今日から始める異世界M&A-2章10『会議だよ全員集合』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨はギルドを設立してビジネスを始めた。メンバーを2チームに分けて投機ビジネスと債務整理ビジネスを進めていたが、久しぶりに多くのメンバーが顔を揃えたため、現状報告とこれからの方針決定のためのミーティングを開くこととなった。

2章10『会議だよ全員集合』

ルヌギア歴 1685年 5月21日 ロッサキニテ・フェニックスファイナンス事務所

この日の正午過ぎ、鷹峰とシルビオが3日ぶりに事務所に戻ってきたため、メンバーが集まってミーティングが開かれていた。

約1週間前から、鷹峰はシルビオを連れてドルミール草粉末の買占めを開始した。予算は当初2億フェン程度を見込んでいたが、カイエン銀行から5億超の融資を受けられたこともあって、合計7億フェンで買い漁った結果、ロッサキニテの街中での入手が困難になってしまった。そのため、2人は採草地に出向いて農業系ギルドや製粉業者から直接買い付けを進めていたのだ。

「なによその長ったらしい名前の怪しいギルドは。そんなトコを買収するの?」

鷹峰が『グレイトジーニアスレインボーブラザーズマジカルメディシン』の買収を説明すると、ソニアが不快感を示すようにそう言った。

「借金はあるし、怪しいってのも否定しない。ただ、ドルミール草粉末の加工をするには最適だし、そこの製造している染料がいい商売で、月数百万の利益が出ているんだ。結構有名なアパレルギルドからも受注している様子だったぞ」

「何て言う名前のアパレルギルドなんですー?」

ハイディの問いに、鷹峰は自分の記憶を呼び起こす。

「何だったかな。紹介してもらった海運ギルドのホナシスの人に、そこのバッグを見せてもらったんだ。なんとかっていう木のマークの、クリスチャン……、違うな」

ロゼが思い当たったように聞いた。

「クレスティン・ティヨールですか? 菩提樹のマークの?」

「そうそう菩提樹! そんな名前だっ…」

「それを先に言いなさいよ!」

鷹峰が肯定しようとしたのを遮って、ソニアが食い気味に言った。剣幕に驚いた鷹峰は

「あ、ああ、すまん」

と言って言葉を失う。代わってロゼが再び思い出したように口を開く。

「そう言えば、ソニアさんの財布もクレ…」

「買収しよう!」

力強くソニアはそう断言した。

「お前、今さっきそこのギルドが怪しいって…」

「え? 何? 誰か反対してるの? 有名ブランドとビジネス上の繋がりができるのは、経営戦略上悪くないはずよね」

ソニアは「何を迷う必要があるのか」という表情でそう言った。彼女の口から経営戦略なんて言葉が飛び出すとは驚きである。

何か減らず口の1つでも言いたいような気はするが、結果的には買収に賛成の様子なので、黙っておいた方が良いかと戸惑う鷹峰に、ハイディがそっと耳打ちした。

「ソニアさん、隠そうとしてますけどー、意外とミーハーなんですよねー」


その後、鷹峰はソニア達から、バルザー金庫に関する捜査状況の報告を受けた。

「……ってことで、バルザー金庫の実質的なオーナーは、1661年同期入行の4人組ね。で、その4人にトネリってヤツみたいな半グレが数名連絡役として飼われていて、傭兵ギルドに取り立てを依頼したり、取り立てた物品や現金を回収しているみたい」

「こんな短い期間によく調べ上げたな」

ソニアから、捜査の進捗結果が報告され、鷹峰は喜びというより驚いた表情を浮かべる。

「クレタとボメルさんに協力してもらったのよ。だから、報酬の出費はあるわよ」

ここまで分かったなら、数百万くらい報酬を払っても惜しくはないと鷹峰は感じた。

「協力を依頼するのも含めてナイスな判断だ。報酬は弾んでやってくれ。それで、ちょっと気になったんだが、取り立てを担当しているベリタ傭兵会ってギルドは、バルザーにどんな弱みを握られているんだ?」

