フェニックスファイナンス-2章11『招かれざる魔族』中編
2章11『招かれざる魔族』中編
どう答えるのがベストか、「"カンジ"って何ですか」とトボけるのが良いか…と鷹峰が判断に迷っていると、シルビオが口を開く。
「おっかしいな。ドルミール草粉末を浴びたのに、意識が落ちないのはなんで?」
まさかとは思っていたが、先ほどシルビオが振り撒いた粉末はドルミール草粉末だったようだ。顔面に直撃するように投げつけられていたので、いくらかは吸引していると思われる。
「前線の下級兵と一緒にしてもらっては困るな。何の対策もせずに、ドルミール草粉末を買い込んでいる人間の元に突撃するほど愚かではない」
「まさか、中和魔法? 興奮・覚醒状態にして無理矢理意識レベルを上げるってヤツかな。ホントだとしたら気が振れてるね」
「ガキのくせによく知っておるな」
そんなものが存在するのかと鷹峰は驚くが、詳細は後でシルビオに聞けばいい。
「もう1度お聞きします。今日のご用件はなんです?」
「用件はさっき言った通りだ。ドルミール草粉末の買い付けだよ」
「大株主様が御自ら単身で? さすがに不自然ですね」
エフィアルテスは鷹峰の目をじっくり見つめながら答える。
「首謀者に興味があったのだよ。どんな顔をした人間なのか、ひょっとしたら日本人なんじゃないかとね。無論、買い占めの理由も知りたかった」
「理由はただの自衛用ですよ」
鷹峰はそう突っ張ったが、ブラフであることはエフィアルテスにもミエミエのようであった。
「それにしては量が多いな。少なくとも300kgは買い込んでいるだろう」
実購入量は308kgだった。正確な数字の指摘を受けて、鷹峰は返答に窮する。
「……。理由はそちらの方がよく御存知でしょう」
「こんどはカマかけか?」
「ええ。よろしければ、株主様の本気度を教えてもらいたいですね」
「私は本気だよ。来月には一戦起こしてもらうつもりだ。何なら攻める場所も教えてやろうか?」
鷹峰とエフィアルテスの視線が交錯する。
「ぜひお聞きしたいですね」
「エパメダだよ。信じるかどうかはキミ次第だがね」
エフィアルテスは躊躇なく攻略目標を明かした。鷹峰もオプタティオ半島の地図は頭に入れており、半島南部の主要都市であることは理解できる。
そして、カイエン銀行のジョルジュから聞いたエフィアルテスの本業が製薬業であることと、拝金主義者であるという評判を加味するならば、これは真実の可能性が極めて高い。
「信じますよ。あなたが本業で儲けるためには、人間と魔族の大軍が正面衝突するような戦争が必要でしょうからね。しかし、ドルミール草粉末を売ることはできませんね。戦を起こすのであれば、これから相場が上がるでしょうし」
そう言った鷹峰の言葉を無視し、エフィアルテスは一方的に買い取り相場を提示した。
「キロあたり260万フェンでどうだ?」
鷹峰とシルビオの平均購入単価は約225万フェンであり、260万フェンで買い取ってくれるのであれば、カイエン銀行の利子を考慮にいれても数千万フェンのプラスにはなる。
しかし、ロッサキニテ周辺における現在の相場は1kg300万フェンに達している。260万というのは買い叩きが過ぎる金額と言える。
「260は安すぎますね」
「では、アヅチや魔界からドルミール草粉末を1トンこちらに運び、市場に投下するとしようか」
鷹峰の目尻がピクっと動く。
ロッサキニテ周辺のドルミール草粉末を片っ端から買い付けて、やっと308キロを集めたのだ。これが市場に1トンも投下されてしまっては、戦争需要など吹っ飛んで供給過多になり、大暴落間違い無しと考えられる。
「従わない場合は、コストをかけてでも潰すということですか。しかし、1トンも投下しては、そちらも大損でしょう」
「いやいや、将来有望な商売敵を潰せるのだから、一種の未来への投資だよ」
ここで相場が暴落すれば、鷹峰達は大損を免れない。せっかく立ち上げたギルドが、1ヶ月ちょっとで債務超過となる可能性さえある。
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