フェニックスファイナンス-2章4『ただ飯ぐらい』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立し、債務整理ビジネスに手を付け始めた。そして、ひょんなことから魔族の動きを知って、投機にも手を付ける。

2章4『ただ飯ぐらい』前編

ルヌギア歴 1685年 5月11日 ロッサキニテ・アローズバー『鳥の巣』

ジョルジュが去り、夕刻に他のメンバー達が戻ってきたため、バーの営業開始までの時間を利用してブリーフィングが開かれた。

「5つのギルドとコンサルティング契約の締結が完了しました。契約書はこの通りです」

そう言って、ロゼは完成した契約書をテーブルに広げる。ロッサ金属鉱山を含む5ギルドのオーナーの署名と、ギルド印が押印されている。

「加えて、1つ連絡です。海運ギルド『ホナシス』と契約書を取り交わした際、先方のギルドオーナーから『取引先でバルザーの取り立てに苦しんでいるギルドが2つほどあって、フェニックスファイナンスを紹介たいが構わないか?』と聞かれました」

海運ギルド『ホナシス』もバルザー金庫の取り立てで苦しんでいるギルドである。ロッサキニテを拠点にして、各種産物の海上輸送を請け負っている中堅海運ギルドだが、保有している船舶が相次いで嵐に遭ったり、海上で魔族に襲撃されたりと不運が重なり、資金繰りに困ってバルザーの話に乗ってしまったのだ。

鷹峰はサイン済みの契約書を手に取って眺めながら、嬉しそうに答えた。

「そいつはいいな。原告団は多い方に越したことはない。できるだけ早くその2ギルドにも接触してみよう」

ロゼの報告が終わり、次はハイディが話し始める。

「私はロゼちゃんの契約締結を聞いてー、ホナシスの経理と現場責任者のいる港湾倉庫の方を訪ねて、取り立てによる被害額算定をしたんですけどー、金額は予想外に大きくなりそうですねー。と言うのも、輸送依頼を受けて預かったゴブダーン織の絨毯を強奪されたそうでー」

それを聞いてソニアが身を乗り出す。

「ええっ!? ホントに?」

「なんだ? そのゴブなんとか織ってのは?」

「メチャクチャ高くてキレイな絨毯よ」

乱暴だが簡潔な回答である。何から具体的に問うかと鷹峰が首をひねっていると、レモン水をテーブルに運んできてくれた女将さんが付言してくれた。

「ゴブダーン織はロッサキニテ名産の高級布地よ。絨毯はとくに高価で、大人2,3人が座れるようなサイズで500万フェンくらいするわね。芸術品扱いだから、座るより壁にかけて飾る人の方が多いかしら」

鷹峰のいた世界における、ペルシャ絨毯のようなものだろうか。

「このお店にも一枚くらい飾り付けたいわねぇ」

女将さんはそう言いながらテーブルに4つのレモン水のコップを置いて、バーカウンターの内側に戻っていった。バーカウンターではシルビオが魔法杖を分解し、何やら整備作業のようなことをしている。


「で、被害額はどのくらいなんだ?」

「金額的には2,300万クラスの比較的安価な絨毯が10枚程度だったんですがー、1枚だけ、サピエン王国のパモストン子爵から、補修のために預かっていた絨毯が入っていたそうでー」

「それはまずいですね。パモストン子爵は王国の海運を管理している方ですから、下手をするとサピエン王国内の港に入港…」

サピエン出身のロゼが懸念を語ろうとするが、それを遮ってハイディが言った。

「すでに入港禁止を食らっちゃってますねー」

船舶での輸送事業をやっているギルドが、連合内有数の大国に入港禁止となっては商売あがったりだろう。

「ロゼ、こういうケースって業務妨害の賠償も請求できるのか?」

ロゼは即断で頷くが、少し悩み顔を浮かべる。

「もちろん可能です。ただ、珍しいケースですから、どれくらいの金額を請求できるかは判例を見ないと分かりませんね。明日以降、私の方で調べてみます」

それは確かにそうだろう。クレアツィオン連合内とは言え、異国の有力貴族様の不興を買い、入港禁止を食らったという被害を金額に算定するのは簡単ではない。

「分かった。ロゼはその辺りの調査を頼む。ハイディは引き続き各ギルドを回って過払い額と、被害額の算定を続けてくれ」

鷹峰はそう言ってからロゼとハイディの頷きを確認し、ソニアに目を向けた。

「こっちは、残念ながら成果ナシ。南東スラム街のバルザーの住所に行ってみたんだけど、平屋の建物があるだけで、中はスッカラカン。誰もいなかったわ」

バルザー金庫について、役所の開示情報で本拠地住所が判明したため、ソニアはそこの実地調査を行ってきたのだ。

「住所自体が架空ってワケではなかったのか?」

「ええ。周辺の住民に聞いたんだけど、建物自体はそこで間違いないって。ただ、人が出入りしているのを見たことはないそうよ。ついでに『バルザー金庫って知ってる?』って聞いてみたんだけど」

そこでソニアは肩をすくめて言った。

「『こんなスラム街に金庫を置くバカはいねぇべ』って笑われちゃったわ」

「ナイスジョークだな」

苦笑しつつ、鷹峰は考える。

バルザー金庫を訴えようにも、相手の実態が掴めないことには手が打ちにくい。裁判で勝ったところで、雲隠れされてしまうと取り返すことが難しくなる。

「バルザー金庫の実質的なオーナーが判明するか、オプタ銀との繋がりが明るみに出ないと攻めにくいんだよなぁ」

愚痴っぽく鷹峰がこぼしたのを聞いて、ハイディが問う。

「バルザーのオーナーはいいとしてー、オプタ銀との繋がりとはどういうことですかー?」

「5ギルドの話を聞いた感触に過ぎないが、オプタ銀の差し押さえ勧告とバルザーが融資営業に来るタイミングが余りにも一致しすぎている。おそらくバルザー金庫は、オプタ銀が強硬的な取立をする際の隠れ蓑なんじゃないかと思うんだ」

2章4後編に続く

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