今日から始める異世界M&A-2章6『お買い物は何ですか?みつけにくい物ですか?』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立した。魔族が人間側に対して戦争を起こすという情報を得た鷹峰は、値上がりしそうな物資を先に買い込んでおく「投機」に動き始める。

2章6『お買い物は何ですか?みつけにくい物ですか?』

ルヌギア歴 1685年 5月13日 ロッサキニテ問屋街

ロッサキニテ市街地北部の問屋街は、オプタティオ随一の専門商店街であり、食料品、織物、木材、鉱物など様々な商品を取り扱う商店が所狭しと並んでいる。オプタティオに限らず、クレアツィオン連邦で商売を営む商人の御用達ストリートである。

ソニアがバルザー金庫の取り立て屋を捕まえようと、債務整理を行うギルドの事務所で待ち伏せを始めていた時、鷹峰とシルビオは、このロッサキニテ市街地北部の問屋街に来ていた。魔族との戦争を睨んで、高騰しそうな物資を買い込む『投機』を行うためである。

「なんだか、アテスの大通りと違って一般人は少ない感じだな」

問屋街を歩きながら鷹峰はシルビオに話しかけた。

「ここは『問屋街』だよ。問屋の意味分かってる? 一般市民向けに、小口販売するようなお店はがある場所じゃないよ」

そう言われた鷹峰は、ちょうど通りがかった木材店前で足を止め、薪木の束に目を向ける。大人が小脇になんとか抱えられるかといったサイズの束に、「1束1200フェン/最低50束から販売」という値札が貼られている。一般人が買ったところで、持ち運びが困難な量である。

「分かってるよ。商人向けに、大量に商品を売買する場所だろ。確かに、投機のために大量購入するなら、こっちの方が向いているだろうな」

「そういうこと」

シルビオの得意げな声を聞きつつ、木材店の品ぞろえを見ていると、木炭が視界に入る。

「この前ちょっと話したんだが、俺の居た世界じゃ、いざ戦争となると値上がりするのは燃料ってイメージなんだ。こっちは燃料に対する執着が薄いような気がするんだよな」

木炭を触ってしまい、墨で汚れた指を薪に押し付けて拭いている鷹峰を見つつ、シルビオが答えた。

「燃料って木炭の話なの?」

「薪も木炭もそうだが、メインは石炭とか石油だな。石炭・石油ってこっちにもあるのか?」

鷹峰の問いに、シルビオは眉間に皺を寄せる。

「知ってるけど、実物なんて見たことないよ」

採掘技術が未熟なせいで採れないのだろうか。それとも埋蔵量が少なくて、採れないのだろうか。

首をひねりながら考えを巡らせる鷹峰に、シルビオが1つの見解を示す。

「そもそも魔法とか、魔法を活かした生活雑貨があるから、燃料ってそんなに必要でもないんだよね。普通に生活してると、厨房とお風呂で薪を使うくらいだし」

確かに、女将さんが厨房で使っているのも基本的には薪だ。

鷹峰が生まれた世界で石炭や石油が使われるのは、一昔前においては蒸気機関を動かすためであり、現代においては発電をするためである。そういった機械技術が発展していない上に、魔法で事足りる場面が多いのだから、薪や木炭があれば不自由しないのかもしれない。

ただ、そういった技術を持ち込んだ『日本人』が過去にいなかったのか、という点に関しては違和感が残るのだが。

「まぁ、燃料についてはいいや。どっちにしろ、大きさや重さって点が解決できないと、大量保管に向かないしな」

そう言って、2人はまた歩き始めた。

「じゃあ、本題の魔法材なんだが、何かアイデアはあるのか?」

そう聞いた鷹峰にシルビオは頭をかきながら答える。

「昨晩色々考えたんだけど、『これだ!』っていうのは思いつかなかったんだよねー。だから、ぶっちゃけお店に行ってみて、その場で考えるしかないかなってとこ」

頭が痛くなりそうな返事がシルビオから返ってきた。ダメ元くらいに考えた方が良いかもしれない。


鷹峰が、「無駄足になったとしても、こちらの世界の商品マーケットについて知識が広まればいいか…」と自分に言い聞かせ始めたくらいのタイミングで、お目当ての魔法材ショップに到着した。

そこは周囲とは一線画す異様な佇まいの店舗であった。1メートル近いドラゴンの頭蓋骨、キングコブラサイズの蛇の乾物、注射針のようなトゲのある植物の鉢植え、などといった商品が所狭しと並べられている。溢れる商品が外光や天井の光石からの光を遮って店内が薄暗く、お香のような香りも漂っており、うさん臭さが際立っている。

