今日から始める異世界M&A-1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨(たかみねとおる)はルヌギアという世界に召喚されてしまった。鷹峰はツケの取り立てで生計を立て始めるが、評判が大臣の耳に入ったことから、銀行の不良債権処理に首を突っ込むこととなる。鷹峰はカイエン銀行から紹介された3つのギルド訪問を始めた。

1章7『みかじめ料の未払いはあきまへん』

ルヌギア歴 1685年 4月3日 アテス モルゲン遊興 事務所

鷹峰とソニアは、カイエン銀行のジョルジュに紹介された、モルゲン遊興の事務所に来ていた。

4月1日は高級時計製造ギルドのフルフォリ、2日は酒類輸入卸ギルドのメリ食品を訪ねて現状を視察したが、在庫商品も不動産もほとんど借金のカタに持って行かれており、現金化できるようなモノは残っていなかった。

鷹峰としても、さっさと破産して借金を綺麗にすることを薦める方がいくらか建設的に思えたくらいであった。ただし、鷹峰はルヌギアの破産に関する法律について無知なので、何ともアドバイスしかねるという点は悩みものだ。日本であれば、例外はあるが基本的には借金を帳消しにできるため、再スタートを考えるなら破産も1つの手ではあるのだが。

さて、モルゲン遊興だが、こちらの事務所も例に漏れず金目のモノは綺麗サッパリ剥ぎ取られた後だった。殺風景な事務室に、使い古しの机と椅子と書類だけが残っており、2,3名の職員が暇そうに座っているという状況であった。会議室に案内はされたものの、期待はできそうにない雰囲気が漂っている。

3分ほど座って待っていると青みがかった黒髪をポニーテールでまとめた女性が、小脇に大きな書類ファイルを抱えつつ「お待たせしましたー。失礼しまーす」と言って入室してきた。眼鏡をかけており、事務員然とした印象だが、身振りが軽く運動神経に優れていそうな印象である。先日の弁護士事務所のロゼもそうだったが、この世界の人間は若い頃から働きに出るらしく、その女性も20歳は超えていないように見えた。

立ち上がって挨拶しようとした時、ソニアが言った。

「あ、いつぞやのアローズのディーラーの」

女性の方が軽く会釈してそれに応える。

「どーも。御無沙汰していますー」

年齢に似合わず、スラスラと「ご無沙汰」なんてフレーズが出てきたため、鷹峰はフフッと小さく笑ってからソニアに質問した。

「アローズって何?」

ソニアは弓矢を射るポーズをしながら答えた。

「弓矢の射的で賭ける競技ね。この人、店側の最後の砦でね。以前私も挑戦したことがあるんだけど14,5戦やって全敗。その日の勝ち分全部巻き上げられちゃったの」

ダーツをギャンブル化して、カジノ競技にしたってところだろうと鷹峰は想像した。

「いえいえ、たまたま調子が良かっただけですよー。あ、初めまして、アローズ競技のディーラー兼経理担当のハイディ=エッツェンスベルガーですー」

利発そうではあるのだが、独特の間延びした語尾がそれを打ち消してしまう女性である。ただ、モルゲン遊興の悲惨な状況に際し、あまり深刻な雰囲気で話されても気が滅入るので、ありがたいとは言える。

「鷹峰亨です。お忙しいところお邪魔してすいません」

「お忙しいなんてまたまた御冗談をー」

鷹峰は事務所の閑散具合を思い出して、一本取られたなと小笑いした。ディーラー経験で培った客あしらいスキルなのかもしれない。


ハイディが手で着席を促したので席につき、鷹峰が切り出した。

「さて、本日はカイエン銀行さんのアドバイザーとして、失礼ならがお宅の台所事情を拝見しに伺ったのですが」

「伺っておりますー。何からご説明しましょうか?」

「そうですね、まず現金や有価証券(株や債券)などが有ればですが」

ハイディがファイルから資産台帳らしきものを取り出し、鷹峰に渡しつつ言った。

「正直なところ、事務所を見て頂いた通りで、現金があればこうにはー」

ソニアが頷きながら言った。

「人の数より机の数が多いって状況よね」

「2年前に私が入った頃は、新しい机を置く場所がないって悩んでいたくらいなんですけどねー。1人辞め2人辞め、今となっては、社長以外の社員は私を含めて3人ですー」

鷹峰はやっとこさ少し読めるようになってきた経理資料と格闘しつつ、ハイディに聞いた。

「ハイディさんはどうして辞めないんですか?」

鷹峰の質問にハイディが答える。

「私はウーヌム共和国の出身で、アローズがやりたくてこっちに来たんですー。それで諦められなくて」

「また新しい地名が出て来た」と鷹峰が疑問顔を浮かべたのを見てとり、ソニアが言った。

「ウーヌムはクレアツィオン連合に所属する13の国家の1つよ。13国家の中で最大の人口を抱えていて、景気もいいわ。ただ、かなりお堅い気質で、ギャンブルも禁止だったはずよ」

