フェニックスファイナンス-2章9『探偵がバーにきた』後編
2章9『探偵がバーにきた』後編
「カラクリですか?」
ロゼが興味津々といった様子で聞いた。クレタは一拍置いてから得意げに話を進める。
「バルザーのオーナー4人は、オプタ銀行やテッセラ商事の幹部の親族なんだ。テッセラ商事のオーナーであるクヌピ・テッセラ、彼の妻の妹の夫がバルザーのオーナーの1人だよ。同じようにオプタ銀の現頭取ザンザラ・アラハの実母、正確には父の前妻もバルザーのオーナーの1人だった」
「離婚済みの実母ということですか…、あっ! 分かりました、そういうことですか」
ロゼはカラクリに気付いた様子である。ハイディもカラクリが理解できたようでポンと手を叩く。
「私も分かりましたー。ファミリーネーム(姓)を誤魔化してたんですねー」
オプタティオでは夫婦別姓が認められていないため、配偶者同士は必ず同じファミリーネームになる。それゆえ、何らかの悪事を働くギルドを設立する場合は、ファミリーネームからギルドオーナーの正体がバレるリスクを抑えるために、ちょっと離れた親戚の名義で設立するのが常套手段になっているのだ。
「ハイディさんの言った通りだね。バルザーのオーナーの残り2人も似たようなスジで、1人は現オプタ銀顧問ミュッケ・ハルートの従弟。もう1人はロッサキニテ商工会会長カマール・プロドの伯母だ。加えてもう1つ、面白い事実も分かった。今挙げたオプタ銀幹部2人に、テッセラ商事オーナーと商工会会長を加えた4人は、全員1661年にオプタ銀に入行した同期だ」
4人の関係性を聞いたボメルが肩をすくめて言った。
「なんとまぁ、同期のクソみたいな絆で悪徳ビジネスってか。ムナクソの悪い糞共だな」
「だいたい同感ですけどー、ボメルさん言葉づかいが汚いですー」
「おっと失敬!」
「あはは…。でも、これでかなり関係性がハッキリしましたね」
ロゼは新情報に満足げな表情を浮かべてそう言った。ハイディもウンウンと頷いている。
しかし、ソニアは思考が追い付いておらず、脳内がショートして今にも頭から煙が出そうな雰囲気である。このまま次の話に移られて、判断を求められても困ってしまうだろうし、今の内に正直に聞いた方が良さそうだとソニアは結論づける。
「ごめん。ちょっと、理解が追い付いてないんだけど…」
申し訳なさそうにソニアがそう言うと、ロゼが紙をテーブルに広げてペンを手に取る。
「確認もこめて一緒に整理しましょう」
そう言って、ロゼは資金の流れから図に描き始めた。
「おそらく、金品や現金の流れはこうなっていると想定されます」
ロゼはソニアが「ふむふむ」と呟きながら理解を示しているのを確認して、さらに手を進める。
「そして、関係者の相関図はこのようになりますね」
ロゼの描いた相関図を見て、ソニアは納得顔を浮かべる。
「ありがと! お金の流れも、こいつらの関係もやっと分かったわ。ホントにセコイ連中ね」
商工会まで一枚噛んでいることを知り、ソニアは腹の底から怒りがふつふつと沸いてくるのを感じる。だが、それと同時に、ついに正体が分かってきたという喜びもあった。
「でも、やっと尻尾が掴めたわね」
森の中で獲物をみつけた狩人のように、ソニアは微かに口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。
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