今日から始める異世界M&A-2章16『ないという証拠』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、債務整理ビジネスや投機に手を出した。しかし、魔族側からの思わぬ横槍を受けて利益を圧迫されてしまった鷹峰は、リベンジを期すためにラマヒラール金山の奪還に向けて動き始める。そして、金山の奪還に見通しが立った鷹峰はビブラン大臣の元を訪れる。

2章16『ないという証拠』

ルヌギア歴 1685年 6月2日 ロッサキニテ・ホテル『パライオ』

鷹峰はオプタ銀行のトップと直接交渉のアポイントを取るため、そして交渉を優位に進めるために、ビブラン大臣の逗留しているホテル『パライオ』に出向いた。

魔族の動きに対して軍を動かすオプタティオ公国は、多額の軍事資金を必要としており、ビブラン大臣はここ数日ホテル『パライオ』を拠点に、ロッサキニテ中を駆けずり回って資金調達をしているのだ。

「証拠がないだろう!」

オプタ銀とバルザー金庫の悪行を鷹峰から説明されたビブランは、テーブルを拳で叩きながら抗弁した。

「ビブラン大臣、借金のカタに強奪されたトラップアイテムが、オプタフィナンシャルグループのテッセラ商事の事務所で爆発したんです。また、その後警衛兵による立ち入り調査で、強奪された物品がいくつも確認されました。バルザー金庫とオプタ銀が一心同体なのは明白な事実ですよ」

向かい側に座った鷹峰は、落ち着いた口調で反論する。

しかし、資金集めに奔走中のビブランにとって、オプタ銀行の経営が揺らぐような事態は絶対に回避しなければいけない。

「状況証拠に過ぎん! たまたま転売用に購入した可能性もあるぞ!」

そんな可能性は無いと断言したい鷹峰であったが、そういう言い逃れができるのも事実である。実際、架空ではあろうが、強奪品のいくつかを仕入れ購入したように装う伝票も発見されている。

「確かに、そういう言い訳ができるのは事実ですね」

「そうだろう! 諦めて出直したほうが…」

「ところで大臣、サピエン王国のパモストン子爵をご存知ですか?」

いきなり話題を転換されて、ビブランはいぶかしがる。

「……、勿論知っているよ。国際会議で同席したこともあるからな。で、子爵とこの話がどう関係するのだ?」

「子爵はクレアツィオン連合内で、有数の影響力をお持ちの方だというのは本当ですか?」

大臣の質問は無視して、鷹峰は一方的に問いかけた。

「連合内最大の金融国であるサピエン王国の財務・金融・産業の兼任大臣を担当し、サピエン王にすら命令できると言われる男だからな。連合政界においてトップ5に入る影響力を持つ人物であろうよ」

鷹峰は嬉しそうにウンウンと頷いてから、さらっと爆弾を投下する。

「なるほど。では、パモストン子爵にこの件をお知らせしましょう。『あなたのお母さまの形見であるゴブダーン織を、強奪した不届き者はバルザー金庫とオプタ銀行だ』と」

「な、どういうことだ!? 何を言っている!? 説明しろ!」

口から泡を吹きながら、ビブランはテーブルに身を乗り出す。

「まぁまぁ、落ち着いてください。今回はあなたに損をさせるような意図では来ていません」

「信用できん! 早く説明しろ!」

「あ、お茶いただきますね」

鷹峰は大臣の言葉をまたもや無視して、ゆっくりと出されたハーブティーを口に含み、椅子に座り直してから、説明を始める。


「1年半前、海運ギルド『ホナシス』がパモストン子爵から、破損したゴブダーン織を預かりました。この織物は子爵のお母さまの形見だそうです。ホナシスはこれをロッサキニテの織物工房に運び込んで、修復するよう依頼されたのです」

「ちょっと待て、子爵の御母堂様ということは、まさか…、『コマンダー・メア』か」

ビブランは冷や汗を噴出させながら、縋るような目線を向けてくるが、鷹峰は涼しい顔で、驚愕の事実を並べていく。

「そうです。50年ほど前にクーデターを鎮圧した『救国の女傑』だそうですね」

現パモストン子爵の母親メア・パモストンは、約50年前にクレアツィオン連合の各地で同時多発した連合分離クーデターを鎮圧した女傑である。退役軍人や傭兵を中心に5千の有志部隊を組織して各地を転戦し、反乱軍を根こそぎ壊滅に追い込んだ歴史上の偉人で、連合内では畏敬を込めてコマンダー・メアと呼ばれている。

「ちなみに、そのゴブダーン織はコマンダー・メアが、ロッサキニテ周辺の反乱軍を鎮圧した際、前オプタティオ公から褒美として与えられた物だそうです。何でも、4千の兵力で、2万の反乱軍を一方的に翻弄したとか。そういう歴史的価値のある品ですから、国宝級の文化財だと言っても差し支えないかもしれませんね」

「国宝!? それで、その品はどうなったんだ!?」

さらに食いついて、ビブランは顔面を近づけてくる。「国宝”級”ですよ」と訂正しながらビブランの肩を押すようにして遠ざけて、鷹峰は答えた。

「ホナシスが織物をロッサキニテ港の倉庫に運び込んだところで、バルザー金庫の取り立て人にみつけられ、借金のカタに強奪されてしまいました。その後、この織物は行方知れずでしたが、昨日発見されたんですよ。なんと、テッセラ商事の倉庫から」

