フェニックスファイナンス-2章4『ただ飯ぐらい』後編
2章4『ただ飯ぐらい』後編
オプタ銀行の手口を聞いたソニアが嫌悪感を露わにして言う。
「オプタ銀の考えそうなことだわ」
「逆を言えば、オプタ銀とバルザー金庫の繋がりが証明できれば、オプタ銀本丸を攻めることも可能になるんだ」
納得顔を浮かべたロゼが口を開いて確認する。
「つまり、裁判でバルザー金庫との関係を暴露されたくなければ、オプタ銀が責任を持って過払い返還と損害補填をするようにと、オプタ銀に迫るということですか?」
我が意を得たりといった顔で鷹峰はロゼを指さす。
「そういうことだ」
ここで、ソニアが何か思いついた様子で言った。
「じゃあ次の1手なんだけど、どこかのギルドで待ち伏せして、取り立てにきたヤツを捕まえて脅しつけて吐かせてみるってのはアリ?」
鷹峰は虚をつかれて言葉を失う。なんともソニアらしい直線的なアイデアである。効果的かもしれないが法律的な面に不安が残る。
「ロゼ、それって法律的には…」
「暴力的な取り立てをしている現行犯を抑える形なら問題ないですよ」
現行犯逮捕ってことかと鷹峰は合点がいく。
「分かった。ただ、無理はするなよ」
それを聞いたソニアはいたずらっぽく笑った。
「あれ? 心配してくれるの?」
「……、俺が心配してるのは取り立て屋の生命の方だ」
誰がどう聞いても苦し紛れの照れ隠しであった。
「さて、こっちは例の書類をジョルジュ支店長に解読してもらったんだが、どうも推測は当たっていたようだ」
話がデガドのまき散らした書類に移ったことを聞いてとったのか、バーカウンターに座っているシルビオは鷹峰達の方を向き、話に聞き耳を立て始める。
「魔族がまた戦争を起こすということですか?」
ロゼが心配そうな表情を浮かべて尋ねた。鷹峰はコクリと頷いてから、ジョルジュから得た情報をかいつまんで3人に説明した。
「迷惑な話ね」
話を聞き終わったソニアはため息をついてそう言った。彼女達が必死になった金山の争奪戦も、株主たちのマネーゲームの一環であったのだから、やるせない思いがあるのだろう。
「これって、私達だけじゃなくて、公国の人達皆に知らせる必要があるんじゃないでしょうか?」
ロゼの意見は正しいのだが、知名度の高くない鷹峰達が魔族の情報を元に警鐘を鳴らしたところで意味は無い。
「確かにそうだが、今の俺たちがそれを騒いだらどうなる?」
「変人扱いされちゃって終わりでしょうねー」
「そうなるだろうな。だから、そこはジョルジュ支店長に任せておこう。カイエン銀行発で情報を発信してもらえば、みんな警戒するだろうしな」
3人の女性陣が頷いたのを見て、鷹峰は自分のアイデアを披露する。
「ってことで、こちらは商売人らしく戦時物資への投機をしようかと考えている。ギルド予算はまだ3億程度あるから、値上がりしそうな物品を買い込んで上がった後で売却するって商売だな。戦争が起きなかったなら、相場も変わらないだろうから大きく損もしない」
鷹峰の言葉に対し、ソニアが釘をさすように言った。
「戦争が起きた場合に、買い込んだ物資を無茶な高値に吊り上げるようなことはしないわよね?」
「むしろ相場が吊り上る中で、まっとうな価格で公国や傭兵ギルドに提供してやればいい。上手くやれば、今俺達が一番欲しい『評判や知名度』ってのを得られるかもしれない。ウチが正義のギルドっていう印象ができれば、バルザーとの訴訟で有利に働くかもしれないしな」
「それを聞いて安心したわ」
ソニアの納得を確認していると、次はハイディが口を開いた。
「投機って一体何を買うんですかー? やっぱり食糧とかですかー?」
何を買うかは確かに悩みどころなのだ。食糧の値上がりは堅いが、3億フェンの予算を全額食糧につぎ込んだとしたら、事務所が食糧で埋まってしまう。
「食糧だと大きさが問題だろう。保管する場所まで確保しないといけなくなるぞ」
「腐るって問題もあるしね」
ソニアが指摘したように腐敗も課題の1つである。乾燥を保つ必要が出て来そうだ。
「大きさが問題ってことはー、金属とか燃料も無理ですよねー」
「小さく軽く、それでいて比較的高価で、保管の簡単な物資ですか……」
ロゼが端的にまとめてくれた。ただ、そんな都合のいい物品があるのだろうか。
「魔法材なら、ありそうね」
ソニアがふと思いついたように言った。
「魔法材?」
「そう。魔法に使う触媒とか薬品とか。バカ高い素材もあるから、イケるんじゃないかしら?」
「なるほど。具体的には何を買えばいいんだ?」
「えっ? そりゃ……」
ソニアが口ごもる。どうやらイメージ論だったようだ。
ソニアは気恥ずかしさから視線を逸らして考えようとする。その時、適任者が彼女の視界に入った。
「シルビオ、あんた協力しなさいよ。魔法材も、その相場も詳しいでしょ」
いきなり話を振られたシルビオは如実に嫌そうな顔を浮かべて反応する。
「やだよ面倒くさい」
迷いなく即断で拒否である。
ソニアは「やっぱりか」といった顔で鼻から息を吐きだす。おそらく、金山で知り合った頃からこういう奴なのだろう。説得の言葉を見失った4人は固まってしまう。
しかし、この程度では動じない人物がこの場にはいた。
「あら、じゃあしょうがないわね。ここ3日間の御飯代と宿代をシルビオ君に請求しないとね」
女将さんはそう言って、伝票を切ってシルビオの前に置く。
「えっ? ちょ、ちょっと、この額は無理!」
総額6万フェンである。腹が減っていたのか、暴飲暴食をしたシルビオの食費は結構な金額になっていた。そこに宿代も乗っかったのだから、6万くらいにはなる。そして、言うまでもないが彼は今1文無しである。
「じゃあ、その魔法杖を売っちゃえばいいじゃない」
女将さんは包丁をとって大根をまな板の上に置きつつ言った。シルビオは脂汗をかきながら、再度拒否を示す。
「そ、それはダメだよ! この杖はパボガニー製で魔法素子の……」
なんとか言い訳を試みる。だが、それを一刀両断するかのように女将さんは包丁を勢いよく振り下ろして大根を真っ二つに切り、シルビオの顔を見てニコっと微笑んだ。
「ただ飯ぐらいを置いておくほど寛容じゃないのよ。ウチのギルドは」
「これ、儲からなくなったら俺もヤバいな」と鷹峰は寒気を覚えた。
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