フェニックスファイナンス-2章18『交渉はランチの前で』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、債務整理ビジネスや投機に手を出したが、魔族側からの思わぬ横槍を受けて利益を圧迫されてしまった。鷹峰は、リベンジを期すためにラマヒラール金山の奪還に向けて動き始め、下準備の最後に債務整理交渉をセッティングした。

2章18『交渉はランチの前で』前編

ルヌギア歴 1685年 6月5日 ロッサキニテ・オプタ銀行本店前

<金山攻略のデッドラインまであと13日>

飲食店がランチ営業を始めた頃、ビブランは待ち合わせ場所のオプタ銀行本店前に到着した。小雨が降っており、雨が馬車の屋根を叩いている。

2日前に鷹峰と話した後、ビブランはオプタ銀行の動きについて役場に探りを入れた。すると、案の定、テッセラ商事での爆発事件と、盗品発見をモミ消そうと動いてことが分かった。

ただ、そうするには騒ぎが大きくなりすぎていた。深夜の爆弾騒ぎで野次馬が多数集まった上に、警衛兵5名が現場判断で捜索を始めて複数の盗品を発見し、クヌピ・テッセラの身柄を拘束してしまったのだ。ロッサキニテ役場の上層部は「賄賂は受け取らない」と門前払いしたようだが、本音は「モミ消そうとしても無理」と言ったところだろう。

そう考えていると、馬車のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。見ると、紺のスーツに身を包んだ鷹峰が、傘を手に顔を覗かせている。

「あの服は日本で『勝負時』に着る正装だと言っていたが、『金をむしり取りたい時』の間違いではないか?」などとビブランは思いながら、

「では行って来る。1時間後にまた来てくれ」

と御者に指示して馬車から降りた。

 

ルヌギア歴 1685年 6月5日 ロッサキニテ・オプタ銀行・幹部用応接室

オプタ銀行本店に入ると、行員に案内されて幹部用の応接室に通された。

「お待ちしていましたビブラン大臣。ご無沙汰しております」

応接室のドアを開けると、営業スマイルを浮かべた頭取のザンザラ・アラハが立っていた。顔には見慣れた"おちょぼ口"がついており、これを見るとビブランはいつも「何か吸いたいのかね?」と言いたくなる。長身痩躯で、口以外のパーツは整っているだけに勿体ない。

「いやいや、突然押しかけて済まないね。あと、今日はもう1人来ていてね」

そう言って、ビブランは鷹峰に目を向けた。

「ザンザラ頭取、お初にお目にかかります。フェニックスファイナンスの鷹峰と申します」

鷹峰が折り目正しく頭を下げるが、ザンザラは目を見開いて停止する。

「ふぇ、フェニックスファイナンスだと!? 貴様が…」

どうやら、自分達を追い込んでいる組織の名前くらいは掴んでいたのだろう。

「頭取、立ち話もなんだから、座って話をしようじゃないか」


ビブランと鷹峰が並んで座り、大きなテーブルを挟んだ反対側にザンザラが着座する。

「鷹峰君、そちらの用件から話したまえ」

「ありがとうございます。では」

鷹峰はビブランに軽く礼を言ってから、ザンザラに向き直って話し始める。

「頭取、本日私は、バルザー金庫の債務に悩むギルドの代表者として参りました。バルザー金庫はご存知ですよね?」

「だ、誰かが私達の親族を装って作った、あやしげな金融業者ですね」

トラブルが起こった時は「知らぬ存ぜぬ」とか、「私達も騙された被害者」ということにして対処しようと考えていたのだろう。すべてを"そういうこと"にして、トカゲのしっぽ切りをすれば、追求から逃れられるだろうと。

だが、もはや、"そういうこと"では済まない状況なのだ。

「では、そのあやしげな業者が、貴行の不良債権の借り主を運よく見つけ、弱みに付け込んで出所不明な資金を高利で貸し出し、借り換えをさせた。そして、取り立てと称して金品を奪い、偶然貴行のグループギルドであるテッセラ商事に持ち込んで換金していた。というご認識ですか?」

そんな都合のいい話など起きるわけがない。しかし、ザンザラはおちょぼ口をぴゅーと鳴らしながら息を吸い込み、全てを"そういうこと"にして、言い訳を続ける。

「認識も何も、バルザー金庫とやらが何をやっていたかは知りません。クヌピ(テッセラ商事代表)が何をやっていたかも現在調査中です」

「バルザー金庫に強奪されたサピエン王国のパモストン子爵のゴブダーン織が、テッセラ商事から見つかったことも、貴行のあずかり知らないことだと?」

ここで、平静を装っていたザンザラの方がピクッと震える。

「え、いや、何の話やら知りませんね…」

「分かりました。ならば、私はこの事実をパモストン子爵にお伝えします。構いませんね?」

「待ってくれ! それは困るよ!」

「なぜですか?」

「なぜってキミ、事実関係が判明するまではだねぇ…、ええと」

ザンザラは口ごもる。ザンザラ自身が本当に潔白なら「勝手にやれ!」と腹もくくれるだろうが、そうでないのだから歯切れも悪くなって当然だ。

ここでビブランが視線を鷹峰に移すと、鷹峰もビブランを見ていた。「あなたのセリフの番ですよ」と言われているようだ。

「頭取、本当のことを話してくれないかね。これ以上シラを切るのであれば、こちらとしては立ち入り検査で帳簿を見せてもらうしかなくなる」

「なんですと!?」

ビブランは大げさにため息を1つついてから続ける。

「借り換えをさせる時、ギルド側の借金規模によっては10億フェン程度の資金をバルザー金庫に渡さねばならない。そんな大金を捻出した証拠を、跡形も無く帳簿から消し去るのは困難だ」

「何を根拠に!? それに、公国がどうしてそこまでするのですか!?」

「放置すれば外交問題になりかねんのだ。現状、織物を預かった海運ギルドから被害届が出ているし、そのギルドの代理人を務める鷹峰君もこう言っている以上、公国としては真相究明を進めるしかない。そして、バルザー金庫とオプタ銀行の関係が明白になった段階で関係者全員を逮捕し、子爵に事情を説明して詫びるしかないだろう」

2章18中編に続く

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