フェニックスファイナンス-1章5『魔界の沙汰も金次第』後編

2020年4月11日

1章5『魔界の沙汰も金次第』後編


大臣の口から今度は「不良債権」という言葉まで出てきた。ただ、この世界に債券が存在する以上、優良債権も不良債権も存在して当然ではある。

不良債権とは、簡単に言ってしまえば企業が持つ『焦付きツケ』だ。回収の期待ができない貸し出しのことを指す。日本では、金融機関のバブル期の放漫経営が祟り、1990年代後半に多額の不良債権が明るみに出て社会問題になった。

「得意かどうかは分かりません。日本人の並以上くらいの知識はあると思いますが」

「ふむ、まぁ良いか。今日呼んだのは不良債権処理の話でな。カイエン銀行オプタティオ支店の不良債権処理に協力してやって欲しいのだ」

ソニアが反応する。

「また、おっきいトコから話が来たわね」

馴染のない銀行名だったため、鷹峰は聞いた。

「カイエン銀行ってのは?」

「クレアツィオン連合を構成する13国全てに支店を持っている大銀行じゃよ。13国全てに店舗があるのは、ロイヤルクレスト銀とカイエン銀の2つじゃから、連合内の2大バンクの片方といったトコロじゃな」

「クレアツィオン連合?」

「なんじゃ、まだそんなことも知らないのか?」

「最近新しい地名・人名が嵐のように耳に入ってきていましてね。整理しきれていません」

大臣は「しょうがないな」とため息をついてから、面倒くさそうに説明を始めた。

「大きな範囲から順に説明しよう。まず、キミの元居た世界に対し、こちらの世界はルヌギアと呼称されておる」

鷹峰の頷きを確認して続ける。

「ルヌギアは現在、大きく分けると四つの勢力・国家に分かれておる。クレアツィオン連合、アルモニア共和国、独立商都アヅチ、そして魔族。クレアツィオン連合はその名の通り複数の国家による連合で、クレア教を国教とする国が加盟しておる。オプタティオもその一つじゃ」

「魔族は分かるんですが、あとの二つは?」

「アルモニアは約500年前に、クレア教の教義に反対する人間が海を渡って独立した国家じゃ。クレアツィオン大陸の西側に存在するアルモニア大陸を領土としておる」

「独立商都アヅチは? 私の元いた日本にも似た地名があったんですが」

「アヅチは約300年前に召喚された日本人、第六天魔王が、魔族も人間も自由に商いができる土地として建国・独立した商都じゃな。今やこの世界の金とモノの流れを牛耳る巨大都市じゃよ」

第六天魔王でアヅチ、さらに商業の中心地。これはやっぱり信長本人なんじゃなかろうか、と鷹峰は興味深く感じる。


「なるほど。だいぶ理解が進みました。ついでにお聞きしますが、どうしてカイエン銀行さんは不良債権を抱えることに?」

「ここ1,2年、オプタティオ公国は景気が悪くてな。ギルド・個人ともに破産が増えておる。借金のカタに土地や建物を没収しても、不動産価格が落ちてモトがとれん」

バブル崩壊後の日本、サブプライムローン破綻後のアメリカ、どこも似たようなものだ。不景気の一種のモデルケースと言えるかもしれない。

大臣はトレードマークの鼻ヒゲをくるくると人差し指に巻きつけながら続けた。

「カイエン銀行オプタティオ支店も経営状態が悪化しておってな。年明けに支店長が堅物に変わったんじゃが、『このまま不良債権処理が進まないようであれば、オプタティオ域内での億単位の新規融資や借り換えを凍結せざるをえない』と言ってきよった」

異世界に来ようとも、「不況時は回収第一」という金融機関のやり口は変わらないらしい。金融機関も一営利団体なので、他に道が無いのも確かであるが。

「なるほど。そうなったら金を借りて新しい事業なんてできっこありませんし、借り換えまで凍結されたら破産するギルドや個人がさらに増加するでしょうね。金融や経済を担当するビブラン大臣として対策のために動かざるをえないと」

ビブランは大仰に頷く。

「そういうことじゃ。面倒ではあるが、国内融資を絞られては景気が上向くはずもないからのう」

ここで鷹峰は1つの違和感を持った。なぜ銀行に資金注入をしないのかということだ。

「そんなに不良債権が問題なら、お金を印刷して銀行に補填してやればいいじゃないですか。そうすれば銀行も回復して、融資凍結も回避できるんじゃないですか?」

ビブランは鷹峰をバカにするように、ワザとらしく大きいため息をついて返答した。

「それができればやっておる。しかし、キミは知らんのだろうが、フェンの発行ができるのはクレアツィオン連合政府なのじゃ。オプタティオ公国に通貨発行権は無いのじゃよ」

通貨発行権とはその名の通り「お金を印刷(鋳造)して、発行する権利」である。鷹峰の生まれた日本で言えば、通貨『円』を発行する権利となるため、当然ながらその権利を持っているのは『日本政府』であり、その権利のもと『日本銀行』が発行を担当している。

「……フェンって、クレアツィオン連合の共通通貨なんですか?」

「そうじゃよ」

このケースは鷹峰のいた世界のヨーロッパ共通通貨『ユーロ』を想像すると分かり易い。ユーロを発行できるのはECB(欧州中央銀行)だけであり、ユーロ圏各国は勝手に通貨を発行することができないのだ。

「なるほど。通貨発行ができないとなれば、地道に解決するしかありませんね。ありがとうございます、状況が掴めました」

うむうむ、とビブランが頷き、元の話に戻る。

「で、不良債権処理の手伝いは引き受けてくれるか?」

鷹峰は少し悩んだが、自分の懐事情を考えると、話に乗るしかないように思えた。

ソニアの方を見ると、彼女は一刻も早くこの部屋を出たいと考えているようで、視線はあさっての方向を向いている。

「わかりました。とりあえずそのカイエン銀行さんとやらにお邪魔して、話を聞いて考えます」

それを聞いたビブランの顔が不自然なまでに明るくなった。

「そうか! それは良かった。先方に連絡しておくよ!」

こりゃ成功報酬のマージンか、紹介料でも銀行から取るつもりなのだろうと鷹峰は思った。

1章6前編に続く

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