フェニックスファイナンス-2章19『立ち合いは徐々にあたって』前編

2020年3月22日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、異世界で商売を始めた。魔族の侵攻を止めつつ、金山を奪取して大儲けする作戦を立案し、所有権や予算の準備などを整えた鷹峰達は、ついに金山奪取に向けて兵を動かし始めた。

2章19『立ち合いは徐々にあたって』前編

ルヌギア歴 1685年 6月7日 オプタティオ半島南東部・リボモロス丘陵

<金山攻略のデッドラインまであと11日>

6月7日の夕刻、エパメダを目指して進軍する『魔族軍』こと株式会社オプタティオ前線の本隊は、半島の最南東エリアに位置するリボモロス丘陵で夜営準備を始めていた。明日朝には、ここから西10kmに位置するフォー河を渡って、人間の勢力圏内に足を踏み入れる予定だ。

「フォー河の橋が落ちているだと? 2本ともか?」

デガドは頭痛のタネがまた1つ増えたと思いつつ、そう問い直した。

「上流のケラス橋、下流のカウリオ橋ともに落ちております。状態としては、橋げただけでなく、橋台も散々に壊され、橋脚は跡形すらありません。先月末時点で、2つの橋は共に健在でしたし、ここ数日大雨も地震もありませんでしたから、自然災害ではなく人為的な破壊行為によるものかと想定されます」

軍議用テントの外に声が漏れぬように、偵察部隊のリーダーを務めるベテランガーゴイルは声を落として答えた。

橋台は橋をささえる両岸の土台部分、橋脚は川や土手に突き刺した柱の部分、そして橋げたはその上に架ける道の部分を指す。洪水などが起きた場合、流れてきた物体によって橋げたが破損することはあるが、橋脚まで跡形もなく壊れることは稀と言える。

「ううむ。妨害行為もついにそこまで来たか…」

昨日から、『人間側』ことオプタティオ公国軍の方針に変化が見られた。そこまでは、位置確認のために遠目に見ているだけだった人間の偵察部隊が、急に遅滞行動(魔族軍の進軍を妨害する行為)を仕掛けてきたのだ。

林道を倒木で塞ぐ、山道を土砂崩れで塞ぐ、草原でボヤを起こす、落とし穴を設置する。といった小細工によって、少しずつではあるが、進軍遅延を起こされている状況である。

また、昨晩は夜営地の物資への放火と、犬笛による睡眠妨害まで仕掛けてきた。持久戦を見据えて体力を削りに来ているとも考えられる。

「橋が無いとなると、渡河だけで1日仕事になってしまうな」

他種族編成の魔族軍には河川を苦にしない魔族もいる。他方、当然「水にはてんで弱い」という魔族もいる。全軍が渡り切るということを前提にすると、労力も時間もかかるのは間違いない。

「渡河中に奇襲をかけてくることはあるでしょうか?」

ガーゴイルが考察を述べた。確かにその可能性は否定できない。

ただし、奇襲が目的であるなら、これまでの魔族側の進軍経路で、もっと適した場所やタイミングがいくつもあった。エパメダの最終防衛ラインというこの場所まで、「奇襲」という選択肢を温存しているとは感じられない。

それよりもデガドにとって気掛かりなのは退却時のことだ。

河を渡ってエパメダ付近で人間たちと一戦し、不幸にも敗色濃厚となって退却する場合、河が障害となることが懸念される。好むと好まざるに関わらず、フォー河を背に『背水の陣』を強いられてしまう可能性があるのだ。

だが、兵達の士気を高く維持するためには、「負けた場合の話」をするのはご法度である。少なくとも、下々の兵達にそういう不安を見せるのは得策でない。

「確かに奇襲の可能性もあるな。気を引き締めねばなるまい。引き続き偵察を頼むぞ」

「はっ」

デガドは偵察ガーゴイルのやる気を削がないように話をまとめて送り出し、その後姿が見えなくなるのを確認してから自嘲的に呟く。

「ま、人間側がこちらの台所事情を知った上で、長期戦を強いれば軍が崩壊すると踏んでいるだけかもしれんがなぁ」

言うまでもなく、オプタティオ前線の台所事情は火の車である。長期戦をこなすだけの資金も備蓄も有りはしない。そういった内部事情を人間側が把握しているのであれば、進軍妨害は理にかなっている。

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