鷹峰の質問には、ソニアにかわってロゼが答える。

「ベリタ傭兵会が握られた弱みは3つで、その中で最も致命的なものはスラムの孤児院の所有権です。ベリタ傭兵会の所属メンバーの8割は東区のとある孤児院の出身者なのですが、そこの所有権をバルザーに握られていて、協力しなければ孤児院を潰すと言われているようです」

なんとも見上げた悪人根性である。ここまで良心の呵責なく「ぶっ潰しても良いだろう」と思える相手も珍しいのではないかと鷹峰は思う。

「なんだか、1周回って清々しいくらいの悪徳金融業者だな。残りの2つの弱みは?」

「1つは単純なギルドの借金で、金額は9000万フェン程度だそうです。もう1つはギルドオーナーのブロル・ベリタのスキャンダルで、彼の愛人と隠し子についての情報を握られているとのことでした」

そこにハイディが付け加える。

「しかも1人ではなくてー、なんと愛人6人に隠し子が8人ですー」

Vシネマに登場する『女たらしのダメ組長』のようなイメージが鷹峰の脳内に浮かぶ。子分の稼いだ金を愛人に貢いで浪費し、愛人関係のトラブルで組を潰してしまうというパターンではないだろうか。

「でも、傭兵会の幹部達も存在を知らなかったそうでー、どうしてバレたのか分からないって言ってましたねー」

ハイディが首をかしげて疑問を口にするが、鷹峰には思い当たる節があった。

「ああ、それはオプタ銀行が顧客情報を流用したんじゃないかな」

「どういうことですかー?」

「愛人だけならまだしも、隠し子までいるようだと、養育費や生活費をブロル・ベリタが支払っている可能性が高い。例えば『毎月10万フェンを月末払い』って感じでな。で、その振込をオプタ銀でやっていたんじゃないかな。定期的に定額の振込をしているって点にオプタ銀が勘付いて、振込先を調べてみたら愛人と隠し子が出てきましたってね」

ソニアはコクコクと頷きつつ、呆れたような調子で言った。

「ホント悪知恵が回るわね。オプタ銀もあんたも…」

鷹峰は自嘲的に「ははっ」と笑ってから、それに応える。

「金融屋の悪だくみなんてのは、どこの世界でも似たようなもんだ。使える情報は何でも使って金儲けってな」

納得の表情を浮かべるソニアから、鷹峰はロゼに視線を移す。

「ちなみに、違法性の方はどうだ? 今出ている内容が露見した場合、バルザー金庫だけでなく、オプタ銀の評判が落ちるのは間違いないだろうが、大元であるオプタ銀の法的責任は追及できるのか?」

ロゼは顎に手をあてて、少し考えてから答える。

「現状では、オプタ銀行を法律的に追求するのは難しいです。違法な取立を指示していた証拠が残っていれば、犯罪教唆(違法行為を指示した罪)は成立しますが」

「さすがにそれを残すような馬鹿はやらないだろうな。ブロル・ベリタのスキャンダルのような、顧客情報の漏洩の方は?」

ロゼは首を横に振って即答する。

「道徳的には良くないですが、法律的にそれを問うのは至難ですね。加えて、そもそもがブロル・ベリタの『身から出た錆』という悪印象があるので、訴えるだけ無駄でしょうね」

確かに、裁判での心証は限りなく悪い。

「と言うことは、本丸でなくてバルザー金庫に対して訴訟を起こすか、『評判が落ちるぞ』とオプタ銀行を脅しつけるしかないか」

鷹峰は内容を反芻するかのように、ゆっくりと2,3度首を縦に振ってから次に移った。

「ハイディの金額試算の方はどうだ? どれくらいまとまった?」

「はーい。報告しますねー」

ハイディは元気よく返事してメモを取り出す。

「訴訟に賛同してくれた7ギルドでー、明確に過払いっていう金額は1億フェンほどですねー。それとは別に、無理矢理に奪っていった現金や金品が1.5億フェンほどですからー、合計すると2.5億くらいですー」

