フェニックスファイナンス-2章7『5人揃って…』前編
前回までのあらすじ
ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立した。魔族が人間側に対して戦争を起こすという情報を得た鷹峰は、魔族に対して催眠効果のあるドルミール草粉末を買い込んで一儲けを企む。
2章7『5人揃って…』前編
ルヌギア歴 1685年 5月14日 ロッサキニテ
ドルミール草粉末にビジネスチャンスを見出した鷹峰は、翌朝に早速、バルザー金庫の取り立てに困っていると言う製薬ギルドに出向いた。
「ねむーい。投機は協力するって言ったけど、こっちは契約外なんじゃないの」
製薬ギルドへの道すがら、口に手をあててあくびをしながら歩くシルビオが不満げに言った。
「そんな明確な契約結んでないだろ」
「うわぁ。暗黒ギルドな言いぐさだよ」
なんだその言葉は。『ブラック企業』みたいなものだろうか。鷹峰はため息をつきつつ、その場しのぎの餌をぶら下げる。
「儲かったなら魔法書でもなんでも経費で買ってやるから協力してくれよ」
「ホントに?」
予想外に喜色満面でシルビオが食いついてきた。現金なヤツだ。
いや、シルビオのことなので、数百万フェンくらいの書物を要求してくる可能性もある。
「えーと、なんでもとは言ったが、予算は常識の範囲内で…」
そう言いかけた時、ポスターカラーのような化学染料で、ビビッドな虹色にペインティングされている気味の悪い建物が鷹峰の目に入り、思わず声をあげる。
「うわっ、なんだあれ」
「マトモじゃないね……」
シルビオも賛同して眉をひそめるが、気付いたように付け加える。
「でも、あれが目的の製薬ギルドじゃない?」
そんなまさか、と思いながら出入口と思われる扉の横の看板を見る。1文字ずつ文字色を変えて、ギルド名が表記されている。
『グレイトジーニアスレインボーブラザーズマジカルメディシン』
それは確かに、海運ギルド『ホナシス』の担当者から聞いたフザけたギルド名であった。製薬ギルドとしてのイメージ戦略が致命的に間違っているように思われる。
「ここはバルザーの張り紙とか無いんだね。『金返せ!』ってやつ」
近寄って見てみると、建物の色自体は異常だが、確かに乱暴な取り立ての跡はない。バルザー金庫からの取り立てに困る他のギルドでは、例外なく張り紙や器物損壊がみられた。事務所の扉などには、十数枚の張り紙と落書き、加えて殴られたり蹴られたりした形跡が必ずあったのだ。
不思議に思いながら、鷹峰はふと虹色の扉に触れる。
瞬間、バチンと音が鳴って指先に火花が散る。冬場の静電気の1000倍くらい強い電流が体を駆け巡り、「べふっ」とあえぎ声をあげつつ、鷹峰は仰向けに倒れた。
「すごい! 雷魔法の防犯トラップを扉に仕込んでるのか…って、にいちゃーん」
朦朧とする意識の中で、「俺の心配を先にしろ」とツッコミをいれた鷹峰だった。
「すいませんね。取り立て対策に設置したんですが、触る場所によって強弱のムラがあって…」
やっと、視界がハッキリして頭がクリアになってきた鷹峰に、同年代くらいの猫背の男が声をかけた。胸から足首までの丈の真っ赤なエプロンを着ており、ボサボサ頭に度の強い眼鏡をかけている。いかにも世間ズレした理系研究者といった雰囲気である。
「ええ。だいぶ回復してきました」
何か恨み事でも言うべきなのかもしれないが、言葉がまだ出て来ない。鷹峰が倒れた後、出てきたこの男にシルビオが自分達の身分を説明し、事務所の中に入れてもらったのだ。
鷹峰は意識を戻そうと、指でこめかみを押さえつけてから首を横に振る。
「はは、取り立て屋に荒らされた形跡の無い理由が分かりましたよ」
触れれば高圧電流が流れる扉に、張り紙をするバカはいない。
「うるさくてスマートじゃない連中は研究の邪魔なので、ああいう対策をしたんですよ。返す金の用意がないのに、何時間もドアを叩いて研究の妨害をされるのは堪りません」
理屈は分からないではない。しかし、一般人も客も巻き添えを食らうのではないか。
「でも、あれじゃお客さんも減っちゃうんじゃないですか?」
それを聞いた赤エプロンはハッとした表情を浮かべる。
「そうか、それで医療ギルドや、道具ギルドの担当者が来なくなったのか……。スマートな論理だ」
スマートって言葉が口癖なのだろうか。
そこに、赤エプロンと似た男の声が横からかかる。
「目が覚めたのか?」
声の方向を見て鷹峰は目を丸くする。赤エプロンとそっくりの風体の、黄、青、緑、紫のエプロンをかけたの眼鏡男が4人並んで立っているのだ。「レインボーブラザーズって、そういうことか」と合点がいく。
「にいちゃん起きた?」
追加4色の後ろからシルビオが顔を出して近づいてくる。
「ああ。やっと頭がハッキリしてきたよ」
「そりゃ良かった」
シルビオはそう言って、鷹峰の隣に座りつつ、耳打ちをした。
「設備はバッチリ。地下倉庫もある」
それは朗報だ。鷹峰は表情を切り替えて笑顔になり、赤エプロンに向き直る。
「さて、本日は債務整理についてお話を伺いに参ったのですが…」
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