フェニックスファイナンス-2章21『勝ち目は自ら作るもの』前編
前回までのあらすじ
ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、魔族による侵攻を止めつつ、金山を奪取して大儲けする作戦を立案し、実行に移す。そして、ついに魔族軍と人間軍の衝突が始まった。
2章21『勝ち目は自ら作るもの』前編
ルヌギア歴 1685年 6月13日夕刻 エパメダ南東・リリオの森東部の魔族軍本陣
<金山攻略のデッドラインまであと5日>
魔族軍こと株式会社オプタティオ前線がリリオの森に足を踏み入れてから3日半が経過した。だが、この間に前進できた距離はゼロである。何度か森の突破を試みたものの、ほとんどの部隊は森の入り口で眠らされてしまうし、前に進めた1部の部隊も落とし穴や沼罠にハマって足止めされたり、敵の伏兵に手痛く攻撃されてしまったりと散々であった。
そんな惨憺たる状況の13日の夕刻に、本陣の大きな天幕の中で、オプタティオ前線に属する主要な種族のリーダーが集まった作戦会議が開かれていた。
「敵を前にして寝てしまうなどという惰弱な種族の言い分を、まともに考えるだけ阿呆というものだ! 有無を言わさせず、前進すればいいだろう! どうせ人間側は、リリオの森にそこまで多くの兵力を用意していない!」
席上、ゴーレム族のリーダーが机を壊さんばかりの勢いで叩きながら、強行前進を主張した。ゴーレム族には催眠効果が出ていないため、眠りこけている魔族が怠慢に見えるのだろう。
「想像力の欠如が甚だしいねぇ。まぁ、頭まで石でできた石人形なのだから仕方ないねぇ。アハハハハ」
あざける様に、テーブルの対角線上に座る『お局』のデーモンが言った。逆にデモニック族や獣族は最も顕著に眠らされている魔族である。彼ら、彼女らからすれば、こんな戦場で「前進しろ」と言われる方が無理な話である。
「最前線で爆睡するような無能が、我が部族を石人形と馬鹿にするとは言語道断!」
「へぇ、私が無能って言うのかい? 落とし穴にハマって助けてくれと喚いてただけの石人形がよくぞ言ったものだねぇ」
ゴーレムとデーモンが睨み合いつつ、お互いを煽る。他にも十数種族のリーダー格が雁首を揃えているが、皆不機嫌な表情でそれを見て座っている。会議の主催者であるデガドに至っては腕を組んで瞑目して黙り込んでいる。作戦会議という場であるが、もはや「種族間対立をぶつけ合う場」と化してしまった様相だ。
残念なことに魔界の組織において、こういった種族間対立トラブルは日常茶飯事に起きている。全員が生物学的に同じ種族である人間の組織ですら、内部で派閥対立・利害対立が起きて崩壊することがあるのだから、生物学的にすら不統一で、多種多様な魔族の集まる魔界企業や組織では言わずもがなである。
「お二方とも落ち着いてください。ここは罵り合う場ではないでしょう」
ワーウルフ族の代表として出席しているバギザが、立ち上がって両者の間に入ろうとする。しかし、ゴーレムは聞く耳をもたずに机を叩き、もう一方の手でお局デーモンを指差す。
「我が部族を侮辱したのは奴だ。謝罪させねばならない!」
「確かに侮辱の言葉はあった。だが、最初に、『惰弱』という言葉で、眠ってしまった他種族に喧嘩を売ったのは貴方だ」
バギザは落ち着きを崩さずに冷静に反論した。
「うるさい! お前たちが前に出ず、我らばかりが傷を負っているのだ! 臆病者共が!」
「私の部下は7匹死にましたし、私自身も傷を負いました。なんならお見せしましょうか?」
「その程度の被害で何を偉そうに言うか!」
「なるほど、貴方に意見するには被害が足らないと仰るか。ならば、私は今から部下を率いて玉砕して参ります。では、失礼する」
そう言ってバギザはサッと立ち上がる。
「い、いや、待て! そうではない! 早まるな!」
さすがにマズイと思ったのか、ゴーレムは慌ててバギザを止めようとした。加えて、天幕の入り口近くに座っていた、オプタティオ前線一の魔術師として知られる古参ゴブリンが、出て行こうとするバギザの腕を掴む。
「アンティカート殿、離してください。我が部族を臆病者とそしられて、それを見過ごすワケにはいきません」
「いやいや、離しませんよ。少し待ちなさい」
アンティカートと呼ばれたゴブリンは、逸る子供をたしなめるように言ってからテーブルの最奥に座るデガドに視線を向ける。それを感じ取ったように、今まで黙り込んでいたデガドが目を開く。
「待ってくれバギザ。これ以上、無為に被害を増やしたくはない」
デガドはバギザを制止しつつ静かに立ち上がり、全員を見渡してから続ける。
「皆、すまない。全ては私の責任だ。思うように進軍できないことも、ゴーレム達の不満も、眠ってしまう種族たちの不安や不甲斐無さも、全て私の責によるものだ。相手に主導権を握られ、思うように転がされてしまった。本当にすまない」
そう言ってデガドは深々と頭を下げた。魔王と言われるオプタティオ前線のトップが頭を下げて、自らの責を認めたことに、各種族のリーダー達は瞠目する。とりわけ、オプタティオ前線に入って日の浅いリーダーの何匹かは、驚いて口を開けてしまっている。
5秒ほどの静寂の後、デガドは顔を上げ、決意を示すように言った。
「だが、ここからは、我々が主導権を握る。だから、皆に協力して欲しい」
全員の表情が一変し、デガドに注目が集まっている。
「これでもキミは出て行くのかな?」
ゴブリンながら好々爺とした笑顔を浮かべるアンティカートにそう聞かれ、バギザは「フッ」と笑った。
「いえ。私はデガド様のこういうところが好きなのです」
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