フェニックスファイナンス-2章6『お買い物は何ですか?みつけにくい物ですか?』前編

2020年3月21日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立した。魔族が人間側に対して戦争を起こすという情報を得た鷹峰は、値上がりしそうな物資を先に買い込んでおく「投機」に動き始める。

2章6『お買い物は何ですか?みつけにくい物ですか?』前編

ルヌギア歴 1685年 5月13日 ロッサキニテ問屋街

ロッサキニテ市街地北部の問屋街は、オプタティオ随一の専門商店街であり、食料品、織物、木材、鉱物など様々な商品を取り扱う商店が所狭しと並んでいる。オプタティオに限らず、クレアツィオン連邦で商売を営む商人の御用達ストリートである。

ソニアがバルザー金庫の取り立て屋を捕まえようと、債務整理を行うギルドの事務所で待ち伏せを始めていた時、鷹峰とシルビオは、このロッサキニテ市街地北部の問屋街に来ていた。魔族との戦争を睨んで、高騰しそうな物資を買い込む『投機』を行うためである。

「なんだか、アテスの大通りと違って一般人は少ない感じだな」

問屋街を歩きながら鷹峰はシルビオに話しかけた。

「ここは『問屋街』だよ。問屋の意味分かってる? 一般市民向けに、小口販売するようなお店はがある場所じゃないよ」

そう言われた鷹峰は、ちょうど通りがかった木材店前で足を止め、薪木の束に目を向ける。大人が小脇になんとか抱えられるかといったサイズの束に、「1束1200フェン/最低50束から販売」という値札が貼られている。一般人が買ったところで、持ち運びが困難な量である。

「分かってるよ。商人向けに、大量に商品を売買する場所だろ。確かに、投機のために大量購入するなら、こっちの方が向いているだろうな」

「そういうこと」

シルビオの得意げな声を聞きつつ、木材店の品ぞろえを見ていると、木炭が視界に入る。

「この前ちょっと話したんだが、俺の居た世界じゃ、いざ戦争となると値上がりするのは燃料ってイメージなんだ。こっちは燃料に対する執着が薄いような気がするんだよな」

木炭を触ってしまい、墨で汚れた指を薪に押し付けて拭いている鷹峰を見つつ、シルビオが答えた。

「燃料って木炭の話なの?」

「薪も木炭もそうだが、メインは石炭とか石油だな。石炭・石油ってこっちにもあるのか?」

鷹峰の問いに、シルビオは眉間に皺を寄せる。

「知ってるけど、実物なんて見たことないよ」

採掘技術が未熟なせいで採れないのだろうか。それとも埋蔵量が少なくて、採れないのだろうか。

首をひねりながら考えを巡らせる鷹峰に、シルビオが1つの見解を示す。

「そもそも魔法とか、魔法を活かした生活雑貨があるから、燃料ってそんなに必要でもないんだよね。普通に生活してると、厨房とお風呂で薪を使うくらいだし」

確かに、女将さんが厨房で使っているのも基本的には薪だ。

鷹峰が生まれた世界で石炭や石油が使われるのは、一昔前においては蒸気機関を動かすためであり、現代においては発電をするためである。そういった機械技術が発展していない上に、魔法で事足りる場面が多いのだから、薪や木炭があれば不自由しないのかもしれない。

ただ、そういった技術を持ち込んだ『日本人』が過去にいなかったのか、という点に関しては違和感が残るのだが。

「まぁ、燃料についてはいいや。どっちにしろ、大きさや重さって点が解決できないと、大量保管に向かないしな」

そう言って、2人はまた歩き始めた。

「じゃあ、本題の魔法材なんだが、何かアイデアはあるのか?」

そう聞いた鷹峰にシルビオは頭をかきながら答える。

「昨晩色々考えたんだけど、『これだ!』っていうのは思いつかなかったんだよねー。だから、ぶっちゃけお店に行ってみて、その場で考えるしかないかなってとこ」

頭が痛くなりそうな返事がシルビオから返ってきた。ダメ元くらいに考えた方が良いかもしれない。


鷹峰が、「無駄足になったとしても、こちらの世界の商品マーケットについて知識が広まればいいか…」と自分に言い聞かせ始めたくらいのタイミングで、お目当ての魔法材ショップに到着した。

そこは周囲とは一線画す異様な佇まいの店舗であった。1メートル近いドラゴンの頭蓋骨、キングコブラサイズの蛇の乾物、注射針のようなトゲのある植物の鉢植え、などといった商品が所狭しと並べられている。溢れる商品が外光や天井の光石からの光を遮って店内が薄暗く、お香のような香りも漂っており、うさん臭さが際立っている。

「なんだか、観光地にある怪しい土産物屋みたいな感じだな」

そうボヤきながら、鷹峰は値札を確認して目を見開く。ドラゴンの頭蓋骨は800万フェンの値札が、蛇の乾物には950万フェンの値札が貼られている。

「なぁ、これは一体何に使うんだ? 薬かなにかの材料か?」

鷹峰がドラゴンの頭蓋骨を指さしながら聞くと、シルビオが答えた。

「それはヒュドラっていうドラゴンの頭蓋骨だね。水を操ったり、成分を調整するような魔法を制御する素材。ただ、そのサイズで800万は高いね」

「戦いで使うアイテムなのか?」

シルビオは一瞬考えてから、首を横に振った。

「そういう用途は聞いたことがないよ。水をろ過するようなシーンで使われてて、酒蔵とかが酒造りの過程で使うってイメージだね」

どうやら戦争とは縁がなさそうである。

「じゃあ、こっちの瓶は? これは飲み物か?」

鷹峰が、不気味に光る粉末が沈殿している瓶を指す。それを見て、シルビオは「おっ」という表情を浮かべる。

「それは結構アリかもね。クラルス解毒液って言って、5種類くらいの毒消し成分を混ぜた万能解毒剤だよ。オプタティオ前線にいるような魔族の毒なら、9割方これ飲んどけば大丈夫って品だね」

「使い勝手がありそうな一品だな」

こちらはどうやら戦争となると確実に値上がりしそうである。

「流通量が少なくて貴重だしね。それ1本150万フェンって書いてるけど、去年の今頃、金山が奪われた直後は住民のパニックもあって、1800万くらいになってたね」

聞いた瞬間、鷹峰は表情を曇らせる。さすがに値上がりの度合いが酷すぎるように感じるのだ。

「ちょっと相場が上がって困った」くらいの商品を鷹峰達が適正価格で売れば、ギルドの名声にも利益にもなる。

だが、「相場がバカ高くなって確保できない」くらいの商品を適正価格で売ろうとすると、「あいつらが買い占めたせいで上がった」という悪評に繋がりかねない。

そんな懸念を抱きつつ、高峰はもう少し詳細に情報を得ようとシルビオに問いかける。

「これって、普段は傭兵ギルドとか、軍が使うようなものなのか?」

「高いから、軍の最前線の精鋭部隊と、それに随行するような一部の傭兵のみ常備する薬剤だね。後方の兵は症状から毒の種類を判別して、その場で個別の解毒剤を調合すればいいけど、前線はそんな余裕がないから、こういう『とりあえず飲んでおけばOK』っていう万能解毒剤が重宝されるんだ」

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