遮るように真顔で言った。

「人間じゃないかもしれない」

つまり、正体は魔族と言うのか。

「なんとかして正体を明かすことはできないか?」

「相手に気付かれずに正体を見るってのは不可能だね。無理矢理魔法を解除することは可能だけど、その後に暴れられたらどうなるか分からないよ」

「だが、正体が分からないまま商談をするわけにもいかないだろ」

シルビオは眉間に皺を寄せる。

「確かにそりゃそうだね。じゃ、会話が始まったあたりで仕掛けるよ」

“仕掛ける"とは穏やかじゃない。

「可能な限り穏便に頼みたいんだが…」

「そいつは無理な注文だね」

シルビオの言葉に鷹峰は「なんとか穏当に終わるといいのだが」と軽くため息をついてから、応接スペースに向かった。

2章11前編に続く

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