「あいつら1.5億フェンも強盗まがいのことしてるの?」

ソニアの驚きにハイディは苦笑を浮かべつつ頷いて肯定する。

「建物の損傷被害の方はどうだ?」

「金額の算定が難しいものもありますがー、建物や壊された商品の単純な修繕費を見積もると、合計で3千万といったところですー」

1.5億を奪い、3千万ぶち壊す。悪党としては爽快極まりない。

ハイディの説明が一段落したところで、ロゼが付け加えた。

「肉体的・精神的苦痛に対する賠償は、とりあえず1ギルドあたり2千万くらいが妥当ですね。また、海運ギルド『ホナシス』がサピエン王国のパモストン子爵から預かっていたゴブダーン織を強奪され、サピエンの港に入港禁止されてしまった件については、過去の判例から、ひとまず7千万フェン程度を営業妨害による損害額として計上すればよいと思います」

「賠償請求の総額は5億フェンに届かないくらいか。裁判費用ってどれくらいだ?」

「この案件なら、準弁護士の私でも弁護が担当できますから、訴訟手続きの費用だけですね。全部で10万フェン程度です」

それは安く上がって結構だ。

「コンサル料の報酬は、現金で取り返した分の25%くらいで契約したから、上手く行けば1億2千万フェンくらいか。もう少し上乗せしたいところだな」

「他にも被害者ギルドがいないか探してみる?」

と、ソニアが口にした時、カンカンとドアの呼び鈴を鳴らす音がした。


「お客さんですかねー?」

ハイディがそう言いつつ、入り口の方へ向かい、ドアを開けた。

「ああ、すいません。こんにちは」

ドアの向こう側には、大男が立って居た。身長は目測で2メートル程度もあり、おでこから上がドアの木枠によって見切れている。年齢は30歳前後と思われ、右手には今脱いだと思われるベレー帽が握られている。

「こんにちわー。あのー、失礼ですが、どちら様でしょうかー?」

「ムラーフ男爵の命で参りました。家人のアルトと申します」

ハイディの問いに対して、大男は柔和そうな顔でそう答えて、頭を軽く下げた。

「ドルミール草粉末を売って頂けないかというご相談に参りました」

アルトと名乗った大男の言葉を受け、「どうする?」という意を込めて、ハイディが鷹峰を見た。

ドルミール草粉末を売って欲しいという言葉に、「懸念していた貴族様のお怒りを買ってしまったかな」と鷹峰は考えつつ、応接セットの方を親指で指さした。

「立ち話もなんですのでー、あちらにどうぞー」

「ありがとうございます。お邪魔します」

ハイディに促され、アルトはドア枠に頭をぶつけそうになるのを中腰になって大げさに避けつつ入室して来た。それに合わせて、ハイディ以外のメンバーも応接セットに向かって移動を始める。

その時、鷹峰は後ろから服を引っ張られる感触を覚えた。

「ん?」

と呟きつつ振り返ると、先ほどの打ち合わせには参加せず、窓際でうたた寝をしていたシルビオがいつの間にか鷹峰の背後に立っていた。

「怪しい」

他のメンバーには聞こえないような小さな声でシルビオが言った。

「怪しいって、なにがだ? 身分か? ムラーフ男爵ってのが存在しないとか?」

「違う。おそらく、アイツ変化魔法を使ってるよ。さっきドアをくぐる時、大げさに中腰になったでしょ。あの時、ドアの木枠が歪んで見えたんだ。実体はもっと大きいんだと思う」

「なに?」

そう言いつつ、鷹峰は応接セットに向かって歩いて行くアルトの後ろ姿を再度視認した。

「実体はもっとデカイって、あれより大きい人間が……」

シルビオは鷹峰のセリフを遮るように真顔で言った。

「人間じゃないかもしれない」

つまり、正体は魔族と言うのか。

「なんとかして正体を明かすことはできないか?」

「相手に気付かれずに正体を見るってのは不可能だね。無理矢理魔法を解除することは可能だけど、その後に暴れられたらどうなるか分からないよ」

「だが、正体が分からないまま商談をするわけにもいかないだろ」

シルビオは眉間に皺を寄せる。

「確かにそりゃそうだね。じゃ、会話が始まったあたりで仕掛けるよ」

“仕掛ける”とは穏やかじゃない。

「可能な限り穏便に頼みたいんだが…」

「そいつは無理な注文だね」

シルビオの言葉に鷹峰は軽くため息をついてから、応接スペースに向かった。

~~続く~~

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