フェニックスファイナンス-2章17『チャラい心眼』前編
前回までのあらすじ
ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、債務整理ビジネスや投機に手を出したが、魔族側からの思わぬ横槍を受けて利益を圧迫されてしまった。鷹峰は、リベンジを期すためにラマヒラール金山の奪還に向けて動き始め、軍と歩調を合わせるために将軍との会談をとりつけた。
2章17『チャラい心眼』前編
ルヌギア歴 1685年 6月3日 ロッサキニテ近郊・公国軍本隊の野営地
鷹峰はビブラン大臣の紹介を受けて、オプタティオ公国エパメダ派遣軍のトップである、スタフティ将軍との面会をとりつけた。
エパメダ派遣軍はアテスを出発し、各地の駐屯軍と合流しながら南下しているところであり、折よくロッサキニテ近郊で会談が果たせた格好となった。
待ち合わせ場所に意外な人物が顔を見せ、中年の男性兵と世間話を始めたため、シルビオは当惑して鷹峰に尋ねた。
「あれ? どうして女将さんが来てるの?」
「さぁ…、正直俺にもそこが分からないんだ。ええと、なんか知り合いがいるとかで…、半ば強引について来たというか…」
鷹峰の返答に眉根を寄せつつ、シルビオは談笑している女将さんを見る。普段のエプロン姿と違って、今は外出用の濃紺のローブに身を包み、竜をあしらった小さめの銀の首飾りを下げている。いつも通り大らかなオーラを放っているのは間違いないが、どこか「背筋を正している」という印象もある。
「アテス時代のお客さんかなぁ」
シルビオが首をかしげていると、女将さんと談笑していた男性兵から声が掛かった。
「そろそろ時間ですね。将軍の元にご案内します」
1分ほど野営地内を歩き、奥に設置された大型テントの前に着いた。男性兵が「中へどうぞ」と鷹峰達に言って、出入り口になっている天幕を開こうとした時、中から紙をパンパンと叩く音とともに、男性の甲高い声が聞こえてきた。
「ちょいちょいちょい、ダメっしょこの作戦立案書? これじゃぁ側面奇襲ウェルカムじゃーん! 相手は魔族ちゃんだゼ、崖下から来ないって前提は甘くなァい?」
チャラい。チャラ過ぎる。
ふと、シルビオはテントの布地に空いた小さい穴をみつける。ちょうど自分の目の高さにある穴だ。そして、興味に負けてそこから内部を覗き見て、思わずうめいた。
「ええ…、なにあれ…」
サングラスをかけ、立派な勲章の付いた暗めの濃緑色の上着のボタンを外し、袖まくりまでしている若い男がテーブルに両足を投げ出してふんぞり返っている。髪は灰色のメッシュカラーに染め上げてツーブロックに刈り上げており、軍の服飾規定を20項目以上無視しているのは確実だ。
「作り直し! 残念無念また来年! じゃなくて3時間で書き直しシクヨロッ!」
若い男はそう言って書類を返し、部下と思われる女性士官を送り出した。
「大丈夫なのかこの国の軍は」と、連合内の他国生まれながら憐れみと心配が募る。
「終わったようですね。ではどうぞ」
中年の男性兵は落ち着いた様子で、こちらが中に入るように促してくる。
「あ、ええと、では失礼します」
いつも落ち着いている鷹峰が戸惑いながら、出てきた女性士官とすれ違うように中に入って行く。彼にとっても、さすがに想定外の状況なのだろう。
「おおっと、大臣マターのVIPさぁん? こう見えて俺、超多忙な超将軍なんすけどぉ!」
こいつがスタフティ将軍なのかと頭痛を覚えながらシルビオもテントに足を踏み入れる。さっき覗き見た姿勢のまま、スタフティがお誕生日席でお手上げポーズをとっているのが見える。
「なんだチビッ子ぉ。ここは子供が遊びに来るところじゃないでちゅよー」
言い返す気すら起きず、シルビオがため息をついていると、背後から女将さんも入室する。
「こんにちは。ご無沙汰しています」
「んっ!?…、うひょあっ!!!」
突如、スタフティは椅子から転げ落ちる。そして、即座にテーブルに手をついて立ち上がると、素早く下座に移動し、「ど、どうぞ」といって鷹峰達に上座を譲る。
それを見た女将さんが微笑みながら、右の人差し指で自分の目元を指差して言う。
「スタフティ将軍、私達は外部の客人ですよ」
スタフティは慌てふためきつつ、サングラスを外して胸ポケットに差し込み、上着の袖まくりを戻してボタンを留めた。
その後、着座してもスタフティ将軍は落ち着かずに女将さんの方をチラチラ伺うばかりである。鷹峰もどう話し始めればいいのか分からずに混乱した挙句、彼らしくもなく天気の話を始める始末だ。
そんな中、女将さんがやおら口を開く。
「皆さんご緊張されているようなので、私からお伺いしますね。まず、こちらのご用件をお伝えする前に、スタフティ将軍に1点お聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「おいおい、あんたが仕切るんかーい!」というメッセージを込めてシルビオは女将さんを見るが、女将さんはどこ吹く風と涼しい顔をしている。
「ご質問をどうぞ」
「単刀直入にお聞きします。今回のエパメダ防衛に際して、ラマヒラール金山への強襲は考えていらっしゃいますか?」
「それも作戦候補の1つっちゃ1つなんスけど、どー考えても…」
スタフティが両手を頭の後ろで組み、悩まし気に答えようとするが、女将さんがそれを遮る。
「言葉遣い! 姿勢!」
「はい、先せ…」
「今の私は民間人ですよ」
女将さんはいつものようにニッコリと微笑む。だが、何かが違う。
スタフティは両手を膝の上におろし、背筋を伸ばしてから再度答える。
「検討はしましたが、却下しました。金山とその砦を素早く落とす見通しが立たなかったためです。大損害を覚悟して大軍で力攻めしても、おそらく間に合いません。十中八九、こちらの金山攻略より、魔族によるエパメダ占領の方が早いでしょう」
「賢明なご判断です。では、全軍でエパメダの防衛にあたると?」
「はい」
女将さんは満足そうに1度頷いてから続ける。
「ありがとうございます。では、当ギルドの用件をお伝えします。本日は軍事作戦ソリューションの提案に伺いました」
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