フェニックスファイナンス-2章11『招かれざる魔族』後編
2章11『招かれざる魔族』後編
だが、本当に相場暴落を実行するとなれば、当然エフィアルテスもかなりの出費を覚悟しなければならないハズだ。
「それは投資ではなく、あなたが負けず嫌いなだけではないですか」
「その通りだ。否定はせんよ」
いきなり喧嘩を吹っかけて来やがった。と怒りが湧いてくるが、鷹峰はそれを抑えつつ、頭をフル回転して対応を考えていた。
この状況をどうするか。
まず、第一の検討事項はエフィアルテスが取引相手として信用できるのかという点である。キロ260万フェンという相場での売買契約を結んだとして、本当にその契約内容が守られるのかどうか分からない。
そもそも目の前にいる相手が、エフィアルテス本人だという保証も無い。シルビオが魔法に驚いていた点から、かなり上位クラスの魔族であるとは推測できるが、本人であるという根拠はどこにも無いのだ。
そして第二は、この商談を断った場合に、「1トン分市場に投下して相場を破壊する」という策を本当に実行するのかという点である。いくら負けず嫌いだったとしても、億フェン単位での損を覚悟してまでこちらを潰す気が本当にあるのか分からないのだ。
「さて、返答は?」
鷹峰の反応を楽しむかのように、エフィアルテスは問いかけた。
「ここで、あなたの首を取る。ってのが一番手っ取り早い気がしてきました」
「ほぅ。それは面白い発想だ。確かに私と会ったという事実ごと、闇に葬るのは一つの手だ。しかし、果たしてキミらにそれができるかな?」
それも確かに問題なのだ。物理的な戦闘になった場合に、勝ち目がどれほどあるのか見当がつかない。ソニアが一喝でもしてくれようものなら少しは勢いもつくのだが、表情を見る限りそこまでの余裕はない。シルビオを見ても、いつもの減らず口を叩いているような悪ガキっぽさは雲散霧消している。
さらに、もし戦闘になってエフィアルテスを倒せたとしても、オプタティオ前線の下級兵士が失踪するのとはワケが違う。大株主がロッサキニテで行方不明になって、「はいそうですか」で済むはずもない。
結局のところ、判断するための材料が少なすぎるのだ。交渉をするにしても、相手の言い値を飲むにしても、情報が不足している現状では正解が見えない。
ならば、今取りうる選択肢は1つである。
「残念ながら、そこまで危ない橋を渡る度胸は私にはありませんね。しかし、売るべきかどうかを今決断することもできません」
そこで鷹峰は、いきなり表情を和らげ、明るく提案した。
「ということで、こちらに検討のお時間を頂けませんか? 私の一存で決めるには余りにも事が大きすぎます」
いきなりの態度の変化に、エフィアルテスは訝しがる。そこに鷹峰が畳みかける。
「ソニア、武器を下ろしてくれ。シルビオも攻撃魔法…だと思うが、準備を解除してくれ」
「本気!?」
「本気だ。下ろしてくれ」
鷹峰のいつもと違う雰囲気を感じ取り、ソニアは眉間に皺を寄せつつもエフィアルテスに向けていた八角棒を手元に引き戻す。それを見たシルビオも魔法の準備を解除する。
それを確認してから鷹峰は机に手をついて、頭を下げる。
「どうか、お願いいたします」
「ほう……」
この男の腹の底が見えない。というのがエフィアルテスの感覚であった。
だが、それと同時に、頭を下げられた事による優越感が、エフィアルテスの判断を若干曇らせることとなった。この男がどう動くのか、確かめてみようと考えてしまったのだ。
「1つ質問に答えろ。貴様は日本人か?」
鷹峰は顔を上げて答える。
「ええ、そうです。こっちに来てまだ2ヶ月ですね」
「どんな神通力を持っている? ドルミール草粉末の買占めは、相場を未来予知したのか?」
「信じて貰えないかもしれませんが、正直なところ自分自身の力は良く分かりません。心臓に毛が生えた程度です。未来予知ができるなら、あなたが事務所に入り込むような状況にはしませんよ」
エフィアルテスは、鷹峰の言葉の真偽を確かめるようにじっと鷹峰の顔を睨みつける。ここで目を逸らしては負けだと鷹峰も真顔でエフィアルテスを見つめる。
「……わかった。2日やろう。2日後の夕方に引き取りの業者をこちらに寄越す。売ってもらえるのなら、その場で業者にドルミール草粉末を渡してくれたまえ。アヅチとロッサキニテで商売の許可を得ている人間の運送業者を寄越すから、討ち取るのは勘弁願いたいね」
「お気遣いありがとうございます。承知しました」
そう言って、鷹峰は再度深々と頭を下げた。
しかし、その行為は感謝を示すためではない。怒りが表情を通じて相手に伝わらないようにするためだ。
「喧嘩を売ってきたことを、必ず後悔させてやる」という闘志をぶつけるように、鷹峰はテーブルに顔面を押し付けた。
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