フェニックスファイナンス-2章11『招かれざる魔族』前編

2020年3月21日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨はギルドを設立してビジネスを始めた。ギルド事務所で、現状報告と今後の方針検討のためのミーティングをしていると、とある貴族の遣いを名乗る来客があった。

2章11『招かれざる魔族』前編

ルヌギア歴 1685年 5月21日 ロッサキニテ・フェニックスファイナンス事務所

「我が主のムラーフ男爵が、公用でアヅチに暫く駐在することになりまして、護身用にドミ玉が必要なのです。ただ、原料から品薄になっており、街での購入が難しい状況でして」

応接ソファに座ったアルトは、ゆったりとした口調でそう切り出した。それを聞いたソニアが納得の言葉を述べる。

「なるほどね。それでこっちに来たってワケね」

アヅチは人間でも魔族でも平等に商いができる都市である。クレアツィオン連合の領内と違い、魔族が大手を振って闊歩するエリアなので、トラブル時の備えとしてドミ玉を保有しておきたいのだろう。

「ええ。予定期間が半年を超えておりまして、まとまった量が必要なのですが……」

そこで口ごもったアルトに対し、鷹峰が先手を打った。

「それはご迷惑をおかけしました。先日こちらが原料を買い占めたせいで、ロッサキニテ近辺では品薄状態になっていますでしょう」

アルトは少し表情を和らげつつ言った。

「いえいえ、迷惑なんてとんでもありません」

その時、タタタと音を立てつつシルビオが小走りで応接セットに向かってきた。

「おじさん、いい帽子持ってるね」

シルビオはそう言うなり、アルトが膝の上に置いていたベレー帽に手をかけた。

「うん? そんな高価なモノではな…」

アルトが否定しかけた瞬間、シルビオはそのベレー帽を左手で乱暴にむしり取り、ソファの上に飛び乗る。そして、

「それっ」

と言ってベレー帽をアルトの頭上から被せる。

ぽふっと柔らかな音を立て、ベレー帽は何かに邪魔されるがごとく、アルトの頭の上の空間に浮いた状態で止まる。

「なっ、何をするか!?」

「ほうらねっ、正体を見せなよ!」

シルビオはそう言い放ち、今度は右手に握っていた白い粉末をアルトに向かってぶち撒く。

「くっ!」

呻きとともに、彼の体の周囲がモザイク模様のように乱れ、一気に収束する。

「えっ! なにっ? デーモン?」

ロゼがアルトの正体に驚きの声を上げる。トカゲのような緑色の皮膚と、こめかみの辺りから上向きにバッファローのような角が映えている。

「ゲホッ、ゲホッ」

現れたデーモンは咳き込みつつ、周囲の粉末を払う。

「むっ」

そして、デーモンは驚きの声をあげる。視界が晴れた時、彼の眼前にソニアが持つ八角棒の先端が迫っていたのだ。

加えてシルビオも数歩距離を取りつつ、魔法杖を右手に持ってデーモンに向けている。杖の先端の水晶がいつもと違って鈍く点滅しており、何らかの魔法を準備しているように見える。やはりこの2人はくぐってきた修羅場の数が違うのだろうと鷹峰は感じる。

「ウチに上がり込んでくるとはいい度胸ね。どちらの魔族さんかしら?」

ソニアの剣幕におされ、デーモンは両手を上げて無抵抗を表す。

「殴り合いは得意ではないし、今日はそういう気分でもないのだがな」

「名前と所属を言いなさい。オプタティオ前線の兵士?」

「ふん。そんな下級な奴らと並べられるのは不愉快極まりない」

「なら、名乗ればいいじゃない」

それを聞いて、デーモンは不敵に笑う。

「私の名はエフィアルテス」

名前を聞いて鷹峰は驚愕の表情を浮かべる。

「まさか、オプタティオ前線の大株主のか?」

「ほう、私を知っているのか。いかにも、私が大株主のエフィアルテスだ」


「さて、エフィアルテスさん。改めてお聞きしましょう。今日はどういったご用件で?」

鷹峰が再度問いただした。

「客人に凶器を突き付けたまま、というのは失礼ではないのか?」

「他人の事務所に変身して上がり込むのは失礼でないと?」

鷹峰の言いかえしを受けて、エフィアルテス少し首を傾ける。

「確かに、そう言われれば返す言葉は無いな。だが、ドアを開けてこの顔が見えた場合、お主は中に入れてくれるだろうか?」

「私はそういった出自差別はしない主義ですよ」

ドアを開けた瞬間にエフィアルテスが出てきたら、「間違いなく即座にドアを閉める」という確信はあったが、そんなことはおくびにも出さずに鷹峰は言い切った。

「はは、お主は価値観がクレアツィオンの人間ではないな。日本人ではないか? タカミネとはどんな『漢字』なのだ?」

口喧嘩を優先した結果、どうやら鷹峰が日本人ではないかという疑念を抱かれた様子だ。

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