今日から始める異世界M&A-1章3『そうだ!取り立てしよう!』

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨はルヌギアという世界に召喚されてしまった。この世界に召喚された人物はなんらかの神通力を持つらしく、さらに「召喚されるのは日本人ばかり」というワケのわからない状況が判明する。

1章3『そうだ!取り立てしよう!』

ルヌギア歴 1685年 3月20日 アテス城下町 酒場『パルテノ』

「召喚ってのはその……、一体何なんだ? 魔法なのか?」

「魔法と言えば魔法の一種ね」

ニンジンのピクルスを齧りながらソニアが答える。

「ディスタムント鉱石っていう鉱物があるんだけど、それを高純度で、人間の体重くらいの量を集めて、ある術式を描いた魔法陣の上に置くと、鉱石と引き換えに日本人を召喚できるらしいのね。いや、らしいって言うのも変ね。現に今日やってみたら、あんたが出て来たわけだし」

はた迷惑な魔法だ。お陰様で命拾いしたとも言えるが。

「で、なんで召喚された俺の面倒を見ろってソニアが大臣から言われるんだ?」

鷹峰はそう言いつつ、白身魚のカルパッチョを口に含んだ。魚は新鮮で臭みがほとんど無く、イタリアン風味のドレッシングともマッチしている。氷の魔法でも使って鮮度を維持しているのだろうか。

料理に満足した様子の鷹峰を見て、ソニアは少し表情を綻ばせつつ答えた。

「あんたら日本人が社会に与える影響が大きいんで、ディスタムント鉱石が産出される鉱脈はクレア教会の監査が入るのよ。鉱石の産出量や純度によっては教会の直轄領になっちゃう場合もあってね。でも、それじゃ儲かんないでしょ」

クレア教会、また新しい言葉が出て来た。と思いつつ、鷹峰はだいたい合点がいった。

「なるほど。そのラマヒラールだっけか、ソニアが防衛隊をやってたっていう金鉱山。そこでは金鉱石と一緒にディスタムント鉱石が産出されていた。しかし、それがバレると教会に所有権を持って行かれるから、表には出さずに産出した分を隠し持っていた。その隠し分をどうするか大臣に相談した結果、どっかに埋めたり、闇商人に売って不完全な証拠隠滅するくらいなら、召喚してみようって話になり、俺が呼び出された。ってあたりかな?」

