今日から始める異世界M&A-2章15『実験しようそうしよう』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、債務整理ビジネスや投機に手を出した。しかし、魔族側からの思わぬ横槍を受けて利益を圧迫されてしまった鷹峰は、リベンジを期すためにラマヒラール金山の奪還に向けて動き始める。その一環で、新兵器の開発にも着手する。

2章15『実験しようそうしよう』

ルヌギア歴 1685年 6月1日 ロッサキニテ・エパネ海岸

『レインボーマテリアル』を運営するレインボー兄弟は、ソニアとハイディと共に、ロッサキニテ南西のエパネ海岸に来ていた。目的は、ドルミール草粉末の気化装置の実験を行うためだ。ついでに「エパネ海岸のニククラゲ駆除」という冒険者ギルドで出ていた依頼をこなして、コスト分くらいは回収しようという目論見もあったりはする。参考までに依頼主はエパネ海岸観光組合である。

「うわぁー、一杯いますねー」

ハイディがうんざりした様子でそう言った。

朝日を受けて輝く海面を、ピンク一色にニククラゲが埋め尽くしている。

「スゴイ数…、高報酬の理由はこの数かぁ…」

ソニアも眉間に皺を寄せて、ハイディの言葉に賛同した。

ニククラゲはその名の通りクラゲのような姿をしたピンク色の水棲モンスターである。サイズは全長1~2メートル程度。魔力を利用した短時間の空中浮遊が可能で、海岸に近づいた動物に群れで接近し、触手のしびれ毒でしびれさせてから捕食するという特徴を持っている。

しかし、空中浮遊ができると言ってもスピードは速くなく、しびれ毒についても解毒剤が安価に手に入ることから、「ニククラゲ討伐は初級冒険者の”おつかい”」と言われている。当然ながら、報酬もお駄賃程度のケースが多い。

「この辺りは来月から海水浴シーズンで賑わいますから、緊急で片付けないと商売にならないのでしょうね」

長男のレッド・レインボーが、装置の最終チェックをしながら依頼が高額となった一因を推察すると、ソニアが納得したように頷く。

「もう6月か。それで観光組合が800万フェンってバカ高い報酬を用意したのね」

そんな世間話をしていると、寝坊したシルビオが遅れて到着した。

「ごめんごめん、お待たせー」

「おはようございます。昨夜は、インゴット爆弾は上手く起動しましたか?」

レッドが心配そうな顔で尋ねると、シルビオは親指と人差し指で丸を作って笑みを浮かべる。

「遠隔起爆も威力もスマートだったよ」

テッセラ商事を陥れた純金インゴットボムは、言うまでもないがレインボーマテリアル製である。ただし、ロゼが脅し文句として言っていた時限式というのは嘘で、実際は遠隔起爆式であった

というのも、時限式では思わぬタイミングで爆発してしまう可能性があり、負傷リスクが無視できなかったらだ。

「怪我人も出ませんでしたか?」

「うん。ロゼ姉ちゃんとフラッドが名演技でクヌピ達を屋外避難させることができたし、クレタさんが遠視魔法で状況をチェックしてくれたから起動タイミングもバッチリ」

「それは良かったです」

一抹の不安はあったのだが、想定通り起動したようでレッドは少し肩の荷が軽くなったように感じた。だが、より大事なのはこの後の実験である。

レッドは全員に向き直って指示を出す。

「さて、それでは、早速実験を始めましょう。各自、所定の位置に移動して餌を設置してください。15分後にドルミールガスの噴出を開始します」

今回の実験では効果時間と効果範囲を計測するため、装置から200メートル、400メートル、600メートルの位置に撒き餌の肉塊を設置してニククラゲを集め、それぞれに催眠効果がどの程度出るかチェックするのだ。


15分後、砂浜東端部に置かれた装置の横にシルビオが立ち、気化装置上部に手をかざす。

装置はちょうどシルビオの身長と同じくらいの高さで、100リットルの大型フラスコの上部に、魔法陣の描かれた平たい円筒形の噴出装置が付いている。

「流体制御魔術はまだ簡易式なので、微調整はお願いします」

レッドが確認の意味を込めてシルビオに伝える。ドルミール草粉末を加工した催眠ガスを噴出するところまでは概ね完成しているのだが、一定の範囲内にガスを留め置く流体制御(気体制御)魔術はまだ完成していない。ガスの拡散を最小限にするためには、あと一歩改良が必要と言える。