「なんだか、観光地にある怪しい土産物屋みたいな感じだな」

そうボヤきながら、鷹峰は値札を確認して目を見開く。ドラゴンの頭蓋骨は800万フェンの値札が、蛇の乾物には950万フェンの値札が貼られている。

「なぁ、これは一体何に使うんだ? 薬かなにかの材料か?」

鷹峰がドラゴンの頭蓋骨を指さしながら聞くと、シルビオが答えた。

「それはヒュドラっていうドラゴンの頭蓋骨だね。水を操ったり、成分を調整するような魔法を制御する素材。ただ、そのサイズで800万は高いね」

「戦いで使うアイテムなのか?」

シルビオは一瞬考えてから、首を横に振った。

「そういう用途は聞いたことがないよ。水をろ過するようなシーンで使われてて、酒蔵とかが酒造りの過程で使うってイメージだね」

どうやら戦争とは縁がなさそうである。

「じゃあ、こっちの瓶は? これは飲み物か?」

鷹峰が、不気味に光る粉末が沈殿している瓶を指す。それを見て、シルビオは「おっ」という表情を浮かべる。

「それは結構アリかもね。クラルス解毒液って言って、5種類くらいの毒消し成分を混ぜた万能解毒剤だよ。オプタティオ前線にいるような魔族の毒なら、9割方これ飲んどけば大丈夫って品だね」

「使い勝手がありそうな一品だな」

こちらはどうやら戦争となると確実に値上がりしそうである。

「流通量が少なくて貴重だしね。それ1本150万フェンって書いてるけど、去年の今頃、金山が奪われた直後は住民のパニックもあって、1800万くらいになってたね」

聞いた瞬間、鷹峰は表情を曇らせる。さすがに値上がりの度合いが酷すぎるように感じるのだ。

「ちょっと相場が上がって困った」くらいの商品を鷹峰達が適正価格で売れば、ギルドの名声にも利益にもなる。

だが、「相場がバカ高くなって確保できない」くらいの商品を適正価格で売ろうとすると、「あいつらが買い占めたせいで上がった」という悪評に繋がりかねない。

そんな懸念を抱きつつ、高峰はもう少し詳細に情報を得ようとシルビオに問いかける。

「これって、普段は傭兵ギルドとか、軍が使うようなものなのか?」

「高いから、軍の最前線の精鋭部隊と、それに随行するような一部の傭兵のみ常備する薬剤だね。後方の兵は症状から毒の種類を判別して、その場で個別の解毒剤を調合すればいいけど、前線はそんな余裕がないから、こういう『とりあえず飲んでおけばOK』っていう万能解毒剤が重宝されるんだ」

つまり、この商品で投機を仕掛けるのは、最前線の兵士の命と金銭利益を秤にかけて後者をとるということである。ギルド評判の観点では何一つ良いことは無い。無論、ソニアもいい顔をしないだろう。

「やめとこう。さすがに、精鋭部隊の活躍を邪魔するような状況になると後ろめたいし、ギルドの悪評にすらなりかねない」

シルビオが不満そうに口を開く。

「ええー、儲かりそうなのに」

「だいたい、そんな最前線で生き死にかけてる奴らの必須アイテムを買い占めたら、ソニアがいい顔しないだろ」

「うーん……」

と唸りながらシルビオは考えたが、納得した様子を浮かべる。

「確かに。ま、クラルス解毒液は消費期限もあるしね。3ヶ月経っちゃうと効果半減なんだ」

「それを先に言え」

ここ2,3分、真剣に思案したエネルギーを返してもらいたい。

そもそも、消費期限が3ヶ月となると、3ヶ月以内に戦争が起きないと大損である。起きると完全に決まってもいない状況で大量購入するようなものではない。


その後も同様に、目につく商品についてシルビオに解説を頼み、ダメそうだという結果を聞く作業を20回程繰り返し、「目当ての商品は果たして見つけられるのだろうか…」という疑念が強まってきた時であった。

鷹峰が視線を下に落とすと、床置きされている木箱に紙袋が積まれているのが目に映った。「ドルミール草粉末/1kg200万フェン」と書かれている。

「このドルミール草粉末って何なんだ?」

シルビオは何やら水晶玉のようなものを手に取って、コンコンと叩きながら面倒くさそうに答える。

「魔族に対して催眠作用がある粉末だよ。あいつらはそれを逆用して、鎮痛剤とか麻酔薬に加工して使ってるね」

「人間にも効くのか?」

「人間には無害無効化だよ」

「じゃあ、なんでそんなシロモノが人間の問屋に売ってるんだ?」

「ドルミール草が生息しているエリアって限られていて、確かこの辺と魔界の極一部なんだ。だから、魔族との取引が許可されている国の商人がこの辺に買い付けに来るんだよ。あとは単純に、魔族と違法取引する闇商人向けかな」

産地が少なく、人間の商人が仕入れようとすると、ロッサキニテしかないということか。

「値上がりはしそうか?」

「戦争となると魔族側の消費量は上がるだろうから、相場は上がるだろうね。金汚い奴も多いから、戦争計画段階で買占めに手を出す魔族もいるんじゃないかなぁ。あと、人間側で使いたがるヤツも多少はいるし」

