今日から始める異世界M&A-1章8『汚いカジノさんは好きですか?』

前回までのあらすじ

鷹峰は異世界の不良債権処理に首を突っ込むこととなった。モルゲン遊興というカジノ運営ギルドの債権を回収するため、鷹峰はならず者達に占拠されているという、元カジノ店舗に目をつけた。

1章8『汚いカジノさんは好きですか?』

ルヌギア歴 1685年 4月4日 アテス ヘルメース地区

「一目見れば分かるって、確かにそうだな」

閉店されたカジノの敷地面積は約1500平方メートル、建物は頑丈そうな赤レンガ造りの2階建てであった。

ただ、建物や庭の状態は、とても客を呼べるようなレベルではない。「閉店から2ヶ月でよくぞここまで汚損した」と言いたくなる惨状である。

カジノの派手な看板は穴をあけられて傾いた状態でかかっているし、入口横にはカードゲームや麻雀で使われそうな、緑のフェルトを貼られたテーブルが2台ほど打ち捨てられている。レンガの壁にはところどころ落書きがあるし、庭の雑草は膝丈くらいまで伸びている。リニューアルオープンするなら相当の手入れが必要だろう。

「広いわね。確かにこれが売れるなら、結構なお金になりそうだけど」

ソニアは素直に喜べないようではあったが、いくぶん期待を込めた口調で言った。

「立地や日当たりは文句無しだからな。しかし状態が酷いな」

そんな会話をしながら、2人でジロジロと建物を見ていると、後ろから声がかかった。

「おいアニさんら、何見てんだ? 何か用か?」

いかにもアウトローといった入れ墨男であった。筋肉質であり、喧嘩も強そうである。だが、ソニアはひるまずに言った。

「あんたこそ何か用? ここの住人?」

「おいおいアネさん誰に向かって偉そうに言ってんのか分かってんのかい? ここはマグナ会が借金のカタに預かってやってる物件だ。悪い事はいわねぇから、けぇりな」

男は睨みをきかせて言った。

「ああ、それはすいません。こちらが無知でした。さっさと退散します」

鷹峰はそう言ってソニアの袖を引っ張って、カジノから遠ざかっていった。

2人は男から見えなくなる距離まで離れ、路地に入って話を始める。

「マグナ会ってのは有名なグループなのか?」

「全然聞いたことが無いわ。でも、肉付きとか身のこなしの雰囲気なんだけど、ただのチンピラって感じでもないのよね。どこかの傭兵崩れかもしれないわね」

無名のグループではあるが、一定の戦闘力はあるのだろう。それゆえ排除が難しく、資産として売却することができていないのかもしれない。

「追っ払うのは難しいか?」

それに対してソニアはうーんと唸って考えてから答えた。

「建物内に何人くらいいるのか分からないから推測の域は出ないけれど、金山時代の仲間を集めればどうにかなると思うわ」

「そいつは良かった」

「でも、追っ払ったところで、こんなに荒れちゃった物件って売れるの?」

それは一理ある。いくらならず者を排除したとしても、住民の記憶に「荒れていた」というイメージが残っている限り、買い手はみつかりにくいだろう。購入後に、排除したはずのならず者が戻ってきて再度住み着き始めた、なんてことになった日には目も当てられないのだ。

「普通に考えるとその通りだ」

鷹峰は少々もったいぶってから言った。

「だが、客によってはそういうのを気にしないのも居る。だから、気にしない客に売り込めるセールスポイントが有ればいいんだが……」

「気にしない客って?」

「例えばその土地に城の衛兵達の宿舎を建てるとしたらどうだ? もしくは別のならず者で、大手のならず者グループの事務所を建てるのもいいかもな」

ソニアは納得した。

「なるほど。マグナ会って奴らを怖がらない人達になら売れるってことか」

「そういうこと。しかし……」

「売り込めるセールスポイントが無い?」

鷹峰は頷きで肯定を示した。

「やっぱダメじゃないの」

ヤレヤレと両手を挙げたソニアに鷹峰が言った。

「ただし、ちょっとつついてみたいトコがある。そのマグナ会とやらのバックだ」

「それはどうして?」

「ここは高級住宅街だろ。傭兵崩れだろうがチンピラだろうが、非合法な活動をする拠点としては不便だし、ただ占拠しているだけじゃ1文……、いや1フェンの得にもならない」

