フェニックスファイナンス-2章12『気に入らないならブチ壊す』後編

2020年4月11日

2章12『気に入らないならブチ壊す』後編


「また難しい顔してるわねー。今までの傾向だと、そういう顔してる時はアイデアが出てきていない気がするわねぇ」

飲み物をテーブルに運んで来た女将さんが言った。

「今回ばかりはリスクが大きいですね。賢い選択をとらざるを…」

ため息まじりに鷹峰は応じようとするが、女将さんは笑いながらそれを切って捨てる。

「ウチのギルドのメンバーは、誰もあんたに賢い選択なんて求めてないと思うけどね」

女将さんの意外な物言いに鷹峰はハッとさせられる。

「賛成。あたしは面白い選択を見たいかな。皆もそうでしょ?」

ソニアが賛意を示しつつ、周囲に問いかける。

「もちろんそうです」

「私もー」

ロゼとハイディは即答する。ロゼもハイディも「どちらが無難か」という意見は口にしたが、結局のところそれが気に入らないという点は鷹峰と変わらないのだ。

「やられっぱなしは癪だしね」

とシルビオも付け加えた。

「ははっ、面白い選択か」

鷹峰はそう小笑いしてから、目をつぶって再度思考を始める。

どうなれば面白いのか、というのは案外単純だ。エフィアルテスに一泡ふかせられればいい。

では、どうやって一泡ふかせるか。

今回の勝負は、エフィアルテスの作り上げた『ゲーム』の中で行われている。このゲームの中で戦っていては勝ち目などない。向こうの用意した選択肢を受け入れた段階で、泡をふくのはこちらになってしまう。

自分達が勝つためには、このゲームを成立させている『前提』からひっくり返さなければいけない。エフィアルテスの作ったゲームを前提ごと破壊して、こちらがゲームを再構成するしかないのだ。

そう考えたとき、鷹峰の脳内に一つのアイデアが生まれた。

「ボメルさん。さっきの話の内容から考えたのですが、ラマヒラール金山を再奪取できれば、オプタティオ前線、つまり魔族のエパメダ攻撃を止められますか?」

意外な質問に一瞬ボメルは驚いた様子だったが、落ち着いて返答する。

「公国軍の動きや魔族の進軍状況によるが、9割方止められるだろうな。少なくとも、エパメダへの攻撃規模を大幅に縮小させられることは期待できる」

鷹峰は次にハイディに目を向けて問う。

「ハイディ、ロッサ金属鉱山の負債総額っていくらだ? バルザー金庫以外からの借りはあるのか?」

「えっ?」

ハイディも、話題の変化に一瞬キョトンとしたが、すぐに我に返ってさきほどのメモを見ながら返答する。

「負債総額は約10億フェンでー、バルザー以外からの借金は数百万くらいですねー。あとは負債とはちょっと違いますけど、固定資産税の未納分が3億程度ですー」


次にロゼを見て聞く。

「ラマヒラール金山の所有権なんだが、もし人間側の誰かが奪還に成功した場合、所有権は今のロッサ金属鉱山に戻るのか?」

「ええ。その通りです」

「もう一つ、ドルミール草粉末の取引で、粉末の純度を規定するような法律はあるのか?」

ロゼは首を横に振る。

「小麦粉や塩、砂糖といった食料品や調味料に関しては法律が有りますが、魔法材は法整備が間に合っていません。純度を明示して取引すれば問題はないと思います」

「シルビオ、こっちで購入した308キロの純度ってどうなってるんだ? 購入した店とかギルドによってバラバラか?」

シルビオは鷹峰の懸念を笑って払拭させる。

「甘く見て貰っちゃ困るね。純度は90%より上に調節してから買い取ったよ。ちなみに、ロッサキニテ周辺だと、純度70%くらいが標準だね」

「上出来だ。あと、5色兄弟に開発依頼したドルミール草粉末を利用した防衛アイテムだが、あれは金山攻撃用に使えるか?」

「うーん。どんな機構になるかによるけど、金山内部に持ち込めるなら攻撃用にも使えるんじゃないかな」

鷹峰の質問の嵐に、ソニアが口を開く。

「ちょっとあんた、何を思いついたの?」

「ソニア、ラマヒラール金山を奪還するのに必要な戦力はどれくらいだ? ドルミール草粉末で意識を奪って無力化してから突入すればどうにかなるんじゃないか?」

「金山の基地に粉末を充満させられるなら、3,40人くらいで……、じゃなくて、あんた金山に手を出すつもりなの?」

鷹峰はコクリと頷いて言った。

「今のこの状況を引っくり返すには、それくらいの規模でゲームをひっくり返さないとダメだ」

「どういうこと?」

鷹峰は注目を集めるようにメンバーを見渡してから、ソニアの問いに答える。

「エフィアルテスは本業の製薬業で儲けるために1種のゲームを展開している。だが、このゲームを成立させるには前提条件がある。それは、ラマヒラール金山をオプタティオ前線の管理下に置いて、大きな戦争が起きる状態を作ることだ。だから俺たちは、そのゲームを前提ごとぶっ壊して、『俺たちの儲かるゲーム』に再構築する」

鷹峰はここで一拍置き、決意を示すように、ゆったりと強い口調で続けた。

「俺たちがやることは2つだ。金山を奪い返す。そして、戦争を止める」

2章13前編に続く

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