今日から始める異世界M&A-1章9『美味しい投資にゃ罠が有る』

前回までのあらすじ

鷹峰は異世界の不良債権処理に首を突っ込んだことから、モルゲン遊興というカジノ運営ギルドの保有するを元カジノ不動産を使った荒稼ぎを思いついた。現在はならず者達に占拠されている元カジノ店舗を掃除し、高値で売ろうと鷹峰達は動き始めた。

1章9『美味しい投資にゃ罠が有る』

ルヌギア歴 1685年 4月5日 アテス 酒場『パルテノ』

「何やってんの?」

夕刻時、カジノの監視を終えて酒場に帰ってきたソニアが鷹峰に声をかけた。

鷹峰は裁縫道具を女将さんから借りて、自分のスーツの左肩を修理しようとしていた。

「見りゃわかるだろ」

修理しようと針に糸を通したまではよかったのだが、アームホールの縫い方が理解できず、生地を裏返したり、正しく繋がっている右肩と比較したりしているが、まさに糸口が掴めない。

「あんた裁縫できるの?」

「ご覧の有様だよ。修理屋に頼めって、諦めの神様がさっきから耳元で囁いてるよ」

「やったげるよ。貸してごらん」

ソニアの意外な一言に鷹峰は動きを止めた。

「なによ、そんなにアタシが裁縫出来るのが不思議?」

「いや失礼、お願いします」

「よろしい」

ソニアは鷹峰からスーツを受けとり、破れた箇所から縫い方を確認し、正常な右肩の生地をを軽くひっぱって縫目の強さを確認すると、迷いなく針を生地に入れた。

「なんでまたこんな服を直す気になったの? こっちの正装のコートとかマントを買った方がいいんじゃない? ワイシャツはそのままでも使えそうだしさ」

ソニアの質問に鷹峰が答える。

「この服は親父が仕事用にって、珍しく奮発してくれた一張羅でな。やっぱ仕事の勝負時には着たいなぁと思って」

「ってことは、あのカジノの件、見通しは立ったの?」

「ああ。あとは誰がバックか分かれば言う事無しだ」

針を進めながらソニアが答えた。

「バックは予想できたわ。意外や意外、おそらく大臣のビブランね」

鷹峰はぎょっとしつつソニアに聞いた。

「そいつはどうして分かったんだ?」

「今日の明け方頃、連中に差し入れを持って来た奴がいたの。こいつが見た事のある顔だったの」

「ビブランの部下とか?」

「そう。屋敷の使用人か秘書かってトコだと思う。金山防衛隊の時に、使者として何度か来たことが有って、それで顔を覚えてるのよ」

鷹峰は頷きつつ、質問を続けた。

「ちなみにビブラン大臣って金は持ってるのかい? 屋敷って言うからには資産家のようだが」

「何代も前から国の要職を担っている名家のご当主様だから資産はあるでしょうね」

「なにか、サイドビジネスをやっていたりするのか?」

ソニアは裁縫の手を止め、首を傾けて考えたが思い当たらない様子であった。

「とくに聞いたことは無いわね。口利き料で私腹を肥やす典型的な政治屋さんってイメージね」

鷹峰の頭の中で、予想がおおむね一本線につながってきた。

ニヤッと悪人顔で笑みを浮かべる鷹峰を見てソニアが言った。

「なに一人で薄ら笑いしてるのよ? ちゃんと説明して」

「ああスマン」

一息入れて鷹峰が説明を始める。

「まずマグナ会とやらがカジノを占拠している理由だが、これはたぶんビブラン大臣の依頼によるものだろう」

ソニアは裁縫の縫目と鷹峰の顔を交互に見つつ、耳を傾ける。

「では、なぜビブラン大臣があそこを占拠しておきたいのか。ってのについては、今日ハイディ、あのモルゲン遊興の経理の女の子に聞いた情報から推測できる。カジノの顧客リストと顧客別売上帳簿なんかが、まだカジノの中に残っているからだ」

「その顧客帳簿に、ビブランに不都合な内容が有るってこと?」

「たぶんな」

「でも、それなら帳簿を燃やしちゃえば済む話じゃないの?」

「詳しくは分からんのだが、特殊な魔法で施錠していて、簡単には開けられない金庫の中に眠っているらしい。無理に開けようとすると衝撃波が出るとかなんとか」

そこまで聞いてソニアはなるほどと納得顔になった。また針を進めながらふと言った。

「ちなみにビブランに不都合な事ってなんなの?」

「そこは予想でしかないんだが、可能性として大きいのは資金流用の証拠って線だな。明らかに大臣自身の収入・資産を超える金額がギャンブルに使われていて、国の金を私的流用していることがバレてしまうってパターン。あとは、ロゼから聞いたんだが、カジノで勝った場合の儲けって税金がかかるらしいから、脱税の証拠って線もあるな」

