フェニックスファイナンス-1章5『魔界の沙汰も金次第』前編

2020年3月20日

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨(たかみねとおる)はルヌギアという世界に召喚されてしまった。鷹峰はしばらくの間寝床を貸してもらう酒場の『ツケ』の取り立てを生業にし、当面の生活費の確保に動き始めた。

1章5『魔界の沙汰も金次第』前編

ルヌギア歴 1685年 3月25日 クライオリン・ソクノッス砦(魔族側)

『株式会社オプタティオ前線』のCEO(最高経営責任者)であるデガドは、体長2.5mにも及ぶ大柄な体を深く椅子に横たえ、ワーウルフらしい鬣(たてがみ)を撫でつつ一息ついていた。前線に所属する魔族達に支払う3月末の給金・配給になんとかメドがついたからである。

ちなみに、『株式会社〇〇前線』というのは、クレアツィオン大陸各地に派兵されている魔族の前線部隊の事である。ただ、鷹峰の生まれた世界の軍といった組織と違うのは、前線部隊そのものが株式会社化されている点だ。

『株式会社オプタティオ前線』はその名の通りオプタティオ公国に派遣されてきた魔族の占領部隊であると同時に、人間から略奪した物資、あるいは奪い取った領地から取れる産品などで利益を上げ、株主に配当として還元する企業でもあるのだ。

「しかし、この財政状態ですと、今期も株主配当を減額するしか無いかと……」

デガドの側近であるアミスタが言った。アミスタはマーマン(半漁人)であるが、最近は心労のせいか、ウロコの輝きが日に日に失われていっている。「水揚げ一週間の傷みモノ。刺身は無理」と一部の部下からは揶揄されている始末である。

「やはり実質的には赤字になりそうか?」

「収計結果が概ね判明するのは半月後ですが、まず間違いないかと」

デガドは椅子に座り直し、大きくため息をついてから言った。

「今年もあの糞株主どもに頭を下げて、罵倒されねばならんのか」

オプタティオ前線は、昨年赤字決算で株主への株式配当を減額した。それゆえ株主達から命令された一発逆転勝負で、ラマヒラール金山(ソニアが防衛隊をやっていた金山)に攻めかかり、奪取に成功したのだった。

しかし、金山を奪取したものの、あまりにも犠牲が大きすぎた。死亡した魔族の遺族慰労金や負傷兵の医療費が大きな負担となり、金山で稼いだ利益を上回る出費を強いられている。

また、減額したとは言え、オプタティオ前線の株主配当はいまだに高額であり、それも経営の大きな重荷となっている。

「だいたい、あやつらの話に乗ってこの始末じゃろうが。欲を出して金山攻略などやらねば、今年は黒字になったかもしれんのに! そもそも、利益の前に、どれだけの魔族が犠牲になったのか分かっておるのかあの拝金主義者どもは!」

デガドは激昂したが、激昂の相手が違っていることに気が付いた。

「すまぬ……、お主に怒りをぶつけるのはスジ違いじゃな……」

アミスタはむしろ、表情を綻ばせて答えた。彼は、デガドの義憤あるところが魅力だと感じているのだ。

「いえ、私も同じ考えでございます。残念ながら当社の株主達は、前線の兵にどれだけ犠牲が出ようと、結果的に自分さえ儲かればよいと考えておりましょう」

魔族は人間で言うところの『人権』の概念が希薄である。それゆえに、鷹峰のいた世界の『強欲資本主義』をより極端にしたような社会が形成されている。

ルヌギアにおいては、『魔界の沙汰も金次第』なのである。


ルヌギア歴 1685年 3月30日 アテス・ポリテリア城

この日、鷹峰とソニアはビブラン大臣に呼び出され、ポリテリア城に来ていた。

城の衛兵に案内され、大臣執務室に入って行くと、悪趣味なまでに豪勢な調度品に囲まれた、これまた悪趣味に黒光りする木製のデスクに向かい、ビブランはふんぞり返っていた。

「突然呼び出してすまないね」

「いーえ、別に」

腰を浮かすことなく礼を言った大臣に、ソニアが如実に悪態をついて返答した。

「……、まぁ掛けてくれたまえ」

ビブランはソニアの態度に少しムッとしながらも、部屋の右手にあるソファを指さした。鷹峰とソニアがそこに座ると、ビブランも対面に移動して腰を下ろす。

「なにやら借金回収でご活躍のようだね」

あれ以降も、鷹峰達は昼間にツケ回収に精を出していた。女将さんから付き合いのある酒屋や食品卸のギルドを紹介してもらい、それらの回収も十数件ほど成功させ、当面の生活資金くらいは確保できたのだ。

「大したことはしていませんよ。ただのツケ回収です」

「それにしちゃ回収率が高いって噂だ」

「取り立てられないような話は請けませんからね。選り好みしているだけですよ」

ソニアは黙ってムスッとしている。余程大臣が嫌いなのだろう。鷹峰が単刀直入に聞いた。

「で、御用件はなんでしょうか?」

「日本の金融屋は不良債権の処理が得意との噂を聞いたんだが、タカミネ君もそうかな?」

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