「了解。任せといて」

珍しくシルビオも真面目に応じる。

シルビオはここ数日、レインボー兄弟と寝食を共にしながら装置開発に没頭していた。そのため成否が気がかりなのは彼も同じなのだ。

レッドは次に砂浜に目を向ける。弟達とソニアがすでに指定地点に肉塊をバラ撒いており、フワフワとニククラゲの群れが海面から浮上し、砂浜に向かって移動を開始している。

「よし。では始めます。ハイディさん合図を!」

「はーい。いきますよー」

そう言って、ハイディが鏑矢(かぶらや)を上空に向けて放つ。鏑矢がヒューンと甲高い音を鳴り響かせるのを聞きながら、レッドはフラスコ下部のスイッチを入れる。

同時にシルビオは目を瞑って流体制御魔法を起動する。装置にかざした右手のすぐ下に、半径50センチ程度の青白い魔法陣が展開され、装置上部から薄白い湯気が吐き出され始める。

「美しい。スマーテストな魔法陣だ」

とレッドは最大級の感嘆を表す。魔法陣の精緻さは、魔術師の技術と知識に依存する。流体制御という超高難度魔術を使いこなせる天才と共に開発を進められることが、心底幸福に感じられる。そういった幸福を感じながら装置の起動チェックをしていると、背後からハイディの声がかかる。

「ああー、やっぱり何匹か寄ってきますねー」

「想定通り、異変を感知して攻撃してきましたか。排除しましょう」

レッドは気を取り直して、「自分も少しは戦えるところを見せよう」と意気込み、まずまず得意とする火炎魔法をお見舞いしようと振り向く。

「ファイア…、えっ」

しかし、最初に寄って来たと思われる3匹のニククラゲ達は、既に2本の矢で焼き鳥のように串刺しにされ、砂浜に落ちてもがいている。

「次々来ますねー」

緊張感の薄い声でボヤきつつ、ハイディは次の獲物に矢を放つ。1本の矢が2匹、3匹を貫通して突き刺さっていく。

「命中率100%、いや150%とでも言うべきか」などとレッドは考える。

一方、装置から200メートル地点では、ソニアが5匹のニククラゲを槍で串刺しにしている。

「ほんとに、スマートな人ばかりで嬉しくなりますね」

思わず心の高鳴りを覚える。世の中には、多種多様にスマートな人材がいるものだ。


1、2分ほどニククラゲとの攻防が続いたが、起動から3分が経過すると、レッドとハイディに向かって来るニククラゲの動きが明らかに緩慢になった。攻撃するまでもなく、砂浜に突っ込むように落ちていく個体も散見される。

「効果が出始めましたね」

「すごいですねー。世紀の大発明かもしれませんねー」

「はは、それは褒め殺しです」

ハイディが真顔で絶賛したため、レッドは照れくささを隠すように言ってから、気を取り直して実験のための指示を出す。

「効果時間の確認がしたいので、手前に落ちた3匹と、あの岩の上の2匹は生かしたままにしてください」

「はーい」

レッドが視線を上げて遠くを見やると、砂浜のあちこちでニククラゲが地面に落ちて失神しているのが分かる。

装置から200メートルの地点では、次男のグリーンが熱っぽくソニアに何やら解説しつつ、木の枝で墜落したニククラゲをつついている。グリーンは美人を前にすると、いつもああだ。

起動から6分が過ぎると、400メートル、600メートル地点でも、撒き餌の肉塊に群がっていたニククラゲは全て砂浜に落ちて睡眠状態になった。三男のイエローと四男のパープルが両手を上げて大きく丸印をつくり、遠距離でも効果アリというサインを送ってくる。

「どう? 順調?」

シルビオが目を開けてレッドに尋ねた。

「効き目は極めてスマートですね。砂浜に上がったニククラゲで、浮遊状態の個体はありません」

「オッケー、あとは自動モードでいいかな」

「ええ。今のうちにサンプル以外は処理しましょう」

ニククラゲは水分が蒸発すると肉体を維持できないため、晴れた日に4,5時間も砂の上で眠らせておけば勝手に絶命する。しかし、触手の毒は分解されずに残ってしまうので、無害化処理が必要なのだ。

レッドは、依頼主の観光組合から支給された無害化用粉末(毒の分解酵素を含有)を出すように、青い服を着た五男に声をかける。

「おーい! シアン!」

 

「なぜ、五男は『ブルー』ではないのか?」とハイディは不思議に思う。とは言え、複雑な家庭環境などがバックボーンにあると面倒だし、「深淵な理由がありまして…」と、一般的に大した理由でもないことを、レッドが長々語り始めてもやっぱり面倒なので、なかなか聞き出せずにいる。

~~続く~~

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2 件のコメント

  • シアンのことが気になって、ソーセージの実演販売に集中できません。
    どうしたらいいでしょうか?

    • ヘチコさん、コメントありがとうございます!

      いつかきっと、レッドが
      『複雑な家庭環境に起因するが一般的にはよくある程度の理由』を話す日が来ると思いますので、
      どうか火傷しないようにソーセージの販売に集中なさってください。

      ちなみに私は日本ハムのアンティエ(レモン・パセリ)が好きです。

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