人間には効果が無いというのに、どう使うというのだろうか。

「もうちょっと詳しく教えてくれよ。人間は何のために使うんだ?」

鷹峰の質問攻めに根負けしたように、シルビオは水晶玉を棚に置いて説明を始める。

「護身用アイテムの一種になるんだ。ドミ玉って言うんだけど、衝撃で破裂するような仕掛けをした袋に粉末を詰めて、それを魔族に投げつけるんだ。上手く当たって、魔族が粉末を吸い込んだり飲み込んだりすると、意識レベルを落とすことができるって寸法」

なるほど、相手を眠らせる魔法アイテムのようなものだろう。ただ、それが護身用アイテムなのだろうか。

「効果は分かったが、そのドミ玉は護身用アイテムなのか? 普通に戦闘時に使って、朦朧とさせてから切るなり殴るなりできるだろ」

「薬としては即効性の有る方だけど、吸引して即バタンとはいかないよ。それに、魔族もドミ玉の存在は知っているから、それっぽいものを投げつけられて、『何かクラっと来たぞ』って感じたら、すぐに逃げちゃうんだ。ほとんどの魔族って人間より足が速いから、向こうが逃げるのを追いかけるのは難しいし」

「なら、広範囲に大量投下したらどうだ?」

シルビオは首を横に振って答える。

「単価が高すぎてそんなにバカスカ使えないよ。数百万フェンを費やして巨大ドミ玉を作って、投石機で魔族の集団にぶつけたとしても、2,3小隊を一時撤退させられるくらい。本格的な戦争となると、後方から別の小隊が交代でやって来てそれでおしまい。だから、1時しのぎのアイテムでしかないんだ」

魔族の大軍となると数も多そうだし、数十匹を一時的に後方送りしたところで知れているのだろう。結局のところ、ドミ玉は目の前の少数の魔族の群れに対し、そいつらが逃げ出してくれる場面を作るためにしか使えないということだ。

「理屈は分かったが、単価が高ければ、護身用としても売れにくいだろ?」

「その通りだよ。だから、ドミ玉を買ってくれる人間って王侯貴族様くらいなんだ。王侯貴族様が魔族の多い危険地帯を突っ切るような時に買い込むくらい」

大量販売には向かなそうだが、底堅いニーズは期待できそうだ。ドルミール草粉末を買い込んで、戦争が起きなかったとしてもも、長期的にドミ玉を作りながら販売していけば大損することはないだろう。

それに、ニーズが魔族側に偏っている点も良い。価格高騰に目くじらを立てるのは、王侯貴族様を除けば、一部の魔族と取引する商人だけだ。一般市民から敵視されることは無いだろう。

万一、王侯貴族様から不評を買ったとしても、ドミ玉を作って献上すれば収められるだろうし、そこからコネクションを作れるなら投資としても悪くない。

そんなことを考えて、「よし、こいつを買おう」と鷹峰が言おうとした時、シルビオがふと何気なく口にした言葉が耳に入った。

「しっかし、ドミ玉ってアイテムとしちゃ効果的だけど、コスパ考えると非効率なんだよね。加工を工夫したら、もっと効率よく相手の意識を奪えるアイテムが作れると思うんだけどな」

「加工を工夫というと?」

シルビオは手を上げて、何かが広がっていくようなジェスチャーをしながら説明する。

「例えば、成分を抽出して気体にして、風魔法と組み合わせて長期間空中に滞留するような状態にすれば、拠点防衛用に使えるんじゃないかなーって」

空間に催眠物質を満たすことで、魔族が踏み込めない場所を作るということか。可能だとしたら抜群に有用であろう。

ドルミール草粉末を買い占め、投機&加工の両面展開で儲けるのも良さそうだ。

「シルビオ、その拠点防衛用のアイテムってお前自身で開発できるのか? あとドミ玉って作れるか?」

シルビオはその質問に即答する。

「新アイテムにしてもドミ玉にしても設備が要るね」

「その設備って、薬品とか、化学研究してるようなギルドにはあるものなのか?」

「新アイテムの方は何が必要になるか確信は持てないけど、ドミ玉作るくらいの設備なら、製薬をしているギルドにはあると思うよ」

それはちょうどいいと思い、鷹峰は表情を綻ばせる。バルザー金庫の債務整理訴訟の原告団に組み込むために、海運ギルド『ホナシス』から紹介してもらう予定のギルドの1つが薬品研究をしているギルドなのだ。

初回の挨拶には鷹峰自身が出向くつもりだったので、設備を借りたり、ドミ玉の製造依頼が可能かも含めて一緒に話をすれば一石二鳥だ。

「設備はアテがある。ドルミール草粉末を買い付けつつ、設備も確認してみよう」

~~続く~~

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2 件のコメント

    • コメントありがとうございます!
      まだまだ先を考えていますので(しかし、書き溜めはない)、
      また見に来てくださいね!

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