フェニックスファイナンス-2章12『気に入らないならブチ壊す』中編

2020年4月11日

2章12『気に入らないならブチ壊す』中編


首を傾けて考え始めた鷹峰を見て、ソニアが間を持たせるように言った。

「あと、戦争ではエパメダを狙うってさ。どこまで本気かは分からないけど」

「エパメダか。戦をデカくしたいってんなら、これ以上ない選択肢だな。市街地の南側は畑ばかりのだだっぴろい平野だから、大軍同士が向き合うと正面衝突しちまう可能性大だ」

ボメルがトレードマークのスキンヘッドをペシペシと叩きながら愚痴っぽく応じた。

「金山を獲られたのが布石になっちゃったね。獲られてなければ、エパメダを狙うなんてことは無理だろうし」

ボメルに続いてシルビオが呟いた言葉に、鷹峰は引っ掛かりを覚えた。

「金山を獲られていなければ、エパメダが狙われていない、というのはどうしてだ?」

「それは、あたし達が金山にいて、ギロっと睨みをきかせていたからよ」

ソニアが得意げに、胸を張りながらそう言った。鷹峰は山の上からギロっと睨んでいるソニアを思い浮かべるが、具体的なところは不明である。

「おいおい、いくらなんでも雑すぎんだろう。そうだな、何か描くモノはねぇか? 地図を描くと一発で分かる」

ボメルの提案を聞いてロゼが「これを使ってください」と紙片とペンを差し出した。ボメルはそれを受け取り、テーブルに広げながら話し始める。

「知っての通り、オプタティオ半島を南北に走るピードス山脈は急峻で、人間や陸上魔族が東西移動するのはかなり困難だ。だが、比較的標高が低く、傾斜もなだらかで、山越えが可能な場所が2つだけある。1つはアテス東南東のエウカリ山周辺。そして、もう1つがラマヒラール金山の周辺だ」

ボメルは説明しながら、スムーズに半島の地図を描いていく。

「去年の今頃まで、このラマヒラール金山には俺たち金山防衛隊が駐屯していた。オプタティオ周辺で有数の精鋭を集めた6、70人規模の部隊だ。この状態で、魔族側が本拠地をスッカラカンにしてエパメダを攻めようとするとどうなる? ちなみに魔族側の進軍経路は山脈を迂回する南回りルートだな」

ボメルの問いかけに、ハイディが地図上のラマヒラール金山からクライオリンに向けて指を走らせつつ答える。

「わかりましたー。金山防衛隊が攻撃隊に変身してー、山を下りてクライオリンを奇襲できるんですねー」

「正解だ。この奇襲が怖いから、人間側が金山を抑えていると、奴らは大規模な軍事行動に出れねぇんだ。魔族側としては、最低限の本拠地防衛部隊を残すって選択肢も無くはないんだが、その場合は魔族の勢力圏内で、延々と焼き討ちでもしてやればいい。魔族の本隊が戻る頃には一面焼け野原で、組織維持は不可能になるだろうな」

魔族側が、人間のラマヒラール金山部隊による本拠地侵攻や、勢力圏内での焼き討ちを抑えようとすると、一定数の兵力を勢力圏内に分散配置しておかなければいけない。このため、金山を抑えられた状態で大軍を動員して大きな戦を起こすことは非現実的なのである。

「逆に言えばー、金山を奪取できた今なら本拠地をスッカラカンにしてー、大軍でエパメダを攻めるのも可能ってことですねー」

「そういうことだ」


「で、どうするの? 260万で売却するの?」

思考を巡らせながら、やり取りを黙って聞いている鷹峰に対してソニアが結論を求める。

しかし、これといった良い考えは浮かばない。

「売却するのが無難な選択ではありますね。利益も確保できますし」

黙り込む鷹峰を見て、ロゼが残念そうに言った。

確かに、リスクマネジメントの観点では売却するのが最善だろう。キロ260万フェンでも少額ながら利益は確保できる。

「拒否して相場を暴落させられるとー、大損ですしねー」

ハイディの嘆く通り、その点も懸念である。相場の暴落度合によっては、赤字どころかギルド存続すら危うくなる可能性もある。

「それは分かるんだが…」

鷹峰はそう言って言葉を濁す。決断できない理由は単純に「気に入らない」からだ。

一方的に喧嘩を吹っかけられ、YES/NOの選択を突き付けられ、賢くYESを選ぶと敵の思惑通りとなってしまう。しかし、意固地になってNOを選んでも大損させられる。

相手の用意した選択肢のどちらかを選ぶこと自体が敗北を選ぶに等しいのだ。こんな状況に腹が立って仕方がない。

しかし、だからと言って何の対策もなしにNOを選ぶことは自殺行為である。今回ばかりは腹立たしいことを我慢して、YESを選択するしかないとも感じる。

2章12後編に続く

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