鷹峰の推測は当たっていたらしく、ソニアと女将さんが同時に感心した表情をみせた。

「鋭いわね。ご名答」

ソニアが言っていた「表向きは3,40年に1人」というのにも鷹峰は納得した。彼自身のように、非公式に召喚されるケースがいくらか存在するという事だろう。

「で、召喚されたのは理解したが、元に帰る方法はあるのか?」

ソニアが即答した。

「聞いたことが無いわね。というか、こっちに来た日本人はあまり帰りたがらないって話を聞くわ」

その言葉に鷹峰は絶望した。というわけではなかった。

今帰って元の世界でやりたい事もこれと言ってなく、不満だらけの日常に刺激が欲しかったくらいであったからだ。

それに信長にしろ竜馬にしろ(彼らが本人という前提ではあるが)、暗殺されてこちらの世界に来た人間が多いように思える。

案外、向こうの世界に愛想が尽きて、こっちで再出発したいと考えられるような人間が召喚されてくるのかもしれない。


エールをあおり、ピクルスをかじりつつ、

「次は国とか教会ってのを聞きたいんだが……」

と鷹峰が口にした時だった。

ドン! とテーブルを叩く音が鷹峰達の後方から響いた。

「なんだとてめぇ! もう一度言ってみろ!」

「おめぇはそうやって馬鹿だから嫁に逃げられると言ったんだよ」

「野郎!」

客の2人が喧嘩を始めた。大男というわけではないが、2人とも40代くらいの標準体型の男性客であった。

「さて、お仕事お仕事と」

と言ってソニアは立ち上がり、喧嘩現場に向けて歩み出す。それを見て心配そうな表情を浮かべている鷹峰に女将さんが言った。

「あれぐらいの酔っ払い親父なら平気だよ。ま、見ててみな」

お互いの胸倉をつかみ、怒鳴り合う2人に臆することなく、ソニアはつかつかと歩いていく。

2人の1歩手前で止まり、パンパンと手を叩き、視線を向けさせる。

「はいはいそこまで、これ以上やるなら勘定を済ませてから外でやりな」

2人は一瞬言葉を失ったが、嫁に逃げられると言われた側が先に口を開いた。

「この野郎が先に喧嘩を売って来たんだ」

「俺は事実を教えてやったんだ。素直に聞かないお前が悪い」

「てめぇ!」

「うるさい! 話題を変えて静かにするか、出ていくかどっちか決めなさい」

ソニアは臆する事無く言い放つ。

「うるさいのはテメェだ! 何様だこのアマ!」

男が矛先を変えて、ソニアの胸倉を掴もうと手を伸ばした時であった。ソニアが男の袖口をつかみ、体を沈み込ませると、次の瞬間には男の体が宙に浮いていた。続いて木板にぶつかる衝撃音とともに、男はあおむけに叩きつけられた。

床に寝そべった体勢になった男の左手首をソニアが握っている。どうやらソニアが投げ飛ばしたようだ。

「頭冷えた? 顔は真っ赤みたいだけど」

「ぬ……く……」

胸を打って息が苦しいのか、男の口から言葉が出ない。嫁に逃げられるんだと言った側も、驚きから口を開けて呆然としている。ソニアがこちらを向いて言った。

「女将さん、お勘定お願い!」

「あいよ」

女将さんがカウンター下の伝票を集計し、合計額を書いてからテーブルに持っていく。

「どっちが払ってくれるの? そこで揉めるようならとりあえず半々で払わせるわよ」

「…………。ああ、俺が払うよ」

嫁に云々を言った側が先に放心から回復し、降参の意を表して財布を取り出した。

会計を終え、2人が店の外に出たのを確認し、ソニアと女将さんがカウンターに戻ってきた。

「いや、お見事。美しい投げだったよ」

「ありがと。『一本』てやつだった?」

ソニアが目を大きく開いて微笑みながら聞いた。どうやら柔道の概念もいくらか伝播しているらしい。

「ああ。素人目に見ても間違いなく一本だよ。しかし、バッサリ終わらせるんだな」

女将さんが割って入って来る。

「ああやって暴れる奴等はまだいいのさ。それより、騒ぎに乗じて食い逃げする奴等がたまに居て、そっちが問題でね。そんなに店員も多くないから、ああいうトラブルが起きると目が届かなくなっちゃうのよ」

鷹峰は話に納得し、コクコクと頷きながら言った。

「なるほど。騒ぎが大きくなる前にケリをつけたいってことですか」

「そういうこと。ただでさえツケがたまってて火の車なのに、食い逃げまで出ちゃ堪らないからね。ソニアちゃんみたいに格安で信頼できる用心棒が居て大助かりなのさ」

状況を理解しつつ、鷹峰の脳裏に一つの問題点が浮かび上がった。ソニアは用心棒として価値のある仕事をしているが、自分はどうやって食い扶持を稼げばよいのだろうか。

ソニアのような武術の心得は無いし、人に出せるような料理の腕もない。サラリーマンとして鍛えたビール注ぎと、会計担当くらいしかできそうにない。あとはせいぜい皿洗いとジャガイモの皮むき担当が限界だろう。

ソニアが鷹峰の悩み顔に気付いて聞いた。

「なに心配顔になってるのよ?」

「いやぁ、俺はどうやって食い扶持を稼ごうかとね」

ソニアと女将さんが同時に目線を上にあげて考える。ソニアが言った。

「金融屋って言ってたわよね」

「ああ。預かった金で投資したり、金を貸したり、場合によっては取り立てたりって仕事」

鷹峰はそう言って、ハッと気づいた。

「そうか、取立をやってみるか」

鷹峰の意図を理解できず、二人が鷹峰の顔を覗き込む。

「今言ってたツケ、その回収をやらせて貰えませんか?」


酒場の閉店後、鷹峰とソニアは女将さんからツケの台帳を見せて貰った。

鷹峰が台帳を見てまず驚いたことは、数字が見慣れたアラビア数字であったことだ。女将さんが言うにはこれも日本人の影響で、この世界全土で数字はアラビア数字が使われているらしい。また、文字も平仮名に近い体系で基本的には一音一字とのことだった。と言っても、現時点の鷹峰に読めるものではないが。

