フェニックスファイナンス-2章3『拝金主義者はどこにでもいる』中編
2章3『拝金主義者はどこにでもいる』中編
状況に興味を持ったロゼが重ねて聞く。
「魔王城から出た後、その2人はどうしたのですか?」
「城から見えなくなったあたりで置いてきた。ボクの力で大人2人を背負ってここまで戻ってくるなんて到底無理。一応、簡易な防護結界は張っておいたから、そっち系の魔法に詳しい魔族に出くわさない限り、見つかって食われることは無いと思うよ」
「気絶したまま息絶えた場合は残念でした。ってか」と鷹峰は心の中でツッコミを入れた。
「なんでゲオルグなんて馬鹿に付き合ったのよ? あいつが無能なのは有名でしょ?」
ソニアが評したように、ゲオルグはある意味で有名人であった。自称千年に1人の英雄にして伝説の勇者、自称価値観と歴史に変革を促すイノベーター、自称救世主にして創世神の末裔……、と確認不可能な称号を並べる能だけは一流と名の知れた剣士である。
「まさか、あそこまで弱いとはさすがに思わないじゃん。他にも3人居たし。あの程度の実力って知ってたら、さっさと財宝収集してオサラバしてたっての」
そう言いつつ、シルビオは懐からくちゃくちゃになった数枚の紙を取り出して、テーブルの上に投げ捨てるように置いた。
「ってことで、戦果はなんだかよく分からないこの紙だけ。ゲオルグが斬りかかった時に、目くらましにデガドがばら撒いた書類で、ドサクサに紛れて数枚拾ってきたんだけど、数字ばっかでよく分かんないし。ホント無駄骨だったよ」
「ふーん」
鷹峰はそう言いつつ紙のシワを伸ばして内容を確認した。
瞬間、鷹峰の目つきが険しくなる。
「こいつは……、決算書の一部じゃねぇか?」
そう言って鷹峰はハイディに書類を向ける。ハイディがそれを覗き込む。
「うーん。魔族文字だと思うんですけど、数字以外の文字は分からないのでなんともですねー。足し引きしてる感じはあるのでー、決算書と言われれば、それっぽいのは確かですがー」
数字の横に黒い三角形、つまり鷹峰のいた世界では『マイナス』を意味する記号がならんでいる。直感にすぎないが、あまり経営状態が良くないのかもしれない。
「シルビオ、その魔王城ってどうだった? なんて言うか、景気良さそうだったとか…」
鷹峰の突飛な質問に、シルビオは失笑する。
「ボクに魔族の景気を聞かれても分かんないよ」
ただし、シルビオは思い出したように付言した。
「でも、そういや、デガドが株主について文句言ってたよ。『糞株主どもが、経営状態が悪くなると過激な手段に出ろと言ってくる』とかなんとか」
「なによそれ。どういう意味?」
ソニアがシルビオに突っかかる
「知らないよ。一緒に魔王城に踏み込んだエマって姉ちゃんが、ラマヒラール金山を奪ったことを咎めた時、デガドが返答でそう言ったのを聞いただけ」
鷹峰は天井を見るように少し考えてから、思いあたった推測を口にした。
「儲からない場合は戦争で奪って来いって考え方か、戦争が起こることで儲かるようなビジネスをやっている株主なのか…。いや、その両方って可能性もあるかな」
「戦争が起こることで儲かるって、どういうことよ?」
ソニアがその言葉に嫌悪感を抱きつつ、鷹峰を見る。
「この理屈が不謹慎なことくらい、俺だって理解してるさ。だが、事実として戦争で儲かるヤツってのはいるからな。戦争ってのは、言ってしまえば無駄遣いの極致みたいなもんだ。戦争で使用される物資を扱っている商売人なんかにとっちゃ、大儲けのチャンスだろ。オプタティオ前線の株主も、ひょっとするとそういった商売人なのかもな」
話を聞いていたロゼが不安そうに言った。
「では、これからも、業績が悪かったりすると、戦争を起こすんでしょうか?」
「可能性はあるかもしれない。ま、直近で起こす気があるかどうかは、こいつを解読すれば分かるかもな」
鷹峰はそう言って書類をパンパンと叩いた。
そして、どうやったら解読できるか、と考えていた鷹峰に1つのアイデアが浮かぶ。
「そういや、アヅチって魔族も人間もいる経済都市だったよな?」
「そうです。しかし、どういった関係が?」
話の脈絡が見えず、ロゼが困惑しつつ返答した。
「ちょうど明後日、昔アヅチで仕事をしていた人と約束があるんだ」
それを聞いて、ハイディは合点がいったようである。
「あ、カイエン銀行のジョルジュ支店長ですねー」
「その通り。前にもらった手紙に融資のお願いに伺うって書いてあってな。その日が明後日なんだ。ついでに解読ができないか聞いてみよう」
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