フェニックスファイナンス-1章2『召喚されるのはだいたい日本人』後編

2020年4月11日

1章2『召喚されるのはだいたい日本人』後編


聞いたことの無い地名に魔族の存在までソニアの口から出てきた。鷹峰は、呆れ返って目眩がしそうになるのを堪えつつ尋ねた。

「魔族ってどんな奴等なんだ? 俺の元居た世界じゃ物語の中にしか出てこなくて、実在はしてないんだ」

「魔族って言っても色々ね。人間と姿形が似ていて、角が生えてて肌が緑色のデモニック族とか、四本足で駆け回る犬とか狼みたいな獣族とか」

まさにファンタジー世界のモンスターと言った趣である。

「あとは、手の平サイズの小悪魔とか、このお店サイズのドラゴンとか、手足の生えた半魚人とか……数え切れないくらいいるわ」

「まさに俺の知ってる物語の魔族だな……。で、やっぱ人間とは敵対的なのか? 金山を奪われたって言ったよな」

この質問に対して、ソニアは少し悩み顔になる。

「うーん……、大昔はそれこそ互いの生存をかけて戦っていたらしいんだけど、最近はそこまで敵対的でもないわね。鉱山みたいな土地を取り合う小競り合いはあるけど」

ここで、女将さんが皿を洗いながら、ソニアの言葉に付け加えるように言った。

「昔は魔族との取引なんて完全禁止だったけど、10年くらい前から条件付きで許可されるようになったしね。ブールグラス牧草の取引なんかが特徴的かもねぇ」

知っている牧草名と微妙にイントネーションの違う言葉が出てきた。

「ブールグラスですか? ブルーグラスじゃなくて? 俺のいた世界では、馬とか牛の飼育に使われるブルーグラスって牧草があるんですが」

「ブールグラスを馬とか牛が食べるってのは聞かないわねぇ。こっちのブールグラスはドラゴン族にとって栄養満点な草なんだけど、生育できる場所が限られててね。幸運なことに、オプタティオ北部のユゴ盆地では雑草のように生えているから、それをかき集めてドラゴンに売っているそうよ」

その言葉に鷹峰がさらに反応する。

「売るってことは、魔族もお金を使うんですか?」

「種族によりけりだねぇ。知能の低い魔族なんかは、お金の計算自体できないし」

確かに、アニメやゲームに出てくる一部低知能モンスターに金勘定は荷が重そうである。契約を守るという倫理観もなさそうだから、そもそも商取引自体が難しいようにも思える。

「でも、一部は人間より金汚いくらいよ」

少々トゲのある口調でソニアが言った。単細胞で、人を見かければ襲い掛かるというRPGの魔族とは少し勝手が違うようなのも確かである。ただ、『倒したらお金を落とす』というRPGの謎設定を解決するような事実なのかもしれない。

「ところで、魔族って魔法を使ったりするのか? あとは火を吐いたり竜巻を起こしたり」

馬鹿にするような素振りは全く見せず、ソニアが落ち着いた様子で答えた。

「デモニック族なんかは魔法が得意なヤツが多いわね。魔法で幻惑したり、風を起したり、水を操ったりってトコかな。逆に獣族の奴らは苦手みたいで、身体能力で押してくる感じ。火を吐くというのは、ドラゴン族の一部ができるって話は聞いたことがあるかな」

鷹峰は「おいおい、ホントかよ」と笑いそうになったが、現に自分が召喚されたことを思い出し、魔法をはじめとする非科学的な現象の存在を認めざるをえなかった。


少し言葉を失った鷹峰を見て、ソニアが聞いた。

「私の前歴は言った通りだけど、あんたは向こうで何してたの? ビブランとの会話でサラリーマンとか金融屋とかなんとか言ってたけど」

証券会社の業務を理解して貰える自信はなかったが、物は試しと口に出してみた。

「そうだな、株とか債権ってこっちの世界にもあるかな? そいつの販売をやってたんだ」

「もちろんあるわよ」

意外にもアッサリと答えが返ってきた。さらに女将さんが付け加える。

「そもそも日本人がこっちに持ち込んだ商文化だしねぇ。こっちの人間世界じゃ、株はあんまりメジャーじゃないけど、債券はギルドとか銀行が普段から利用しているわね」

経済・経営について知識のある日本人が過去に召喚され、なにか商売でもやってこっちで一財産築いたのだろうか。

そう言えば、ビブランが「過去の偉人」とか言ってたな。その過去の偉人とやらについて聞いてみるか、と鷹峰は思考を展開した。

「日本人ってのはそんな頻繁に召喚されるものなのか? 『過去の偉人達は』みたいなことを大臣サンが口にしてたよな」

ソニアはちょっと悩ましげな表情になりつつ答えた。

「頻繁とまではいかないわね。この国では、表向きには、3,40年に1人くらいのはずよ」

「ちなみに、さっきのビブラン大臣との会話からの推測だが、俺は『裏向き』って認識であってるよな?」

ソニアは小笑いしながら答えた。

「あはは、その通りよ」

「ま、それはいいや。で、その偉人さんを何人か教えてくれよ。ひょっとしたら知ってる人物が居るかもしれない」

「そうね……」

そう言いながら、ソニアはさきほどビブランから貰った紙幣を取り出し、広げて見せた。鷹峰の元いた世界に存在する各種紙幣の例にもれず、その紙幣にも肖像画が描かれていた。

ただし、異様であったのはその肖像画の男が中世日本武士のような、角飾りのある兜をかぶっているところだ。

「これ、1万フェン札なんだけど、この肖像画のターメス=トモスが最も有名だね。本名は何だったかな、昔聞いたことが……」

「みなもとためとも、じゃなかった?」

女将さんがオツマミのピクルスと、白身魚のカルパッチョを差し出しながら言った。

「みなもと」という姓から察するに、源平合戦の頃の武将だろうか。

「そのターメス=トモスはどんな能力、神通力があったんだ?」

「ターメス=トモスと言えば剛力、そして弓矢ね。彼が放った矢は光のような速さで空を切り裂き、大地をめくりあげ、矢が刺さる前に衝撃波で敵が木っ端微塵になったって伝説ね」

あまりの剛勇さに、鷹峰は如実に怪訝な顔をした。

「なに? 信じられないって顔してるわね」

「俺の無能さとギャップがありすぎてね……」

「他には、そうね、リョー=マとかタモンマールとか第六天魔王とかも日本人として有名ね。後ろの2人はこの国では偉人って言うか、大悪党扱いだけど」

「ははは、タモンマール以外の2人は思い当たるフシがあるよ」

第六天魔王は戦国時代の知識がある人間なら当然思い至る人間、織田信長だ。無論、戦国時代オタクが真似をして名乗った可能性もあり、本人とは限らないが。リョー=マはもしかしたら坂本竜馬かもしれない。タモンマールは誰だかわからないが、『○○丸』という名前が変化したものだとすると、昔の日本人男性の可能性はあるだろう。

女将さんも皿を洗いながら1人思い出したようで付け加えた。

「オプタティオ公国で召喚されて有名なのは、アサノ=タクミっていうのがいるねぇ。塩の製法を劇的に改良した技術者。でも女癖が悪くて癇癪もちだったって話だけどねぇ」

同世代の日本人男性と思って差し支えない名前である。やはり例にあがった人物たちは、全員日本人と言えば日本人なのかもしれない。少なくとも日本列島で死んだ人間ではありそうだ。

1章3前編に続く

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