フェニックスファイナンス-2章12『気に入らないならブチ壊す』前編
前回までのあらすじ
ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は戦争を見据えた投機に手をだした。投機物資の購入は上手く運んだのだが、魔族の実力者であるエフィアルテスがギルド事務所にやって来て、投機物資を安値で売れと脅迫まがいの要求をされてしまう。
2章12『気に入らないならブチ壊す』前編
ルヌギア歴 1685年 5月21日 ロッサキニテ・アローズバー『鳥の巣』
「面白そうなタイミングを逃しちまったなぁ」
夕方、開店前の『鳥の巣』にやってきたボメルが、鷹峰達からエフィアルテスが来訪したという話を聞いてそうボヤいた。
「本当に、エフィアルテス本人だったかどうかは分かりませんがね」
魔族なのだから、本"人"ではなく、本"者"と言うべきだろうか。などと考えながら鷹峰が疑念を口にすると、ランチタイムに売れ残ったフルーツデザートをつついていたシルビオが答えてきた。
「たぶん本人だよ。角が30センチ近くあったからね」
「確かに30センチくらいでしたが、どうしてそれで本人だと分かるんですか?」
「デモニックジョクはチュノのながさんごッ!」
シルビオはリンゴをかみ砕きながらロゼの質問に答えようとしたが、あまりの行儀悪さにソニアにゲンコツを見舞われる。
「私たちがデーモンとかデモニックって呼んでる連中は、上のヤツほど角が長いのよ。あそこまで長いのは、かなりエラい奴ってこと」
概ね理屈は分かる。だが、鷹峰はもう少し指標となる長さが知りたいと感じる。シルビオがそれを見てとったようで、リンゴを飲み込んでから説明する。
「下級デモニックの角は大きめのドングリくらい。小隊長クラスで7,8センチ、オプタティオ前線のような組織の中でデモニック族を代表する大隊長クラスだと14,5センチ程度かな。20センチを超えると、族長とかそれに準じるクラスで、ルヌギア全土に数人しかいないよ」
ボメルがそれに頷きつつ付け加える。
「そして、エフィアルテスはデモニック族の現族長様ってな」
「なるほど。しかし、影武者の可能性は…、影武者ってこっちで通じますか?」
「影武者で通じるぜ。ただ、その可能性は極めて低いな。角はデモニック族内での上下関係を現す大事な部位で、身分をわきまえない長さに伸ばしたり、長さを偽ることは反逆行為に等しいって話だ。だから、30センチクラスの角を持った影武者を用意するのは至難だろうな」
どうやら、エフィアルテス本人だったと考えるのが妥当なようだ。ご本人様が自ら敵対ギルドの事務所に赴くとは、よほどトップダウン意識が強いか、あるいは好奇心を抑えられないタイプなのだろう。
「本人の可能性が高そうですねー。なんだかドルミール草粉末も効きませんでしたしー」
ハイディの言葉を聞いて、鷹峰も先ほど気になったことを思い出す。変化魔法を解除するために、シルビオがドルミール草粉末をエフィアルテスの顔面に向けてブチ撒いたのだが、意識レベルはハッキリしたままであったのだ。
「それは俺も気になっていたんだ。シルビオがさっき言ってた中和魔法って何なんだ?」
シルビオは肩をすくめて答える。
「その名の通り中和して無効化する魔法だよ。方法としては興奮・覚醒魔法と、いわゆる気つけ薬を併用して、ドルミール草粉末の催眠作用を強引に跳ね返すってメカニズムだね。ただ、魔法の強さや気つけ薬の服薬量と、ドルミール草粉末を吸収した量のバランスがとれないと、当たり前だけどマトモに思考できるような状態じゃなくなるんだ。とても実用性があるとは言えないよ」
「しかし、エフィアルテスはそれができていたんだろ?」
シルビオは腕を組んでうーんと唸って考えてから、推測を口にする。
「おそらく、気つけ薬を大量に飲んだ上で、魔法でその効き目をリアルタイム調節していたんじゃないかな。ウチに来た段階では飲んだ気つけ薬を無効化する魔法を展開しておいて、ドルミール草粉末を吸引した後は、吸引量や自分の意識レベルに応じて、薬の効き目を高めたり、興奮・覚醒魔法に切り換えてバランスをとってたんだと思う。超高度な魔法技術が必要だけど、デモニックの族長クラスなら不可能じゃないかも、って感じかな」
「ということは、中下級の魔族が中和魔法を真似するのは困難で、ドルミール草粉末が大々的に無効化されるってことは無いって理解でいいか?」
「うん」
そうであるならば、状況に大きな変化はない。キロ260万という安値でエフィアルテスに粉末を売却するか、拒んで当初予定していた商売を意地になって続けるか、あるいはそれ以外の道を考え出すかだ。
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