フェニックスファイナンス-2章3『拝金主義者はどこにでもいる』後編

2020年4月11日

2章3『拝金主義者はどこにでもいる』後編


ルヌギア歴 1685年 5月11日 ロッサキニテ・フェニックスファイナンス事務所

「いやー、綺麗なオフィスですね。バーの方も評判がいいようで、支店の女性職員の話題になっていましたよ。よく2週間の突貫工事であんな立派な石窯が作れましたねぇ」

事務所を訪れたジョルジュは感心したように言った。普段よりフランクな印象である。出先ということもあって、部下の職員たちの目を気にしなくてよく、気楽なのかもしれない。

「石窯は、パルテノの常連客の1人が『漢の餞別がこれだ…』って泣きながら泊まり込みで作ってくれたそうですよ」

「ははは、いいお客さんに恵まれていらっしゃる」

2人で少し笑ってから、応接ソファに座って話し始めた。

「さて、今日は融資のお願いと、お手紙をいただいていましたが」

「ええ。私も銀行員の端くれですから、融資のノルマというのがありましてね。ただ、こういう経済状況ですから、なかなかこれといったギルドや人がおらず、鷹峰さんにお願いできないかと」

そう言って、ジョルジュは銀行融資の条件などを話始めた。それによると、利子率は年率約9%で、事業によって担保設定は柔軟に対応してくれるらしい。今後、打倒してやろうと考えているバルザー金庫の悪徳な高利子率と比べると、雲泥の条件差であった。

「ジョルジュさん、融資はかなり前向きに受け入れたいと思います。ただ、お受けするついでと言ってはなんですが、解読していただきたい書類がありまして」

鷹峰はそう言って、件の文書をテーブルの上に出した。

「ん? アヅチ書式の決算書ですね」

やはりそうなのか。

「ひょんなことから入手したんですが、読めますか?」

「ええ。それを読むのが仕事でしたからね。拝見しましょう」

そう言いつつ、書類を手元によせてチェックを始める。20秒ほど沈黙が流れたあと、ジョルジュが言った。

「よくこんな資料を入手されましたね……。これ、貰っていきたいくらいです」

「内容を説明いただければ構いませんよ」

ジョルジュに見せている段階で、その程度の覚悟は当然している。

「これは、株式会社オプタティオ前線の昨年度の決算データです。魔族企業は3月末が年度の区切りなので、今くらいに決算がまとまって5月下旬頃が決算発表シーズンとなるのです。ですから、おそらくこの書類は内部の取りまとめ用の資料でしょうね」

シルビオはデガドが目くらまし替わりにばら撒いた書類だと言っていた。非常時の戦闘に際して、内部書類を活用した結果、情報漏洩を招いてしまったのだろう。

「で、どうですか? 経営状態は?」

「うーむ。一見黒字には見えるが、台所事情は厳しいっていうパターンですな」


そう言って、ジョルジュはいくつかの項目を指さしながら、鷹峰に説明を始めた。要約すると、金山の取得によって表面的には黒字化しているが、現金がそれに追いついておらず、借金も増加しているということだった。

「ちなみに、オプタティオ前線の株主ってジョルジュさんはご存知ですか?」

ジョルジュは書類から顔を上げて答える。

「知りません。と普段なら言うのですが、オプタティオへの転勤が決まってから、その辺の情報は頭に入れたので実は知っています。この資料を本当にいただけるなら…」

「どうぞ、お納めください」

ジョルジュはニッコリ笑って株主に関する情報を明かした。

「有力大株主はエフィアルテス、アーバドという魔族です。エフィアルテスは魔界きっての巨大製薬会社のオーナー、アーバドは郵便事業を営んでいる一族の者ですな。持ち株比率は昨年末時点で、2者あわせて38%くらいです」

いかにも戦争で儲かりそうな事業だ。

「その2者ってどんな魔族なんですか? 好戦的なヤツですか?」

「好戦的と言うか、分かり易い拝金魔族ですよ。『株式配当を上げられないなら、オプタティオ前線が派手に戦争を起こして、金山なり物資なり人間から奪ってでも配当を作れ』なんて無茶な圧力をかけるタイプです」

「ただ、それは表向きの大義名分であって、本音は『本業で儲けよう』という腹積もりだと?」

ジョルジュは大きく頷いてから言った。

「おっしゃる通りです。エフィアルテスなんて、『負傷した魔族が、自社の薬を使うだけ使ってくれた上で死ねば良い。そうすればオプタティオ前線のリストラにもなり、経営体質が改善して配当も上げられるだろう』とすら考えていそうです」

倫理観の無い魔族がカネの亡者になるとそうなるのだろう。

「その2者は、この決算や配当で満足しますかね?」

ジョルジュはその問を一笑に伏した。

「しないでしょうね。去年の金山の一件で儲かったであろう利益を考えると、配当の数倍どころではないハズです」

「と言うことは、今年も甘い汁を吸うために、一戦起こせと株主主導で働きかけると?」

ジョルジュは目線を上げて、幾分神妙な表情を浮かべつつ言った。

「十分にありえる話ですね。金山の件については、『人間からの奪還だ!』なんだとアヅチでも政治工作をしていましたが、また何らかの大義名分を作り上げて、どこか違う場所を襲うという可能性は高いです」

どうやら一大事のようである。ただ、商機とも言える。戦争に際して値の上がりそうな物資に投機するのも良いかもしれない。分かり易いのは燃料だろうか。

そんな策略が頭を巡り始めていた鷹峰に、ジョルジュは思い出したように言った。

「あと、蛇足かもしれませんが、念のために言っておきたいことが1つあります。アヅチ支店の同僚から聞いた話によると、ここ最近第3位株主が変わって、『ブライ』という投資ファンドになったらしいのです。この『ブライ』の代表はレーナという人間の女なのですが……」

ジョルジュは少し躊躇しつつ、絞り出すように言った。

「彼女は、人の形をしたバケモノです」

2章4前編に続く

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