フェニックスファイナンス-2章8『会社は誰のモノ?』前編

2020年3月21日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立した。魔族が人間側に対して戦争を起こすという情報を得た鷹峰は、魔族に対して催眠効果のあるドルミール草粉末を買い込んで一儲けを企む。

2章8『会社は誰のモノ?』前編

ルヌギア歴 1685年 5月17日 クライオリン・ソクノッス砦(魔族・オプタティオ前線本社)

「また今年もやれと仰るのですか?」

エフィアルテスの持参した、「エパメダを攻めろ」という株主提案書を見て、デガドは相手を非難するような口調でそう言った。

「今年も、とはどういう意味だ? 私は去年の小競り合い程度で満足した覚えはないぞ」

返答したのは社長室の執務机を挟んで反対側に座る、大株主のエフィアルテスである。

「小競り合いですと? 我が社の従業員に、どれほどの死傷者が出たかお忘れですか?」

「忘れたな。私にとってはどうでもよい数字だ」

ワーウルフ族で100年に1匹の英雄と言われるデガドを前にして、ここまで喧嘩腰になれる者は、人間界はもとより、魔族の中でもほんの一握りに過ぎない。ただ、デガドにとって残念なことに、大株主であるエフィアルテスはその一握りに含まれているのだ。

「配当額に満足できないと言うお題目を唱えて我が社を利用し、あなたの会社の本業で利益をむさぼるような行為は止めていただきたい」

デガドの抗議に対し、エフィアルテスは薄ら笑いを浮かべる。

「青臭いな。お主に拒否する権利などあるのか? 会社は誰のモノなのだ? よもや従業員のモノだとは言うまいな?」

「会社は株主のモノです。そこを否定する程、私も青臭くはない。ただし…」

デガドはそう言って机の上に身を乗り出し、息がかかる距離までエフィアルテスに顔を近づける。

「ただし、株主のモノであっても、株主の"オモチャ"ではない。オプタティオ前線の兵の命を使った"遊び"に付き合わされるのは不愉快極まりない」

エフィアルテスは顔を近づけてきたデガドから遠ざかるように背もたれにもたれかかり、怪訝な顔で嘲笑するように返す。

「フン。なら次の株主総会で、お前の解任決議をするだけだ。後任は……、メルティノリッチでも担ぎ上げるのがよいかな」

デガドは目の下をひくつかせて怒りを表す。

「本気で言っているのですか?」

メルティノリッチは、オプタティオ前線に所属しているトロール族のリーダーである。人間を食すのが何よりの楽しみであり、そのためには手段や被害をいとわないという性格をしており、勝手な行動を取ることも多い。オプタティオ前線の問題社員の1人(1匹)と言える。

「メルティノリッチに、まともな指揮ができるとお思いですか?」

「思わぬよ。ヤツが全軍の指揮をとった日には、勝率などゼロに等しいだろう。だが、お主が『やらない』と言うなら致し方あるまい。こちらは、確実に戦争を起こしてくれるような後継者を仕立て上げるしかない」


エフィアルテスは冷酷な瞳でデガドを見つつ、深緑色の節くれ立った指を2本立てる。

「お主のとれる選択肢は2つだ。1つはメルティノリッチにCEO職を譲って、お主は会社から去るという道。もう1つはお主がCEOとして戦争を遂行し、被害を最小限にとどめつつエパメダを奪取するという道だ。戦争を拒否し、CEOも続けるという第3の道など無いぞ」

デガドは椅子に座り直し、自分の怒りを抑え付けるように鼻から息を吐き出してから言った。

「被害を抑えたければ、自力で乗り切れとおっしゃるのか?」

「その通りだ。そうしてくれるのが、我々株主にとってもベストであろうな」

これはエフィアルテスの偽らざる本音である。口では嫌味を言っているが、エフィアルテスはデガドの指揮官としての優秀さ・勇猛さは高く評価しているし、まずまず優れた経営者であるとも考えている。それゆえ、嫌々ながらもデガドが株主の提案に従ってくれるのが望ましいのだ。

「それに、エパメダを落とせば収奪品で利益がたんまり出るだろう。ラマヒラール金山と比較すれば、農産物が多くて換金も容易だろうしな」

「簡単に言ってくれる」と思いつつ、デガドはしばらく無言でエフィアルテスを睨みつける。提示された選択肢が両方とも気に入らないのは間違いないが、それ以外の道が無いのも事実である。

株主の提案に従うフリをしつつ、のらりくらり開戦を先延ばしするような策を弄するという道もあるが、現実的ではない。引き伸ばせる期間はせいぜい2週間程度であろうし、それ以上伸ばしては職務怠慢という理由で解任されるだろう。そうなれば、結局は1つ目の道を選ぶのと大きな違いは無い。

つまり、デガドの取りうる選択肢は2つ目の道、「自分で指揮をとって最低限の被害で勝利する」しか存在しないのだ。

「わかりました。それで、この戦はいつまでに起こせとおっしゃるのか?」

それを聞いて、エフィアルテスは微笑みを浮かべる。

「6月の中頃には攻勢を開始し、月末にはエパメダの街を案内して欲しいものだな」

「もう少し準備に時間を…」

エフィアルテスは首を横に振りつつ立ち上がる。

「ならぬ。では、頼んだぞ」

有無を言わさずそう通達して、エフィアルテスは部屋から出て行った。デガドは殺気を湛えた目で、エフィアルテスの居た空間を睨み続けていた。

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