フェニックスファイナンス-2章7『5人揃って…』中編
2章7『5人揃って…』中編
「ああ、そうでした! ぜひ話を聞いて欲しいのです!」
鷹峰は水を向けると、赤エプロンは勢い込んで話し始めた。
赤エプロンが言うには、『グレイトジーニアスレインボーブラザーズマジカルメディシン』は兄弟5人で「スマートな魔法技術製品」を研究するために、5年ほど前に立ち上げたギルドだそうだ。しかし、パトロンに恵まれず、仕方なく傭兵ギルド向けに傷薬を作ったり、服飾製品に使われる染料などを作って稼いでいたようだ。
転落の契機は高価な研究機器をローン購入したことだった。ローンの支払いでカツカツになり、そこに商品原料の値上がりもあって返済が滞る。そして、貸主の地銀から差し押さえの通告が来て、同時にバルザー金庫の人間が現れ…と、あとは他のギルドと同じ流れである。
ただし2点だけ他の借金ギルドと違っていることがある。1つ目は取り立て屋が借金のカタに物品を持ち去るという被害がほとんど出ていないということだ。製薬や調合用の設備を利用したいという思惑のある鷹峰達にとっては、大きな幸運だと言える。
2つ目は、まともに儲かる商売が残っていて、借金を返せる見込みがあることだ。このギルドが製作しているビビッドな色の染料は、連合内の大手アパレルギルドから好評を得ており、月額800万フェン(粗利約600~400万)の安定収入がある。それに対し借金総額は約1億程度である。金勘定が苦手な様子で、研究への浪費が激しいため資金繰りに悩んでいるが、マトモな経理担当と、手綱を引く経営者がいれば、十分に返済は可能だろう。
「私たちは、スマートに研究に集中したいんですよ!」
赤エプロンはひとしきり話してから、力を込めてそう言った。
「依頼された薬や染料を製造することも、気が進みませんか?」
「いえ、自分達で開発したものを世に広げる機会ですし、対価もいただきますから商品製造は苦痛じゃないです。とくに、リピートで依頼してくれるような場合は評価されている証拠ですから、自信にもなりますし」
やりたくないと言われると面倒であったが、素直な答えが返って来て鷹峰は安堵した。
頷く鷹峰を見つつ、赤エプロンは続ける。
「苦痛なのは役所への届出とか、お金の帳簿付けとか税金申告とか、予算や資金繰りとか…」
「なるほど。そういった事務作業をしてもらうスタッフを雇わないのですか?」
鷹峰の指摘に、赤エプロンは口を尖らせる。
「求人は出してるんですけど、誰1人来ないんですよ…」
鷹峰は自分のいた世界の求人広告を思い浮かべる。ギルド名だけで1社分のスペースが埋まりそうだし、事務所を見て引き返す人間も多いだろう。ネタ求人扱いされているのかもしれない。
「で、それに加えて、取り立て屋との押し問答が加わってはやっていられないと」
「そうなんです! もちろんお金も社会のルールも大事ですよ……。でも、それより研究の方が大事じゃないですか!? 男に生まれたのならば、スマートな発明の1つでも世に残したいと思いませんか!?」
赤エプロンの問いかけに、他の4色も頷いている。面白い男達だ。「青臭いが嫌いではない」と鷹峰は感じる。
「おっしゃる通りです。私は魔法や薬剤の研究ができる方ではないので、皆さんの熱意が羨ましいですよ。私も、何か名を残すような商売がしたいとは思っていますが」
鷹峰がお追従を口にすると、赤エプロンは我が意を得たりと嬉しそうに反応する。
「商売の研究者ですね! それもまたスマートな道ですね!」
何か彼の情熱にヒットしたらしい。喜ぶ赤エプロンの言葉を耳に入れつつ鷹峰は考える。
海運ギルド『ホナシス』から聞いたところによると、この『グレイトジーニアス(以下略)』は研究熱心の度は過ぎるが、商品の質は良いと評判だそうだ。傷薬はロッサキニテを中心に傭兵ギルドのリピーター客が多いそうだし、服飾染料についても販売は右肩上がりで、連合各国に海路を使って納品しているようだ。(両製品とも、納品運搬を『ホナシス』が請け負っている)
つまるところ、「このギルドは経営改革して、普通に営業努力をすれば儲かるんじゃないか」と鷹峰には感じられるのだ。
「ちょっと話は逸れますが、テーマを指定して新製品を研究開発するような仕事は請け負っていただけるのでしょうか?」
「可能ですが、テーマの内容がスマートかどうかによりますね」
それは確かにそうだろう。どうしたものかと言葉に詰まった鷹峰だが、それを見たシルビオが口を開いた。
「一例なんだけどさ、ドルミール草粉末の催眠成分を抽出して、風魔法と組み合わせて大気中に長時間滞留するようなアイテムの研究ってできる?」
5色全員が驚きの表情で目を見合わせる。代表して黄色が答えた。
「対象空間への魔族の侵入を妨害する、拠点防衛用アイテムということですか?」
理解が早い。
「そう」
「すごくスマートだと思います。非常に興味深いです。ぜひ研究してみたい」
黄色まで口癖が同じだ。5色全員が一緒なのだろう。
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