フェニックスファイナンス-2章3『拝金主義者はどこにでもいる』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立し、債務整理ビジネスに手を付け始めた。そして、そのビジネスにて訪れた客先で、シルビオという魔法使いの少年に出くわした。

2章3『拝金主義者はどこにでもいる』前編

ルヌギア歴 1685年 5月9日 ロッサキニテ・アローズバー『鳥の巣』

「うめぇー!」

腹をすかしていたシルビオは、新装開店した店舗の個室で、メインメニューとなったマルゲリータピザをむさぼり食っていた。あまりの食べっぷりの良さに、鷹峰たち4人も呆気にとられる。

「あのくらいの子に、こうもバカ食いされると嬉しいもんだね」

と、女将さんは満足げである。

先日、魔王城(オプタティオ前線本社ビル)に突入した人間グループの1人、シルビオ=ボニージャ。彼はラマヒラール金山の魔法採掘技師であったソニアの母の遠縁にあたる。

シルビオやソニアの母の一族は、クレアツィオン連合内でも有名な魔法使いの家系であり、シルビオはその中でも傑出した魔法の才能を持つ神童として将来を嘱望されていた。しかし、性格・素行面に問題があり、7歳の頃に家出して放浪を始め、ここ数年はオプタティオ公国周辺でフラフラとしていた。

「で、このシルビオラがマヒラール金山の防護結界魔法を担当してたの。術式が複雑で、コイツ以外にまともに結界を起動できるヤツがいないのよね」

と、ソニアのシルビオ紹介談が一通り終わったタイミングで、シルビオの食糧補給も一段落した様子であった。シルビオは腹をさすりながらオレンジジュースを口にしてから、満足そうに椅子にもたれかかった。

「シルビオ君は、結界魔法の他にどんな魔法ができるんだ?」

鷹峰はこちらに来て初めて魔法使いという人種に接した。そのため、話を聞いてみたいという興味に駆られていた。

「シルビオでいいよ。魔法はそうだね、一通りなんでもできるけど、変化魔法が得意だね」

そう言いつつシルビオは、横の座席に置いていた魔法杖を手にとり、何やら念じ始めた。そして「あらよっ」と言った瞬間に、シルビオの周辺に霧が立ち込め、霧の内側の影が大きく上に伸びる。

「きゃあっ!」

「わーーー!」

「うおおっ!」

異変にロゼとハイディと鷹峰が悲鳴を上げるが、ソニアは片肘をテーブルについて顔をのせたまま落ち着いている。

霧の中から、1.8mくらいの狼の外見に近いモンスターが現れる。体毛は青みがかっており、発達した筋肉が勇壮さを際立たせている。

「これが、魔王デガドって奴の姿。さすがに原寸大は天井に当たっちゃうから、小さめに再現してみたよ」

シルビオは先日、魔王城で出会ったデガドの姿に変化したのだ。威圧感のある魔族で、牙や爪が鋭くて凶器のように映る。だが、その姿の魔族が親指を立ててポーズをとり、こちらにウインクをしてきたので、驚いていたロゼとハイディは安堵する。

一方で鷹峰は、カブトムシを初めて間近で見た男子小学生のように目を輝かせている。


「おおーー! それがこの辺の魔族を率いているデガドって奴の姿か!」

初めて目の前で披露された魔法と魔王の姿に、鷹峰は興奮を隠せない。

「なあなあ! これ、触ったらどうなるんだ?」

「視覚的なフェイクだから、ボクの実体より大きく見せてるところは何も感触がないよ。頭とか触ってみなよ」

「まじか!?」

鷹峰はデガドの姿を模したシルビオに近づき、自分の目線の高さにある首根っこから肩のあたりに触れようとする。だが、立体映像を邪魔するかのように手の周囲の景色が歪むだけで、手触りは全く無い。

「おお! すっげーー」

どっちが年下なのか分からないようなやり取りに、ソニアが眩暈を覚える。

「あんたにもそういう童心があったんだね……」

「それで、何の目的で魔王城になんか突入したんですかー? やっぱり魔王を倒すため?」

ハイディの質問に、シルビオは変化魔法を解除しつつ答える。

「うーん。ゲオルグ達はその気だったんじゃないかな」

その言葉を聞いて、ソニアが呆れた顔をして言った。

「どうせシルビオは、魔王城の魔法道具や、魔法書なんかをかっぱらう気だったんでしょ」

「うん。そうだよ」

全く悪びれる様子もなく、シルビオはそれを認めた。

「でも、魔王ってどんな顔してんだろって気になるじゃん。それで興味に負けて魔王の部屋まで行っちゃってさー。そしたら一緒に突入したゲオルグとエマって人が即ノックアウトで、お手上げ状態」

両手を上げてヤレヤレとポーズをとるシルビオにロゼが聞く。

「その状況で、どうやって抜け出してきたのですか?」

「それが良く分かんないんだなー。降参って言ったら、気絶してるゲオルグとエマを背負ってさっさと出て行けって言われて……。まだ死にたくないし、ここは魔王の言う通りにしといた方が無難かなと思って、2人を縄で引き摺りつつ城から脱出って感じ」

2章3中編に続く

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