「確かにそうね」

この高級住宅街ヘルメース地区はアテス市街地の南東エリアの高台にあり、市場や歓楽街のある北西側エリアや、港湾地区のある西エリアへのアクセスは良いと言えない。アウトロー集団が活動の拠点とするのはいささか不自然だと言える。

「金が欲しいだけならさっさと自分達が退去して、モルゲン遊興に不動産を売却処分させ、売却で得た金を脅し取る方が確実だ。しかし現実はそうなっていない。つまり、この物件に『居座る理由』が何かあるハズだ」


ルヌギア歴 1685年 4月5日 アテス モルゲン遊興事務所

この日、鷹峰は1人で昼過ぎにモルゲン遊興を訪れ、再度ハイディと面会していた。

「今日はどうしましたかー?」

先日と同じ会議室に入って来るなり、ハイディは幾分フランクに話しかけて来た。

「例の物件見てきましたよ」

「どうでした?」

「あのままじゃ売れないでしょうね」

ハイディが肩を落として言った。

「ですよねー」

「ちなみに、あのマグナ会って連中を排除しようとはしたのですか?」

ハイディはコクリと小さく頷いてから答える。

「役所に相談はしたんですが、まともに取り合って貰えませんでしたー。それで、地元の警備ギルドから7,8人寄越してもらって追い出そうとしたんですが…」

「返り討ちにされたと?」

ハイディは頭をかきながら「面目ない」といった表情で言った。

「そういうことですー」

地元の警備ギルドの人たちがどの程度の力量を持っているのかは分からないが、やはりマグナ会の戦闘力はあなどるべきではなさそうだ。

「なるほど。で、ちょっと気になる事があってソニアと分担して調べているんですが、あのマグナ会ってのは何を”なりわい”にしてる組織なんですか? どうもあまり有名なグループでは無いみたいですし」

ハイディは共感したような雰囲気で身を乗り出し、いつもより小声で答えた。

「そうなんです。それがサッパリ分からないんですー」

意外な答えが返って来て鷹峰は当惑した。

「え? それじゃ、どうしてそんな人達にみかじめ料を払い始めたんですか?」

「ウチの社長から聞いた話ですけど、2年前頃、店舗への落書きとかー、店員への暴力とかー、他の客に喧嘩を売るみたいな嫌がらせが連続した時期があって、その時に客の一人からマグナ会を用心棒として紹介されたとのことでした」

「その紹介してきた人って誰です?」

首を横に振ってハイディは答える。

「それは教えてもらえなかったですー。ただ、当時は用心棒代よりその客の売上の方が高くて断れなかったって言ってましたから、結構なお金持ちの方だとは思いますねー」

その客が怪しいと鷹峰は感じた。

「カジノの顧客リストとか、顧客別の売上帳簿なんかは無いですか? 有ってもそういうのは見せて貰えないですかね?」

「いえー、有るには有るんですがー……」

「ですが?」

「カジノの中なんですー。占拠されたカジノの金庫の中」

鷹峰は直感的にその金庫が怪しいと感じた。

「その金庫はまだ残ってますかね? 乱暴に開けたり、持ち運びすることはできますか?」

「たぶん残っていると思いますー。金庫の場所自体隠していますしー、みつけたところで特殊な魔法施錠をしていますので、よっぽどの専門家じゃないと手出しはできないハズですー」

魔法で施錠とは面白い。開けたらモンスターが飛び出てくる宝箱のようなものだろうか。

「手出しできないってのは、どういうことです?」

「鍵をさしてから、規定の手順を守って開けないと、周囲に衝撃波を発するような作りになってますー。威力としてはそうですねー、鷹峰さんくらいの体格だと壁に叩きつけられる程度ですー。持ち運びも同じで、床下に隠してある魔法陣を解除しないと同じ結果になりますー」

