フェニックスファイナンス-2章10『会議だよ全員集合』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨はギルドを設立してビジネスを始めた。メンバーを2チームに分けて投機ビジネスと債務整理ビジネスを進めていたが、久しぶりに多くのメンバーが顔を揃えたため、現状報告とこれからの方針決定のためのミーティングを開くこととなった。

2章10『会議だよ全員集合』前編

ルヌギア歴 1685年 5月21日 ロッサキニテ・フェニックスファイナンス事務所

この日の正午過ぎ、鷹峰とシルビオが3日ぶりに事務所に戻ってきたため、メンバーが集まってミーティングが開かれていた。

約1週間前から、鷹峰はシルビオを連れてドルミール草粉末の買占めを開始した。予算は当初2億フェン程度を見込んでいたが、カイエン銀行から5億超の融資を受けられたこともあって、合計7億フェンで買い漁った結果、ロッサキニテの街中での入手が困難になってしまった。そのため、2人は採草地に出向いて農業系ギルドや製粉業者から直接買い付けを進めていたのだ。

「なによその長ったらしい名前の怪しいギルドは。そんなトコを買収するの?」

鷹峰が『グレイトジーニアスレインボーブラザーズマジカルメディシン』の買収を説明すると、ソニアが不快感を示すようにそう言った。

「借金はあるし、怪しいってのも否定しない。ただ、ドルミール草粉末の加工をするには最適だし、そこの製造している染料がいい商売で、月数百万の利益が出ているんだ。結構有名なアパレルギルドからも受注している様子だったぞ」

「何て言う名前のアパレルギルドなんですー?」

ハイディの問いに、鷹峰は自分の記憶を呼び起こす。

「何だったかな。紹介してもらった海運ギルドのホナシスの人に、そこのバッグを見せてもらったんだ。なんとかっていう木のマークの、クリスチャン……、違うな」

ロゼが思い当たったように聞いた。

「クレスティン・ティヨールですか? 菩提樹のマークの?」

「そうそう菩提樹! そんな名前だっ…」

「それを先に言いなさいよ!」

鷹峰が肯定しようとしたのを遮って、ソニアが食い気味に言った。剣幕に驚いた鷹峰は

「あ、ああ、すまん」

と言って言葉を失う。代わってロゼが再び思い出したように口を開く。

「そう言えば、ソニアさんの財布もクレ…」

「買収しよう!」

力強くソニアはそう断言した。

「お前、今さっきそこのギルドが怪しいって…」

「え? 何? 誰か反対してるの? 有名ブランドとビジネス上の繋がりができるのは、経営戦略上悪くないはずよね」

ソニアは「何を迷う必要があるのか」という表情でそう言った。彼女の口から経営戦略なんて言葉が飛び出すとは驚きである。

何か減らず口の1つでも言いたいような気はするが、結果的には買収に賛成の様子なので、黙っておいた方が良いかと戸惑う鷹峰に、ハイディがそっと耳打ちした。

「ソニアさん、隠そうとしてますけどー、意外とミーハーなんですよねー」


その後、鷹峰はソニア達から、バルザー金庫に関する捜査状況の報告を受けた。

「……ってことで、バルザー金庫の実質的なオーナーは、1661年同期入行の4人組ね。で、その4人にトネリってヤツみたいな半グレが数名連絡役として飼われていて、傭兵ギルドに取り立てを依頼したり、取り立てた物品や現金を回収しているみたい」

「こんな短い期間によく調べ上げたな」

ソニアから、捜査の進捗結果が報告され、鷹峰は喜びというより驚いた表情を浮かべる。

「クレタとボメルさんに協力してもらったのよ。だから、報酬の出費はあるわよ」

ここまで分かったなら、数百万くらい報酬を払っても惜しくはないと鷹峰は感じた。

「協力を依頼するのも含めてナイスな判断だ。報酬は弾んでやってくれ。それで、ちょっと気になったんだが、取り立てを担当しているベリタ傭兵会ってギルドは、バルザーにどんな弱みを握られているんだ?」

鷹峰の質問には、ソニアにかわってロゼが答える。

「ベリタ傭兵会が握られた弱みは3つで、その中で最も致命的なものはスラムの孤児院の所有権です。ベリタ傭兵会の所属メンバーの8割は東区のとある孤児院の出身者なのですが、そこの所有権をバルザーに握られていて、協力しなければ孤児院を潰すと言われているようです」

なんとも見上げた悪人根性である。ここまで良心の呵責なく「ぶっ潰しても良いだろう」と思える相手も珍しいのではないかと鷹峰は思う。

「なんだか、1周回って清々しいくらいの悪徳金融業者だな。残りの2つの弱みは?」

「1つは単純なギルドの借金で、金額は9000万フェン程度だそうです。もう1つはギルドオーナーのブロル・ベリタのスキャンダルで、彼の愛人と隠し子についての情報を握られているとのことでした」

そこにハイディが付け加える。

「しかも1人ではなくてー、なんと愛人6人に隠し子が8人ですー」

Vシネマに登場する『女たらしのダメ組長』のようなイメージが鷹峰の脳内に浮かぶ。子分の稼いだ金を愛人に貢いで浪費し、愛人関係のトラブルで組を潰してしまうというパターンではないだろうか。

「でも、傭兵会の幹部達も存在を知らなかったそうでー、どうしてバレたのか分からないって言ってましたねー」

ハイディが首をかしげて疑問を口にするが、鷹峰には思い当たる節があった。

「ああ、それはオプタ銀行が顧客情報を流用したんじゃないかな」

「どういうことですかー?」

「愛人だけならまだしも、隠し子までいるようだと、養育費や生活費をブロル・ベリタが支払っている可能性が高い。例えば『毎月10万フェンを月末払い』って感じでな。で、その振込をオプタ銀でやっていたんじゃないかな。定期的に定額の振込をしているって点にオプタ銀が勘付いて、振込先を調べてみたら愛人と隠し子が出てきましたってね」

ソニアはコクコクと頷きつつ、呆れたような調子で言った。

「ホント悪知恵が回るわね。オプタ銀もあんたも…」

鷹峰は自嘲的に「ははっ」と笑ってから、それに応える。

「金融屋の悪だくみなんてのは、どこの世界でも似たようなもんだ。使える情報は何でも使って金儲けってな」

2章10後編に続く

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