フェニックスファイナンス-2章16『ないという証拠』前編

2020年3月21日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、債務整理ビジネスや投機に手を出した。しかし、魔族側からの思わぬ横槍を受けて利益を圧迫されてしまった鷹峰は、リベンジを期すためにラマヒラール金山の奪還に向けて動き始める。そして、金山の奪還に見通しが立った鷹峰はビブラン大臣の元を訪れる。

2章16『ないという証拠』前編

ルヌギア歴 1685年 6月2日 ロッサキニテ・ホテル『パライオ』

鷹峰はオプタ銀行のトップと直接交渉のアポイントを取るため、そして交渉を優位に進めるために、ビブラン大臣の逗留しているホテル『パライオ』に出向いた。

魔族の動きに対して軍を動かすオプタティオ公国は、多額の軍事資金を必要としており、ビブラン大臣はここ数日ホテル『パライオ』を拠点に、ロッサキニテ中を駆けずり回って資金調達をしているのだ。

「証拠がないだろう!」

オプタ銀とバルザー金庫の悪行を鷹峰から説明されたビブランは、テーブルを拳で叩きながら抗弁した。

「ビブラン大臣、借金のカタに強奪されたトラップアイテムが、オプタフィナンシャルグループのテッセラ商事の事務所で爆発したんです。また、その後警衛兵による立ち入り調査で、強奪された物品がいくつも確認されました。バルザー金庫とオプタ銀が一心同体なのは明白な事実ですよ」

向かい側に座った鷹峰は、落ち着いた口調で反論する。

しかし、資金集めに奔走中のビブランにとって、オプタ銀行の経営が揺らぐような事態は絶対に回避しなければいけない。

「状況証拠に過ぎん! たまたま転売用に購入した可能性もあるぞ!」

そんな可能性は無いと断言したい鷹峰であったが、そういう言い逃れができるのも事実である。実際、架空ではあろうが、強奪品のいくつかを仕入れ購入したように装う伝票も発見されている。

「確かに、そういう言い訳ができるのは事実ですね」

「そうだろう! 諦めて出直したほうが…」

「ところで大臣、サピエン王国のパモストン子爵をご存知ですか?」

いきなり話題を転換されて、ビブランはいぶかしがる。

「……、勿論知っているよ。国際会議で同席したこともあるからな。で、子爵とこの話がどう関係するのだ?」

「子爵はクレアツィオン連合内で、有数の影響力をお持ちの方だというのは本当ですか?」

大臣の質問は無視して、鷹峰は一方的に問いかけた。

「連合内最大の金融国であるサピエン王国の財務・金融・産業の兼任大臣を担当し、サピエン王にすら命令できると言われる男だからな。連合政界においてトップ5に入る影響力を持つ人物であろうよ」

鷹峰は嬉しそうにウンウンと頷いてから、さらっと爆弾を投下する。

「なるほど。では、パモストン子爵にこの件をお知らせしましょう。『あなたのお母さまの形見であるゴブダーン織を、強奪した不届き者はバルザー金庫とオプタ銀行だ』と」

「な、どういうことだ!? 何を言っている!? 説明しろ!」

口から泡を吹きながら、ビブランはテーブルに身を乗り出す。

「まぁまぁ、落ち着いてください。今回はあなたに損をさせるような意図では来ていません」

「信用できん! 早く説明しろ!」

「あ、お茶いただきますね」

鷹峰は大臣の言葉をまたもや無視して、ゆっくりと出されたハーブティーを口に含み、椅子に座り直してから、説明を始める。


「1年半前、海運ギルド『ホナシス』がパモストン子爵から、破損したゴブダーン織を預かりました。その織物は子爵のお母さまの形見だそうです。ホナシスはこれをロッサキニテの織物工房に運び込んで、修復するよう依頼されたのです」

「ちょっと待て、子爵の御母堂様ということは、まさか…、『コマンダー・メア』か」

ビブランは冷や汗を噴出させながら、縋るような目線を向けてくるが、鷹峰は涼しい顔で、驚愕の事実を並べていく。

「そうです。50年ほど前にクーデターを鎮圧した『救国の女傑』だそうですね」

現パモストン子爵の母親メア・パモストンは、約50年前にクレアツィオン連合の各地で同時多発した連合分離クーデターを鎮圧した女傑である。退役軍人や傭兵を中心に5千の有志部隊を組織して各地を転戦し、反乱軍を根こそぎ壊滅に追い込んだ歴史上の偉人で、連合内では畏敬を込めてコマンダー・メアと呼ばれている。

「ちなみに、そのゴブダーン織はコマンダー・メアが、ロッサキニテ周辺の反乱軍を鎮圧した際、前オプタティオ公から褒美として与えられた物だそうです。何でも、4千の兵力で、2万の反乱軍を一方的に翻弄したとか。そういう歴史的価値のある品ですから、国宝級の文化財だと言っても差し支えないかもしれませんね」

「国宝!? それで、その品はどうなったんだ!?」

さらに食いついて、ビブランは顔面を近づけてくる。「国宝"級"ですよ」と訂正しながらビブランの肩を押すようにして遠ざけて、鷹峰は答えた。

「ホナシスが織物をロッサキニテ港の倉庫に運び込んだところで、バルザー金庫の取り立て人にみつけられ、借金のカタに強奪されてしまいました。その後、この織物は行方知れずでしたが、昨日発見されたんですよ。なんと、テッセラ商事の倉庫から」

「ひぃぃぃ」

ビブランは頭を抱えてうめく。だが、ここにも言い訳が流用できるのではないかと気付いてそれを口にする。

「し、しかし、テッセラ商事が強奪犯からワケを知らずに購入したという可能性もあるぞ!」

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