鷹峰の生まれた世界に持ち込んだら、金融機関から富裕層にまで飛ぶように売れそうな優れモノの金庫である。泥棒にとっては堪ったものではないだろうが。

「ちなみに、それを解錠できるのは誰ですか」

「経理担当をしていた私と社長だけですねー」

鷹峰は概ね合点が行ってニヤッと笑った。

「なるほど。ちなみにあの物件、いくらくらいを提示すればそちらの社長サンは売ってくれますかね? 勿論今の占拠された状態でOKです。金庫もそのままで」


ルヌギア歴 1685年 4月5日 アテス フレグノッス弁護士ギルド

鷹峰はハイディに会ったその足でフレグノッス弁護士ギルドを訪れ、ロゼ=プリテンダを呼び出した。会議スペースに顔を出したロゼは明らかに警戒し、鷹峰の顔をじっとりと睨んだ。

「そんなに警戒するなよ。今日はホントに法律相談で来たんだ」

「あの件でどれだけ私が上からイヤミを言われたと思ってんのよ」

「そりゃお気の毒だが、俺の責任じゃねぇな。文句ならその『上』とやらに言うんだな」

ムスっとした顔で鼻を鳴らし、ロゼは鷹峰の対面に座りながら言った。

「準弁護士が雇い主の正弁護士に歯向かうなんて無茶言わないでよ」

「そうそう、この前気になってたんだ。その準弁護士ってのは何なんだ? オフレコなんだが、実は俺は日本人で、最近こっちに来たものだから分からない事だらけなんだ」

その質問がロゼ側の疑問を打ち消したようだった。

「珍しい名前だと思ってたんだけど、日本人だったのね。納得」

「で?」

「そっちの弁護士ってのがどんな資格なのか知らないけど、こっちじゃアカデミーを出て、クレア教会主催の法務試験に合格するとまず準弁護士資格が貰えるの。そこから実務経験を5年積んで、やっと正弁護士よ」

日本で言えば、公認会計士の資格に似ているかもしれない。試験をパスしてから規定年数の実務経験を経ることが資格取得の条件の1つである。

「準弁護士と正弁護士で、権利とか担当業務が違ったりするのか?」

「法律関連ギルドを開業するには正弁護士にならないとダメ。あとは、殺人・強盗なんかの凶悪犯の裁判や、複数の国家(クレアツィオン連合構成国)を跨ぐ裁判なんかを担当できるのも正弁護士だけね。他にも細々した違いはあるけれど、分かり易いところではそれくらいよ。ただ、実態として準弁護士は見習い扱いだから、ていの良い使いっぱしりなのよ」

ほうほう、と頷きながら鷹峰がさらに聞く。

「今実務何年目なんだ?」

「もうじき4ヶ月」

「昨年末くらいから働き始めたのか。ちなみに今何歳なんだ?」

テンポよく答えようとしたロゼが口を開いてから一瞬止まる。

「女性に年齢を聞くのってそっちの世界じゃ失礼じゃないの?」

「若い女性に聞くのは失礼じゃないだろ」

「16」

予想していた年齢がほぼ当たっていた。ただ、鷹峰の居た世界とは1年の長さが違う上に、感覚的には1日の長さも微妙に違う気もしていたので、一律に比較はできないかもしれない。

「ルヌギアの女性ってのはみんなそれくらいで働き始めるのか?」

「そうね、アカデミーに行かない人は、15歳くらいから働くのが一般的ね」

そういやソニアの年齢を聞いたことが無かったなぁと考え、言葉を失っている鷹峰にロゼが言った。

「で、相談って何?」

鷹峰はその言葉を聞き、頭をパッと切り替えて言った。

「土地取引について、今から言う計画に違法性が無いか教えて欲しい。ついでに、その取引で必要な役所への手続きを代行してもらうことが可能かってとこも聞きたい。あと、可能な場合はその代行費用を見積もって欲しい」

ロゼは一瞬キョトンとしていたが、少し微笑んでから言った。

「今日はマトモな話みたいね」

~~続く~~

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