フェニックスファイナンス-1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』後編
1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』後編
「ウーヌム、また新しい地名が出て来たぞ」と鷹峰が疑問顔を浮かべたのを見てとり、ソニアが言った。
「ウーヌムはクレアツィオン連合に所属する13の国家の1つよ。13国家の中で一番人口が多くて、各種産業も強い感じ。ただ、なんて言うか…、お堅い気質よね」
それを受けてハイディが続ける。
「そうなんですー。ギャンブルが全般的に禁止されていてー、賭けアローズも当然ダメなんですー。競技としても下火でしてー。それで、学校で習った経理知識を活かしつつ、カジノがあるところで働けないかと考えてこっちに来たんですー」
「なるほど。そして趣味と仕事が一致している職にありついたと」
「はいー。なので、カジノが再開する気配はありませんが、中々踏ん切りがつかず、転職にも迷っている……、ってところですねー」
苦笑いを浮かべるハイディにソニアが提案した。
「オプタティオ以外の国でもいいんじゃないの? アンタの腕なら大陸中どこでも通用すると思うわ」
「ありがとうございますー。でも、旅立つにも先立つモノがなくてー」
「あんなにアローズで店に金を落としてたのに、アンタには降りてこないの?」
「いえ、半年前につい弓を買っちゃってー。500万のー……」
テヘッと頭を小突きつつ、ハイディは舌を出した。
生活水準とかを無視して、趣味にお金を注ぎ込んでしまうタイプなのだろう。自動車馬鹿とか釣り道具馬鹿とかAV機器馬鹿とかと同じ部類。そう、弓馬鹿である。
「あちゃー……、でも気持ちは分かるわ。私もイイ槍をみつけると同じだからなぁ」
ソニアの言葉に鷹峰は少し驚いた。
「お前槍なんて使えたのか?」
「むしろ本職が槍よ。ジモクラス神槍流の免許皆伝……って言ってもあんたにゃ分からないか。金山には私のコレクションが有ったんだけど、今となっちゃ残ってるかどうか分からないしね」
「いつかはお2人のウデを拝んでみたいもんだね」
と言いつつ、鷹峰は資産台帳に再び目を落とした。
しばらく無言で資料を眺めていると、見た事のある文字列が目に留まった。鷹峰はソニアに向かって言った。
「これどっかで見た事があるんだけど、なんだっけか?」
ソニアが資料を見て言った。
「ヘルメース地区ね。飲み代ツケの取立に行ったセレブ住宅街よ」
ツケ台帳の住所欄かと鷹峰は合点が行った。しかし、富裕層住宅街となると余計に気になるのはその資産額だが、『算定不能』と計上されている。
「これは、土地……、カジノ店舗ですか? なんで価値が算定不能なんです?」
ハイディは少し答え辛そうに口を開く。
「仰る通りそれは元カジノ店舗ですー。建物と土地両方ともこちらの資産なんですが、えーと、ちょっと浮浪者達に占拠されていると言いますかー」
鷹峰は少し違和感を覚えた。高級住宅街で浮浪者などが居ると、だいたいは排除されてしまうものである。富裕層はそういう人種が目に入るのを嫌うものだからだ。権力者と付き合いのあるような者も比較的多いので、「役人が動いてくれない」なんてことも少ない。
「浮浪者ってのを詳しく教えてもらえますか?」
ハイディは少しウーンと悩んでから答えた。
「大きな声では言えないんですが、そのー、カジノというお店の特性上、いわゆるならず者さん達に支払うお金がありましてー」
鷹峰はそれを聞いて納得した。
「なるほど。『みかじめ料』が払えなくなったら、代わりに店舗に居座るようになった。そんな状況じゃ買い手もつかないから資産価値も算定不能といったとこですか」
「恥ずかしながら、そういう事ですー。占拠されたのは閉店とほぼ同時期ですから、2ヶ月前からですねー」
「ちなみにこの物件、カジノが営業していた頃は何フェンくらいの評価額でしたか?」
「1等地ですので、たしか3億フェンくらいだったと思いますー。大ざっぱに分けますと、土地2億、建物1億と言ったあたりですー」
「この物件、どこかの借金の担保に設定されていたりしますか?」
「カイエン銀行さんの借金の担保物件ですよー。でも状態が状態なので、カイエン銀行さんも差し押さえするのは不毛だって思っているみたいですー。不動産の物納を打診したのですが、難色を示されて終わりでしたねー」
担保とは、借金の返済を保証するために、「返済が滞ったらコレを差し上げます」という設定をされた物品や不動産のことだ。
土地や建物がどこかの借金の担保になっていると、その物件を勝手に売買することができなくなる。このカジノ物件がカイエン銀行以外からの借金の担保になっていた場合、物件をなんとかうまく現金化できたとしても、カイエン銀行がその現金を手にするのは難しい。
しかし、今回のケースでは幸運にもカイエン銀行からの借金の担保であるため、カイエン銀行の意向で、かなり自由に処理ができる。
鷹峰とソニアが嬉しそうに視線を合わせた。
「行ってみましょ」
「行ってみるか」
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