フェニックスファイナンス-1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨(たかみねとおる)はルヌギアという世界に召喚されてしまった。鷹峰はツケの取り立てで生計を立て始めるが、評判が大臣の耳に入ったことから、銀行の不良債権処理に首を突っ込むこととなる。鷹峰はカイエン銀行から紹介された3つのギルド訪問を始めた。

1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』前編

ルヌギア歴 1685年 4月3日 アテス モルゲン遊興 事務所

鷹峰とソニアは、カイエン銀行のジョルジュに紹介された、モルゲン遊興の事務所に来ていた。

4月1日は高級時計製造ギルドのフルフォリ、2日は酒類輸入卸ギルドのメリ食品を訪ねて現状を視察したが、在庫商品も不動産もほとんど借金のカタに持って行かれており、現金化できるようなものは残っていなかった。

鷹峰としても、さっさと破産して借金を綺麗にすることを薦める方がいくらか建設的に思えたくらいであった。ただし、鷹峰はルヌギアの破産に関する法律について無知なので、何ともアドバイスしかねるという点は悩みものだ。日本であれば、例外はあるが基本的には借金を帳消しにできるため、再スタートを考えるなら破産も1つの手ではあるのだが。

さて、モルゲン遊興だが、こちらの事務所も例に漏れず金目のモノは綺麗サッパリ剥ぎ取られた後だった。殺風景な事務室に、使い古しの机と椅子と書類だけが残っており、2,3名の職員が暇そうに座っているという状況である。会議室に案内はされたものの、期待はできそうにない雰囲気が漂っている。

3分ほど座って待っていると青みがかった黒髪をポニーテールでまとめた女性が、小脇に大きな書類ファイルを抱えつつ「お待たせしましたー。失礼しまーす」と言って入室してきた。眼鏡をかけており、事務員然とした印象だが、身振りが軽く運動神経に優れていそうな印象である。先日の弁護士事務所のロゼもそうだったが、この世界の人間は若い頃から働きに出るらしく、その女性も20歳は超えていないように見えた。

立ち上がって挨拶しようとした時、ソニアが言った。

「あ、いつぞやのアローズのディーラーの」

女性の方が軽く会釈してそれに応える。

「どーも。御無沙汰していますー」

年齢に似合わず、スラスラと「ご無沙汰」なんてフレーズが出てきたため、鷹峰はフフッと小さく笑ってからソニアに質問した。

「アローズって何?」

ソニアは弓矢を射るポーズをしながら答えた。

「弓矢の射的で賭ける競技ね。この人、店側の最後の砦でね。以前私も挑戦したことがあるんだけど14,5戦やって全敗。その日の勝ち分全部巻き上げられちゃったの」

ダーツを弓矢に変えてギャンブル化し、カジノ競技として取り入れたのだろうと鷹峰は想像した。

「いえいえ、たまたま調子が良かっただけですよー。あ、初めまして、アローズコーナーのディーラー兼経理担当のハイディ=エッツェンスベルガーですー」

利発そうではあるのだが、独特の間延びした語尾がそれを打ち消してしまう女性である。ただ、モルゲン遊興の悲惨な状況に際し、あまり深刻な雰囲気で話されても気が滅入るので、ありがたいとは言える。

「鷹峰亨です。お忙しいところお邪魔してすいません」

「お忙しいなんてまたまた御冗談をー」

鷹峰は事務所の閑散具合を思い出して、一本取られたなと小笑いした。ディーラー経験で培った客あしらいスキルなのかもしれない。


ハイディが手で着席を促したので席につき、鷹峰が切り出した。

「さて、本日はカイエン銀行さんのアドバイザーとして、失礼ならがお宅の台所事情を拝見しに伺ったのですが」

「伺っておりますー。何からご説明しましょうか?」

「そうですね、まず現金や有価証券(株や債券)などが有れば拝見させて欲しいです」

ハイディがファイルから資産台帳らしきものを取り出し、鷹峰に渡しつつ言った。

「正直なところ、事務所を見て頂いた通りで、現金があればこうにはー」

ソニアが頷きながら言った。

「人の数より机の数が多いって状況よね」

「2年前に私が入った頃は、新しい机を置く場所がないって悩んでいたくらいなんですけどねー。1人辞め2人辞め、今となっては、オーナー以外のギルドメンバーは私を含めて3人ですー」

鷹峰はやっとこさ少し読めるようになってきた経理資料と格闘しつつ、ハイディに聞いた。

「ハイディさんはどうして辞めないんですか?」

「私はウーヌム共和国の出身で、アローズがやりたくてこっちに来たんですー。それで諦められなくて」

1章7後編に続く

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