フェニックスファイナンス-2章24『順調の過去形』中編
2章24『順調の過去形』中編
<金山攻略のデッドライン当日>
鷹峰とボメルは2名の傭兵と共に、馬に乗ってラマヒラール金山の東側に向かっていた。今晩は攻略作戦の総仕上げであり、砦に攻めかかる前にソニア隊・イゴール隊と東側斜面で合流する予定となっている。
最後尾のボメルが足を止め、後方を振り返って口を開く。
「お、やっと追いついて来たか。ピリー、首尾はどうだったよ?」
4名で進んでいるところに、物資の"被"収奪作戦を実行していた、ピリーと言う名の若い傭兵が馬を飛ばして追い付いてきた。鷹峰は慣れない手つきで馬を止め、ピリーの言葉に耳を傾ける。
「シルビオさんは、無事潜り込んだようです。新兵器を分解して積み込んだ荷車も、コボルト達が必死に押して運んでいきましたよ。シルビオさん自身は、コボルト姿で荷車の上に立って、『力入れろ!』って偉そうに発破をかけてました」
「ウハハ、クソガキらしいな」
ボメルはそうひと笑いしてから鷹峰に目を向けた。
「了解。報告ありがとう。あとはシルビオが上手くやってくれることを祈るしかないな」
新兵器を、魔族の守る砦の内部に搬入する計画は4つのフェーズに分かれている。
まず第1フェーズで、金山を包囲して補給を遮断し、砦の魔族達を干上がらせる。続く第2フェーズでは、兵糧不足となった魔族に人間側拠点の情報をわざと流して物資収奪をさせ、美味しい思いをさせる。
第3フェーズでは、続けて2度、3度と収奪の成功体験を積んでもらい、「東側の補給路を封鎖されても、それ以外の場所から奪えばよい」と自信を持たせる。そうなって迎える第4フェーズで、本命となる新兵器を偽装した大きな荷車を奪わせ、砦に運び込ませる。
ここまで、第1フェーズから順調に推移してきた。あとはシルビオが第4フェーズを仕上げて、砦内部で新兵器を起動させるのを期待するばかりだ。
「ここ一番って時に、シルビオってガキは妙に強運だからな。心配することはねぇよ」
鷹峰の不安を和らげようと、対面に立っているボメルが声をかけた。ボメルは30kg程ありそうな金属製の巨大斧を背中に背負いながら、所作はいつものように軽いままである。当然ながら、そんな彼の乗る馬は特注の頑丈な馬だ。
「確かにそうですね。魔王城に乗り込んでデガドと1戦交えたのに、ほぼ無傷で帰されてきたヤツですから」
「ああ、聞いた聞いた。なんともシルビオらしい話だ。ただ、一緒に行った奴らは痛い目を見たって話も聞いたな。周囲の運を奪い取っちまうのかもしれんな。ガハハハ」
ボメルが不吉なことを口にして笑った。ここまで上手く作戦が運んでいるのだから、不運が降りかかってくるのは遠慮したいところだ。
「そんな縁起でもないことを言わないでくださいよ。さて、止まってないで、合流地点に向かいましょうか。あとどれくらいで着きそうですか?」
「ああ、あと30分も進めば…」
鷹峰の問いに答えようとしたボメルだが、ふいに押し黙って振り返る。
「どうしましたか?」
「静かに」
ボメルの指示を聞き、鷹峰と、合流したピリーを含めた傭兵3人は口を閉じて動きを止める。
ボメルは馬から降り、手綱を横の傭兵に持たせてから体を山道の後方に向け、目を瞑って右の手のひらを耳の後ろにあてる。瞬間、ボメルの右手に小さい魔法陣が展開され青白く光った。「魔法は苦手だが、3つだけ使えるんだ」と自慢げに語っていた内の1つ、聴力強化魔法である。
鷹峰は静かに息を吸い込みながら、ボメルが耳を向ける先、進んできた山道を凝視した。30秒ほど静寂が流れた後、ボメルは舌打ちをしてから振り返った。
「ちっ。どうやら、縁起でもねぇことが起こりそうだ。後ろから追って来てるぞ。尾行されたな」
「自分が尾行されましたか?」
先ほど報告をあげて来たピリーという傭兵が苦い顔で言った。
「おそらくな。犬ッコロが数匹と…」
ボメルはそこまで言ってから、何かに驚いたような表情を浮かべ、再度後方に視界を向ける。
「馬から降りて伏せろ!」
ボメルが叫んだと同時に、ピリーと呼ばれた傭兵は自身の乗っていた馬の背を蹴って鷹峰に取り付き、その体を抱えて、地面に倒れ込むようにして伏せつけた。
直後、「ブワン」と大質量の物体が鷹峰達の頭上を越えて、5匹の馬を襲う。「ヒィン」という断末魔の鳴き声とともに、5匹の馬は飛んで来た物体に巻き込まれるようにして、進行方向の先にある森の方へ吹っ飛ばされた。
「な、なにが飛んで…?」
鷹峰は伏せたまま声を漏らし、落下した物体に目を向ける。
「木だ。木を引っこ抜いて投げて来やがった。ヤベェ奴が来てやがる」
ボメルの言葉を聞いて、傭兵の1人が光石のライトを落下物に向けた。全長5メートルはあろうかという折れた樹木が光の中に浮かび上がり、5匹の馬"だった"ものがその周囲に無残に散らばっている。
「そんな…、あれを投げたっていうんですか?」
「投石機みたいなモンを使ったなら、あんな直線軌道で回転しながら飛んでこねぇ。力任せにぶん投げて来たんだ。もう、すぐ近くにいるぞ! 全員武器を持て!」
ボメルは鷹峰の問いに答えつつ、臨戦態勢をとるように指示を出し、自らも背負っていた斧を両手で持って前面に向けた。
鷹峰がいそいそと立ち上がろうとしたその時、木の飛んできた方向から、ズシンズシンという大きな足音とともに、醜い笑い声が響いてきた。
「ぐははぁ、獲物がいっぱいだぁ。もう1本くらえだぁ!」
「散開しろ!」
ボメルが叫んだと同時に、先ほどと同じく、空気が押し分けられていくような感覚が到来する。
「タカミネさっ……」
鷹峰を再度伏せさせようとしたピリーが、飛んで来た樹木に巻き込まれるようにして後ろに吹っ飛び、山道横の小岩に打ち付けられた。
「今度は当たっただぁ! いただきだぁ!」
木が飛んで来た方向から、嬉々とした声が聞こえ、木陰から3メートルはあろうかという人型の巨体がヌッと現れる。くすんだ茶色の筋骨隆々とした体付で、大岩のような棍棒を右手に持っている。
金山攻略のデッドラインは今晩である。早急にこの事態を解決しなければいけない。
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