それを受けてハイディが続ける。

「そうなんですー。ウーヌムだと賭けアローズが禁止されているので、競技としても下火でしてー。それで、学校で習った経理知識を活かしつつ、カジノがあるところで働けないかと考えてこっちに来たんですー」

「なるほど。そして趣味と仕事が一致している職にありついたと」

「はい。なので、カジノが再開する気配はありませんが、中々踏ん切りがつかず、転職にも迷っている……、ってところですねー」

苦笑いを浮かべるハイディにソニアが提案した。

「オプタティオ以外の国でもいいんじゃないの? アンタの腕なら大陸中どこでも通用すると思うわ」

「ありがとうございますー。でも、旅立つにも先立つモノが……」

「あんなにアローズで店に金を落としてたのに、アンタには降りてこないの?」

「いえ、半年前につい弓を買っちゃって。500万のー……」

テヘッと頭を小突きつつ、ハイディは舌を出した。

生活水準とかを無視して、趣味にお金を注ぎ込んでしまうタイプなのだろう。自動車馬鹿とか釣り道具馬鹿とかAV機器馬鹿とかと同じ部類。そう弓馬鹿である。

「あちゃー……、でも気持ちは分かるわ。私もイイ槍をみつけると同じだからなぁ」

ソニアの言葉に鷹峰は少し驚いた。

「お前槍なんて使えたのか?」

「むしろ本職が槍よ。ジモクラス神槍流の免許皆伝……って言ってもあんたにゃ分からないか。金山には私のコレクションが有ったんだけど、今となっちゃ残ってるかどうか分からないしね」

「いつかはお2人のウデを拝んでみたいもんだね」

と言いつつ、鷹峰は資産台帳に再び目を落とした。

しばらく無言で資料を眺めていると、見た事のある文字列が目に留まった。鷹峰はソニアに向かって言った。

「これどっかで見た事があるんだけど、なんだっけか?」

ソニアが資料を見て言った。

「ヘルメース地区ね。飲み代のツケ取立に行ったセレブ住宅街よ」

酒場のツケ台帳の住所欄かと鷹峰は合点が行った。しかし、富裕層住宅街となると余計に気になるのはその資産額だが、『算定不能』と計上されている。

「これは、土地……、カジノ店舗ですか? なんで価値が算定不能なんです?」

ハイディは少し答え辛そうに口を開く。

「仰る通りそれは元カジノ店舗ですー。建物と土地両方ともこちらの資産なんですが、えーと、ちょっと浮浪者達に占拠されていると言いますかー」

鷹峰は少し違和感を覚えた。高級住宅街で浮浪者などが居ると、だいたいは排除されてしまうものである。富裕層はそういう人種が目に入るのを嫌うものだからだ。権力者と付き合いのあるような者も比較的多いので、役人が動いてくれないなんてことも少ない。

「浮浪者ってのを詳しく教えてもらえますか?」

ハイディは少しウーンと悩んでから答えた。

「大きな声では言えないんですが、そのー、カジノというお店の特性上、いわゆるならず者さん達に支払うお金がありましてー」

鷹峰はそれを聞いて納得した。

「なるほど。『みかじめ料』が払えなくなったら、代わりに店舗に居座るようになった。そんな状況じゃ買い手もつかないから資産価値も算定不能といったとこですか」

「恥ずかしながら、そういう事ですー。占拠されたのは閉店とほぼ同時期ですから、2ヶ月前からですねー」

「ちなみにこの物件、カジノが営業していた頃は何フェンくらいの評価額でしたか?」

「1等地ですので、たしか3億フェンくらいだったと思いますー。大ざっぱに分けますと、土地2億、建物1億と言ったあたりですー」

「この物件、どこかの借金の担保に設定されていたりしますか?」

「カイエン銀行さんの借金の担保物件ですよー。でも状態が状態なので、カイエン銀行さんも差し押さえするのは不毛だって思っているみたいですねー」

担保とは、借金の返済を保証するために、「返済が滞ったらコレを差し上げます」という設定をされた物品や不動産のことだ。

土地や建物がどこかの借金の担保になっていると、その物件を勝手に売買することができなくなる。このカジノ物件がカイエン銀行以外からの借金の担保になっていた場合、物件をなんとかうまく現金化できたとしても、カイエン銀行がその現金を手にするのは難しい。

しかし、今回のケースでは幸運にもカイエン銀行からの借金の担保であるため、カイエン銀行の意向で、かなり自由に処理ができる。

鷹峰とソニアが嬉しそうに視線を合わせた。

「行ってみましょ」

「行ってみるか」

~~続く~~

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