「ひぃぃぃ」

ビブランは頭を抱えてうめく。だが、ここにも言い訳が流用できるのではないかと気付いてそれを口にする。

「し、しかし、テッセラ商事が強奪犯からワケを知らずに購入したという可能性もあるぞ!」

だが、鷹峰はその一縷の望みを切って捨てる。

「残念ながら、その可能性はありません。取引記録が無いからです」

ゴブダーン織はその文化的価値を保護・管理する目的から、取引記録を残すことが法律で義務付けられている。オプタティオ公国内で、市場価値250万フェンを超えるゴブダーン織を売買したり、譲渡したりする場合は、取引する双方の代表者が揃った上で公国役場に織物の現物を持ち込み、専門の役人立会のもとで取引記録書類を作成して申請しなければいけない。

「ビブラン大臣もご存知の通り、オプタティオ公国内で高価なゴブダーン織を取引しようとすると、取引記録を残さないといけません」

「法律を知らなかったのでは…?」

「取引する双方がですか? 素人ならまだしも、古物商や織物商を営んでいる人間がこの法律を知らないというのはありえませんよ。それに、ここ2年でテッセラ商事が取り扱った他のゴブダーン織の取引記録は、累計50反ほど残っています」

「うぬぬぬ…」

「では、なぜ記録が残っていないのか。考えられる理由は2つです。『テッセラ商事がゴブダーン織を強奪した主犯であり、どこからも購入していない』か、『盗品だと分かっていて購入したため、記録を残せなかった』のどちらかです」

「万事休すか…」

「なぜ犯罪者目線で万事休しているのですか」と、さらに嫌味を言おうかと考えた鷹峰だが、さすがに哀れに思って話を進める。

「大臣、クレアツィオン連合の金融の中心地はサピエンだそうですね。もし、パモストン子爵がこの件に激怒し、オプタ銀がサピエンでの取引を制限されてしまうとどうなりますか?」

ビブランはテーブルに両手をつき、苦虫を10匹くらい噛み潰した表情で答える。

「……、3日ともたずに営業停止だろうな」

「そうでしょうね」

「貴様はどうしたいのだ? そうやってオプタ銀を潰したいのか? それとも、オプタ銀の救済をさせて、公国の金庫をカラにするつもりか?」

鷹峰の生まれた世界でも、ルヌギアにおいても、一定以上の経営規模を誇る金融機関は「too big to fail(大きすぎて潰せない)」と言われている。金融機関という『貸し手』がいなくなると、資金不足からドミノ倒しのように連鎖倒産が起きる可能性があるため、大きい金融機関が経営危機に陥ると、国家が何とかして救済しなければならない。

しかし、オプタティオ公国は絶賛資金難状態である。このタイミングでオプタ銀行が経営危機を迎えなどしたら、「軍事費をカットしてエパメダ防衛を諦め、オプタ銀行を助ける」か、「オプタ銀行存続を諦めて、エパメダ防衛に金を注ぎ込む」かの二者択一を迫られてしまう。

「そうして欲しいですか?」

いたずらっぽく問い返す鷹峰に、大臣はプルプルと首を横に振る。

「ははは、私もそこまでバカではありません。そんなことをしたら、ロッサキニテだけでなく、公国ごと経済が死にますからね」

「潰す気は無いということか?」

「ええ。ビブラン大臣次第ですが」

そう言って鷹峰はビブランの目を見つめる。蒼白になっていたビブランだが、鷹峰にオプタ銀を潰す意思がないことが分かり、幾分落ち着きを取り戻す。

ビブランはテーブルの上に乗り出すような姿勢を止め、ソファに体を預けてから、観念して諦めた様子で問う。

「要求はなんだ?」

「落ちた」という確信を得て、鷹峰はニコリと営業スマイルを浮かべる。

「話が早くて助かります。要求は2つです。まず1つ目ですが、公国軍のトップを紹介してください」

「軍の? 理由は?」

「詳細は申せませんが、魔族との戦争において、被害を小さくするアイテムを売り込むためです。負傷者の医療費や見舞金による国庫負担が減りますから、ビブラン大臣にも利のある話ですよ」

「なんだそれは。怪しいアイテムだな」

面倒な話だとビブランは感じた。しかし、自軍トップの”生意気な若輩者”の顔を思い浮かべて考えを変える。「効果が出れば自分の手柄にすればよい。効果が出なければ、アイテムを採用した軍トップに責任をなすり付ければよい。どちらでも得だ」と政治家らしい計算が立ったのだ。

「だがまぁ…、いいだろう。軍トップのスタフティ将軍を紹介してやる。要求のもう1つは?」

「オプタ銀行のザンザラ頭取とビブラン大臣の会談アポを取ってくれませんか。私もそこに同席して、頭取にバルザー金庫の一件の損害賠償を求めます」

「ワシが同席する必要はないだろう。頭取宛にキミの紹介文を書いてやるから、直接交渉してくればいい」

そう言って突き放そうとしたビブランの耳に、鷹峰の悪魔のささやきが突き刺さる。

「ビブラン大臣、オプタ銀から軍事資金の融資を引き出したくはありませんか?」

「ダメだ、この男の言うことに耳を傾けてはダメだ」とビブランは思うのだが、公国の資金難に対処しなければいけないという立場上、垂らされたクモの糸にすがらざるをえない。

「どういうことだ?」

「つまりですね…」

鷹峰はオプタ銀を切り崩す策をビブランに語り始めた。

~~続く~~

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