フェニックスファイナンス-1章3『そうだ!取り立てしよう!』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨はルヌギアという世界に召喚されてしまった。この世界に召喚された人物はなんらかの神通力を持つらしく、さらに「召喚されるのは日本人ばかり」というワケのわからない状況が判明する。

1章3『そうだ!取り立てしよう!』前編

ルヌギア歴 1685年 3月20日 アテス城下町 酒場『パルテノ』

「召喚ってのはその……、一体何なんだ? 魔法なのか?」

「魔法と言えば魔法の一種ね」

ニンジンのピクルスを齧りながらソニアが答える。

「ディスタムント鉱石っていう鉱物があるんだけど、それを高純度で、人間の体重くらいの量を集めて、ある術式を描いた魔法陣の上に置くと、鉱石と引き換えに日本人を召喚できるらしいのね。いや、らしいって言うのも変ね。現に今日やってみたら、あんたが出て来たわけだし」

はた迷惑な魔法だ。お陰様で命拾いしたとも言えるが。

「で、なんで召喚された俺の面倒を見ろってソニアが大臣から言われるんだ?」

鷹峰はそう言いつつ、白身魚のカルパッチョを口に含んだ。魚は新鮮で臭みがほとんど無く、イタリアン風味のドレッシングともマッチしている。氷の魔法でも使って鮮度を維持しているのだろうか。

料理に満足した様子の鷹峰を見て、ソニアは少し表情を綻ばせつつ答えた。

「あんたら日本人が社会に与える影響が大きいんで、ディスタムント鉱石が産出される鉱脈はクレア教会の監査が入るのよ。鉱石の産出量や純度によっては教会の直轄領になっちゃう場合もあってね。でも、それじゃ儲かんないでしょ」

クレア教会、また新しい言葉が出て来た。と思いつつ、鷹峰はだいたい合点がいった。

「なるほど。そのラマヒラールだっけか、ソニアが防衛隊をやってたっていう金鉱山。そこでは金鉱石と一緒にディスタムント鉱石が産出されていた。しかし、それがバレると教会に所有権を持って行かれるから、表には出さずに産出した分を隠し持っていた。その隠し分をどうするか大臣に相談した結果、どっかに埋めたり、闇商人に売って不完全な証拠隠滅するくらいなら、召喚してみようって話になり、俺が呼び出された。ってあたりかな?」

鷹峰の推測は当たっていたらしく、ソニアと女将さんが同時に感心した表情をみせた。

「鋭いわね。ご名答」

ソニアが言っていた「表向きは3,40年に1人」というのにも鷹峰は納得した。彼自身のように、非公式に召喚されるケースがいくらか存在するという事だろう。

「で、召喚されたのは理解したが、元に帰る方法はあるのか?」

ソニアが即答した。

「聞いたことが無いわね。というか、こっちに来た日本人はあまり帰りたがらないって話を聞くわ」

その言葉に鷹峰は絶望した。というわけではなかった。

今帰って元の世界でやりたい事もこれと言ってなく、不満だらけの日常に刺激が欲しかったくらいであったからだ。

それに信長にしろ竜馬にしろ(彼らが本人という前提ではあるが)、暗殺されてこちらの世界に来た人間が多いように思える。

案外、向こうの世界に愛想が尽きて、こっちで再出発したいと考えられるような人間が召喚されてくるのかもしれない。


エールをあおり、ピクルスをかじりつつ、

「次は国とか教会ってのを聞きたいんだが……」

と鷹峰が口にした時だった。

ドン! とテーブルを叩く音が鷹峰達の後方から響いた。

「なんだとてめぇ! もう一度言ってみろ!」

「おめぇはそうやって馬鹿だから嫁に逃げられると言ったんだよ」

「野郎!」

客の2人が喧嘩を始めた。大男というわけではないが、2人とも40代くらいの標準体型の男性客であった。

「さて、お仕事お仕事と」

と言ってソニアは立ち上がり、喧嘩現場に向けて歩み出す。それを見て心配そうな表情を浮かべている鷹峰に女将さんが言った。

「あれぐらいの酔っ払い親父なら平気だよ。ま、見ててみな」

お互いの胸倉をつかみ、怒鳴り合う2人に臆することなく、ソニアはつかつかと歩いていく。

2人の1歩手前で止まり、パンパンと手を叩き、視線を向けさせる。

「はいはいそこまで、これ以上やるなら勘定を済ませてから外でやりな」

2人は一瞬言葉を失ったが、嫁に逃げられると言われた側が先に口を開いた。

「この野郎が先に喧嘩を売って来たんだ」

「俺は事実を教えてやったんだ。素直に聞かないお前が悪い」

「てめぇ!」

「うるさい! 話題を変えて静かにするか、出ていくかどっちか決めなさい」

ソニアは臆する事無く言い放つ。

「うるさいのはテメェだ! 何様だこのアマ!」

男が矛先を変えて、ソニアの胸倉を掴もうと手を伸ばした時であった。ソニアが男の袖口をつかみ、体を沈み込ませると、次の瞬間には男の体が宙に浮いていた。続いて木板にぶつかる衝撃音とともに、男はあおむけに叩きつけられた。

床に寝そべった体勢になった男の左手首をソニアが握っている。どうやらソニアが投げ飛ばしたようだ。

「頭冷えた? 顔は真っ赤みたいだけど」

「ぬ……く……」

胸を打って息が苦しいのか、男の口から言葉が出ない。嫁に逃げられるんだと言った側も、驚きから口を開けて呆然としている。ソニアがこちらを向いて言った。

「女将さん、お勘定お願い!」

「あいよ」

女将さんがカウンター下の伝票を集計し、合計額を書いてからテーブルに持っていく。

「どっちが払ってくれるの? そこで揉めるようならとりあえず半々で払わせるわよ」

「…………。ああ、俺が払うよ」

嫁に云々を言った側が先に放心から回復し、降参の意を表して財布を取り出した。

1章3後編に続く

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