フェニックスファイナンス-1章2『召喚されるのはだいたい日本人』前編

2020年3月20日

前回までのあらすじ

証券会社の若手社員である鷹峰亨(たかみねとおる)はルヌギアという世界に召喚されてしまった。召喚された人物はなんらかの神通力を持つらしいが、鷹峰にはこれといった能力は発現しなかった。鷹峰が無能力と判明したため、召喚の首謀者の1人であったビブラン大臣は興味を失い、鷹峰をソニアに押し付けるかたちで放逐した。

1章2『召喚されるのはだいたい日本人』前編

ルヌギア歴 1685年 3月20日 アテス城下町

鷹峰の飛ばされたオプタティオ公国は、クレアツィオン大陸の南東端にあるオプタティオ半島、及びその周辺諸島を領土とする公国である。温暖で、年間を通して雨量も安定しており、農林業を主産業としている。また、半島の中央を南北に走るピードス山脈には、様々な金属の鉱脈が存在し、鉱物の採掘を生業とする人間も多い。

そして、鷹峰の今いる街はアテス。オプタティオ半島の付け根に位置する公国の首都である。古くから半島と大陸を結ぶ物流の中心地として発展し、現在に至っては周辺の集落も含めて人口50万人に上る大都市圏を形成している。

※オプタティオ概略図

鷹峰はソニアに従って城を出て、石畳が敷き詰められた大通り沿いに城下町を歩き始めた。3,4階建ての建物が通りの両サイドにズラリと並んでいる。木造と石造りが半々といったところで、堅牢そうな印象だ。バイクや軽自動車が突っ込んだ程度では、ビクともしないように見える。

日はとっくに暮れているが、何かの鉱物を光源とした街灯があって大通りを照らしている。街路に入ると真っ暗だろうが、大通りを歩いていく分には十分な明るさが確保されていた。ただ、道路の広さに比べると人通りは圧倒的に少なく、どこか寂し気な雰囲気がある。

「城下町のわりには、人の気配が少ないように思うんですけど。治安に問題でもあるんですか?」

鷹峰がソニアに後ろから声をかける。

「そんなに気張って会話しなくてもいいよ。むしろむず痒いし」

見知らぬ場所に来たものだから、営業用丁寧語トークをしていたのだが、ソニアには不評のようだ。鷹峰は「わかった」と短く伝えてからソニアに「どうぞ」と手を向けて話を促した。

「昼間はもっとガヤガヤしているけれど、ここ数年は不景気だなんだで、夜はあんまり賑やかじゃないわね。治安も悪くなってるって話をちょくちょく耳にするわ」

どこの世界でも、夜のお遊びから倹約が始まるのは変わらないらしい。

「ここは一体どこなんだ? さっきの大臣サンはオプ……なんとかって言ってたが」

口調を多少ぶっきらぼうにして鷹峰は聞いた。

「オプタティオ公国。クレアツィオン大陸の南東よ。って言ってもワケわかんないわよね。なんて言ったっけな、あんたの元居た場所とは、い……、い……」

「異次元? 異世界?」

「それそれ。異世界らしいわ」

異世界とは簡単に言うが、どういった世界なのだろうか。ファンタジーRPG風の世界ってイメージでだいたい合っているような気もするが、サラリーマンだの金融だのといった言葉を発する大臣キャラなんてファンタジーRPGでは見たことがない。

「俺が日本人ってのは、何で分かったんだ?」

前を歩くソニアが振り返り、疑問顔で返答してきた。

「え? 何でって言うか、召喚された人間の事を日本人って呼んでいるのだけど」

「アメリカ人とかフランス人とか中国人とかは召喚されないのか?」

「なにそれ?」

どうやら、召喚された存在はすべからく「日本人」という呼称を使われているようである。ただの偶然なのか。もしくはホントに日本人のみが召喚対象なのか。

わけがわからず、どう聞くのが早いかと悩んでいる内に2人は目的の場所に到着した。

「着いたわ。そこよ」

ソニアはそう言って、ハリウッドのB級西部劇に出てきそうな「いかにも酒場」といった2階建ての建物を指さした。観音開きの扉の中から複数人の笑い声が漏れてきており、少なくとも閑古鳥が鳴いているような店ではないようだ。

ソニアは扉をやや乱暴に押し開き、慣れた雰囲気で酒場に入って行く。鷹峰もそれに続いて店内に足を踏み入れた。中は大きな吹き抜けのホールになっており、4,5人掛けの丸テーブルが10台ほど並べてあった。奥には6席ほどのカウンターもあるが個室はなさそうで、客の入りは6割と言ったところだ。

「ようソニアちゃん、男連れとは珍しいねぇ。カレシかい?」

入口近くの丸テーブルに座っている酔客のおっさんがソニアに声をかけた。

「ハズレ。そんなんじゃないわよ」

ソニアは適当にあしらいつつ奥のカウンターを目指して歩いていく。鷹峰もそれに従う。

「ソニアちゃんおかえり。そちらさんは?」

カウンターの中に立っているエプロン姿の女性が声をかけてきた。黒髪を後頭部に巻貝のようにして固定しており、腕の良い女将さんのような印象の人である。歳は30代後半~40歳くらいだろうか。

「例の召喚、成功したんだけどビブランの眼鏡には適わなかったみたいで、一緒に城から放り出されてきたトコよ」

カウンターの女性がちょっと驚いた表情になり、小声でソニアに話しかける。

「えっ、じゃあ日本人さん?」

「そう。でもこれといった神通力は無いみたい。とりあえず当面の世話はしろってさ。ご飯代は貰ってきたから、しばらく置いてやってくれない?」

カウンターの女性が鷹峰を見る。

しばらく置くという言葉に少し驚きつつ、鷹峰は名乗った。

「鷹峰亨です。どうも……、はじめまして」


ルヌギア歴 1685年 3月20日 アテス城下町 酒場『パルテノ』

鷹峰とソニアはカウンターに座り、エールビールを飲みながら話を始めた。カウンターの女性は店のオーナー兼女将とのことだった。

「あんたから質問してよ。何から教えたらいいか分かんないわ」

ソニアが乱暴に話を振ってくるが、聞きたいことだらけの鷹峰にとっては好都合だった。

「そうだな、ソニア…、って呼びつけでいいのか?」

「いいわよ」

即答であった。敬語を使われると逆に距離感を感じる性分なのかもしれない。

「ソニアは普段なんの仕事をしているんだ?」

「今はこの酒場で用心棒ってトコかな」

そう言っている間に1杯目のグラスを開けて女将さんにおかわりを要求する。結構な酒豪のようだ。

「今はって、昔は違ったのか?」

「数ヵ月前までは、ラマヒラール金山っていうところの防衛隊をやっていたんだけどね。金山を魔族に取られちゃって、今はこの酒場の住み込み用心棒ね」

現在、オプタティオ半島の南東側エリアは魔族の勢力圏であり、普通の人間は足を踏み入れない土地になっている(魔族と取引をするような闇商人は除く)。ラマヒラール金山は、ちょうど人間と魔族の勢力境界線上の山岳地域に存在するラマヒラール山にて発見された金鉱山で、まずまず良質な金鉱石が採掘される。そのため、過去300年間に渡って人間と魔族の間で奪い合いが起きている。

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