「納得。どっちだったとしても、ビブランらしいと思うわね」

と言ったソニアだが、また疑問顔を浮かべる。

「でも、それがどう儲けに繋がるの? マグナ会の連中を追っ払って証拠をゲットして、大臣を告発したって、名誉になってもお金にはならないわよ」

「その情報を高く買ってくれる人に売るんだよ。物件と帳簿をセットでな。そのためには一度マグナ会を追っ払って、証拠をガッチリ確保しないといけない」

「なるほど。ただ、今日カジノを監視してたけど、カジノ内に10人以上は居そうなのよね。私一人じゃ追っ払うのも荷が重いわ。だから、傭兵を雇うお金が要るんだけど」

「それ以外にも色々と金は要りそうだし、どっかから借りないとな」

「はい、できた」

ソニアがスーツの修復を終えた。上手く縫えており、左右の差も分からないデキであった。

「ありがとう。ホントに上手いもんだな」

裁縫セットを片づけながらソニアが言った。

「どういたしまして。で、借金のアテはあるの?」

「ああ、飛び切り笑い話にできるアテがある」


ルヌギア歴 1685年 4月6日 アテス ビブラン大臣の私邸

ビブランがたまの休日をゆっくり過ごし、昼酒をあおっていい気持ちになっていた時、使用人が来客を告げた。

「元金山防衛隊のソニア様と、もう一方見慣れぬ男性がお越しになっていますが」

ビブランはどうしようか悩んだが、用事も無かったので会う事にした。

応接間に入ると、椅子には鷹峰とソニアが座っていた。

「お休みのところアポ無しでお邪魔して申し訳ありません」

鷹峰が立ちあがって挨拶しようとしたのを手で制し、ビブランは対面に座った。

「ま、構わんよ。何用かな?」

「はい。例の債権回収です」

それを聞いてビブランが「おっ」と喜色を浮かべる。

「何件かまわっとるとは聞いておったが、どこか回収できそうなのか?」

「ええ、やっと1件見通しが立ちそうです」

「それはいい知らせじゃが、それでわしに何をしろというのじゃ?」

ビブランはテーブルの上の、龍の形をした陶器製の置物を撫でながら言った。

「債権回収を行うのに、土地の登記やら手付金やらで先立つモノが必要でして、ビブラン様に800万フェンほどお借りしたく存じます。2週間後に1000万フェンにしてお返しします」

いきなりの金の無心にビブランは困惑する。それを見とったソニアが口を開いた。

「債権回収が成功すれば、どうせあんたにも何%かマージンが入るんでしょ。それにこっちは2週間で25%の利子乗っけて返してやるって言ってるのよ。断る方がバカなくらい美味しい投資だと思うけどね」

ビブランは少しイラつきを表情に出しつつ、鷹峰に聞いた。

「本当にできるのか?」

「はい。2週間で稼ぎ出してお返しいたします。ダメだったらお城の債権回収から雑巾かけまで、なんでも請負いますよ」

「どうやってそんなに儲けるんじゃ?」

ソニアがそれを遮る。

「そいつは秘密だよ。それを教えちゃあんたや銀行サンが実行しちまうだろ。ま、あんたが貸さないってんなら、別の御大尽さんに声をかけるだけね」

大臣は顎に手をあて、少し考え込んでから決心した。

「わかった。返済期日は4月20日、返済金額は1000万でいいんだな? あとから法定金利がどうとか言うんじゃないぞ」

鷹峰は力強く頷き、ビブランの目を見て言った。

「ありがとうございます。期日までに必ずお返しします」

鷹峰とソニアは大臣から800万フェン(返済額は利子200万を加えた1000万)を借りることに成功し、屋敷を出た。

「アンタに言われた通りのセリフを言ったけど、なんであんなに上手く行くの? あの守銭奴がこんな簡単にポンと金を出すなんて」

「ソニアに馬鹿にされたからだよ。『お前にバカとは言われたくない』って顔してただろ」

「あー、なるほ……」

ソニアは台詞を途中で止め、鷹峰の背中にミドルキックを入れた。

「納得したけど、なんかむかついた」

~~続く~~

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