フェニックスファイナンス-2章7『5人揃って…』後編

2020年4月11日

2章7『5人揃って…』後編


反応が良かったのも幸いだ。ドルミール草粉末を使ったビジネスを行う環境は整いそうだと言える。

だが、鷹峰はそれ以上の喜びを感じていた。なぜなら、「初めてM&A(企業買収)したいと思えるギルドに出会ったぞ」と思ったからだ。そもそも、債務整理に携わったのはそれが儲かるからでもあるが、「債務整理を行う中で経営不調なギルドと関りを持ち、その中で経営健全化できるようなギルドを友好的に買収し、立て直すことで利益を得る」というビジネスへの興味もあったからだ。

鷹峰は小踊りしたくなるのを隠しつつ、つとめて落ち着いた口調で言った。

「状況は分かりました。ありがとうございます」

と言って軽く頭を下げてから、再度口を開く。

「では、集団訴訟で一緒にバルザー金庫に一矢報いましょう! と、お誘いしようと思っていたんですが、今日は違う提案をさせていただきたい」

「えっ? どういうことですか?」

赤エプロンが不安そうな表情で聞く。

「皆さんにとって、バルザー金庫との裁判に時間と労力を奪われることがスマートなのか、と疑問に思うんです。その時間や労力を研究に回したいとは思いませんか?」

「もちろんそうです」

「それに、この一件が解決しても、経営という面倒な作業は続くワケです。それはスマートではない」

赤エプロンもその他4色も、真剣な目つきで鷹峰の言葉に耳を傾けている。それに応えるように、鷹峰はいつもより熱っぽく語りかける。

「一方で、商売の研究者…の駆け出しにすぎませんが、私の目にはこのギルドは凄く魅力的に映ります。安定した売上の見込める主力商材がある上に、気骨のある研究者がいる。それも5名も。ですから、今日は思い切った提案をさせていただきたいんです」

そこで一拍置いてから、鷹峰は5人の顔を見て言った。

「『グレイトジーニアスレインボーブラザーズマジカルメディシン』ギルドのオーナー権を、その借金ごと、私が買い取るというのはどうでしょうか? そうすれば、ギルドの経営に関わる予算管理や役所への届け出、対外交渉やバルザーの訴訟、といった面倒なことを我々フェニックスファイナンスが肩代わりできます。我々と一緒に、皆さんがベリースマートな研究に集中できる環境を作ってみませんか?」


予想外の提案を受けて5人は言葉を失い、お互いの目を見合わせる。

沈黙を破ったのは紫エプロンだった。

「良いんじゃないかな。無茶な浪費をスマートに止めてくれる人が必要だと思うし」

紫の意見に黄と緑も賛成の様子で、

「俺もそう思う」

「ぼくも賛成」

と、言葉は少ないながら笑顔で応じる。

だが、青エプロンは少し心配そうな表情で鷹峰に問う。

「ギルドオーナー権を渡した途端に、私たちを追い出したり、研究予算を全カットしたりということはないですよね?」

良い質問だ。こちらの誠意を示し、相手の懸念を打破する絶好の流れだ。

「もちろんです。と言っても口約束ではご心配でしょうから、オーナー権の譲渡契約を結ぶ際に、その辺りを条件に組み込みましょう。例えば『現所属メンバーは10年間の継続参加を保証』とか、『月間100万フェンの研究開発費』とか。具体的な年数や研究開発費、そしてオーナー権の買い取り金額は、今後ご相談させていただきますが、その方向でどうでしょう?」

鷹峰の言葉を聞き、青エプロンは納得したように頷きつつ、表情を明るく変えて言った。

「スマートな契約条件ですね。安心しました」

4人からは賛同が得られた。それを確認した赤エプロンは「よしっ」と小さく呟いてから決断をくだす。

「鷹峰さん、その提案をお受けします」

やった! とガッツポーズをしたくなって右手に力の入った鷹峰であったが、それを抑えつつ立ち上がり、右手を赤エプロンの前に差し出して礼を言う。

「ありがとうございます。一緒にスマートなギルド改造をやっていきましょう」

「はい。よろしくお願いします」

赤エプロンも立ち上がり、鷹峰の手を握り返した。

ここで、鷹峰は思い出したように、1つの案を口にする。

「ああそうだ。1つご相談なのですが…、ギルド名を変えることは可能ですか? 失礼は承知ですが、ギルド名が長くてお客様に伝わりにくように感じるんですね。製薬以外も手掛けていらっしゃいますし、この機に、『レインボーマテリアル』に改名するのはどうでしょう?」

また、5人が目を合わせて様子を伺い合う。

2,3秒の沈黙の後、5人は頷き合ってからハモって言った。

「クールですね」

2章8前編に続く

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