ツケ台帳は綺麗な表になっていた。項目の説明を聞くと『顧客名、住所、職業、ツケ発生日、ツケ総額』を表しているということだった。

「へぇ。初めて見るんだけど、結構たまってるんだねー」

ソニアが物珍しそうに声を上げる。金額の大小を無視して、単純な客数だけを数えると、個人とグループを合わせて300組に届いていた。

「片っ端からってのは効率が悪い。選別しないとダメだな」

女将さんが聞く。

「どうやって?」

「そうですね。まず、残額はあるけれど最近は払いの良い客、ご新規様をよく連れてくる客なんかは除外した方がいい」

「なんで?」

ソニアの質問に鷹峰が答える。

「どっちも今後店に金を落としてくれるからだ。ツケの請求に行くってのは、いくらか嫌われること、つまり今後来店してくれなくなる可能性を考慮しないといけない。だから、店に金を落とす客は避けたほうが無難だ」

「なるほどね」

「嫌われ覚悟って点を考えると、ご近所様も止めた方がいいでしょうね。妙な噂を立てられると商売に影響がでますし」

鷹峰はそう言いながら帳簿をめくる。

「ちなみに、フェンって通貨の金銭感覚が分からないんですが、例えばさっきのエールビール1杯って何フェンですか?」

女将さんが答える。

「エール1杯300フェンだよ」

鷹峰は日本「円」の金銭感覚に極めて近いと感じた。

「参考までに聞きたいんですが、この国の普通の成人労働者の収入ってどれくらいですかね?」

「職にもよるけどねぇ……。うーん、この辺りだと宮仕えの若手で年300万フェンに届くかどうかってトコじゃないかねぇ」

「なるほど。ちなみに、1年って何日ですか?」

ソニアが答える。

「ルヌギアだと……、ああルヌギアってのはこっちの世界の名前ね、こっちだと1年は15ヶ月で455日だね。そっちはもう少し短いって聞いたことがあるね」

「ああ。俺の元居た世界は12ヶ月の365日だからな」

宮仕え、つまり公務員みたいなものだろう。公務員の若手で月収20万フェンということだから、通貨の価値としては、「円とほぼ同じ」といった感覚で良さそうだと鷹峰は思った。さらに帳簿をめくりつつ考えをまとめる。

「さて、さらに絞ると。金が無いと現段階で分かる客なんかも当然除外ですね。回収に行くだけ無駄ですから。例えば、住所がスラム街なんてのは諦めた方がいいでしょう」

ソニアと女将さんが無言で頷く。

「で、残った返せそうな客で狙いどころなのは2パターン。まず1つ目はツケが評判上よろしくない人々。セレブで見栄っ張りな人達や、法人ですね。あ、『法人』って通じますかこっちでは?」

鷹峰の質問に女将さんが首をかしげながら答えた。

「仕事を請け負うグループのことよね。魔族がそういう言い方をするって聞いたことはあるけれど、人間社会だと『ギルド』って言葉を使うのが一般的かしらね」

「なるほど。では、公共性の高いギルドや、お堅いところとの取引が多いようなギルドはアリかもしれませんね。で、もう1つは返せるけど返す気の無い奴ですね。喧嘩に自信があったり、後ろ盾があったりって奴。これはソニアが捻じ伏せられる相手なら回収できるかもしれません」

それを聞いてソニアは少し不満顔を浮かべる。

「何よ、私が協力する前提なの?」

「大臣さんに面倒見ろって言われたんだろ。っていうか、最低限、場所だけでも案内してくれないと俺だけじゃ無理だ」

「ちゃんと分け前はくれるのよね?」

「もちろん」

それを聞いてソニアはニッと歯を見せて笑った。ありがたいことに、合意に至ったようである。

「それじゃあ、その条件にあうモノに印をつけとくよ。この帳簿に乗せてるのはどれも中長期でタチの悪いツケだから、回収できたら3割あんたらの取分ってトコでどうだい?」

意外と高率の手数料を提示され、鷹峰は報酬感覚が分からずにソニアを見た。

「いい話だと思う。私は取り分1割で昼間なら付き合ったげる」

しばらく酒場に居候する以外にアテもない。ついでに小遣い稼ぎができると考えれば、鷹峰に断る理由は無かった。

~~続く~~

前の話に戻る 次の回へ進む

※「最新話の更新を知りたい」という読者様は下のボタンからフォローしてくださいネ!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です