フェニックスファイナンス-2章13『純金取扱注意』後編
2章13『純金取扱注意』後編
八方ふさがりな状態で頭を抱えていると、事務所のドアが開かれて先ほどの4人が事務所に雪崩れ込んでくる。
「こちらに金のインゴットがありますよね!? 今すぐ出してください!」
警衛兵の青年がカウンターの外側からクヌピに向かって急かすように言った。
「え、いや、あの…」
要領を得ない答えに、ショートカットの女性が前に出て問いかける。
「先ほど、トネリさんからあなたが預かった金のインゴットは、私共の開発したトラップ用の爆弾です! もうすぐ爆発するんです!」
「そ、そんなものは預かっていない」
「点滅していませんか!?」
「へっ?」
その言葉を聞いて、思わず視線が下の戸棚に向いて、ギョッとする。インゴットが点滅どころか、溶岩のように赤い光を発し始めている。
「そこにあるんですね!? 点滅は爆発まで3分を切った合図です!」
「ばくはつ? いったい何のことだか…」
なんとか声を振り絞るが、女性は意に介さない。
「1分を切ったら、赤く発光します! 早くしてください! 死にたいのですか!?」
「1分!? ホントか!?」
そう反応してしまってから、口を抑える。もう無理だ。
「赤いのですか?」
警衛兵にそう聞かれて、クヌピは頷くでも、首を横に振るのでもなくその顔を見る。
「コイツの顔見りゃ分かるだろ! おめぇらは避難しろ!」
静止した空気を破ったのは人相の悪い男だった。男は警衛兵と女性とトネリに外に出るように指示しつつ、カウンター内に入り込んで来て、クヌピの左腕を掴んで引っ張る。
「お、おい」
拒絶する力も湧かず、クヌピは事務所の入り口まで引っ張っていかれる。その時、キューンと空気を吸い込むような音が響き、先にドアの外に出ていた女性が叫ぶ。
「伏せて!」
クヌピはドアの外に倒れ込むように姿勢を低くして、耳をおさえる。
瞬間、バァン!という爆発音が響き渡り、建屋が縦に揺れる。衝撃の大きさに頭が真っ白になる。
「なんとか怪我人は出ずに済んだか」
隣に伏せていた人相の悪い男が先に立ち上がり、周囲を見渡してからそう言った。
クヌピも膝立ちになって体を起こして、ドアの内側に視線を向ける。
「ああ…」
横幅3メートルほどの、重厚な木造りであったカウンターが真っ二つに裂けている。カウンター内に立っていたら命が危なかったかもしれない。加えて、カウンターに置いていた書類や、インゴットの横に置かれていた仕事道具などが破損して散らばっている。掃除したり、道具を修理するだけで3日は潰れそうで頭が痛い。
そう考えると、無性に腹が立ってきた。なぜこんな危険なものを作ってギルドに置いているのか。
「おい、キミはどこの誰なんだね! こんな危険なものを作るとはどういう了見なんだ!」
クヌピは女性に向かって青筋を立ててその怒りを表した。頭を下げさせなければ、腹の虫が収まらない。
しかし、返ってきたのは蔑むような冷淡な目と声だった。
「私はフェニックスファイナンスのロゼ・プリテンダと言います。クヌピさんは、危険なものと仰いましたが、対魔族用のトラップ兵器なのですから危険で当然です。危険でなくては兵器として失格です」
「しかしだねぇ、こんな威力のある物なら、しっかりと管理を…」
「開発に際しては公国の許可を取っています。また、注意書きを添付した上で、施錠した武器庫に保管していました。こちらは管理義務を果たしています」
自分の口にした数倍の量の反論が返ってくる。しかも、論理的に筋が通っている。
「くっ……、被害者はこちらなんだぞ!」
「ご自分の非を棚に上げて、こちらになすり付けるのですか?」
そう言ってロゼという女はクヌピの真意を問うように、真っ直ぐに目を見つめてくる。
「取り立てと称して、金品を無理矢理に強奪していくからこの惨事が起きたのです。その取り立ての指示を出しているのはあなたですよね?」
「な、なんのことだね」
「では、オプタフィナンシャルグループの一角を担うテッセラ商事さんが、どうして盗品まがいの物品を保管されているのですか? バルザー金庫を運営しているのはあなたではないのですか?」
バルザー金庫の名前が出てきて、クヌピは総毛立つ。
なぜこの小娘はここまで事情を知っているのか、と焦燥が募る。
「なんだね、そのバルザー金庫とか言うのは?」
クヌピはトボけた表情で強がってみた。しかし、相手はさらに上を行った。
「ご存知ないのですか? クヌピさんの奥様の妹の旦那様や、オプタ銀行のザンザラ頭取のお母様が代表をされている貸金ギルドですよ」
「な…」
「なぜそこまで知っているのか?」と言いかけて、クヌピは両手で口を塞いだ。
その様子を見て、ロゼという女は少しだけ笑って言った。
「ザンザラ頭取とクヌピさんは同期入行でいらっしゃいますよね?」
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