今日から始める異世界M&A-2章3『拝金主義者はどこにでもいる』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は大儲けした金を活用するためにギルドを設立し、債務整理ビジネスに手を付け始めた。そして、そのビジネスにて訪れた客先で、シルビオという魔法使いの少年に出くわした。

2章3『拝金主義者はどこにでもいる』

ルヌギア歴 1685年 5月9日 ロッサキニテ・アローズバー『鳥の巣』

「うめぇー!」

腹をすかしていたシルビオは、新装開店した店舗の個室で、メインメニューとなったマルゲリータピザをむさぼり食っていた。あまりの食べっぷりの良さに、鷹峰たち4人も呆気にとられる。

「あのくらいの子に、こうもバカ食いされると嬉しいもんだね」

と、女将さんは満足げである。

先日、魔王城(オプタティオ前線本社ビル)に突入した人間グループの1人、シルビオ=ボニージャ。彼はラマヒラール金山の魔法採掘技師であったソニアの母の遠縁にあたる。

シルビオやソニアの母の一族は、連合内でも有名な魔法使いの家系であり、シルビオはその中でも傑出した魔法の才能を持つ神童として将来を嘱望されていた。しかし、性格・素行面に問題があり、7歳の頃に家出して放浪を始め、ここ数年はオプタティオ公国周辺でフラフラとしていた。

「で、このシルビオラがマヒラール金山の防護結界魔法を担当してたの。術式が複雑で、コイツ以外にまともに結界を起動できるヤツがいないのよね」

と、ソニアのシルビオ紹介談が一通り終わったタイミングで、シルビオの食糧補給も一段落した様子であった。シルビオは腹をさすりながらオレンジジュースを口にしてから、満足そうに椅子にもたれかかった。

「シルビオ君は、結界魔法の他にどんな魔法ができるんだ?」

鷹峰はこちらに来て初めて魔法使いという人種に接した。そのため、話を聞いてみたいという興味に駆られていた。

「シルビオでいいよ。魔法はそうだね、一通りなんでもできるけど、変化魔法が得意だね」

そう言いつつシルビオは、横の座席に置いていた魔法杖を手にとり、何やら念じ始めた。そして「あらよっ」と言った瞬間に、シルビオの周辺に霧が立ち込め、霧の内側の影が大きく上に伸びる。

「きゃあっ!」

「わーーー!」

「うおおっ!」

異変にロゼとハイディと鷹峰が悲鳴を上げるが、ソニアは片肘をテーブルについて顔をのせたまま落ち着いている。

霧の中から、1.8mくらいの狼の外見に近いモンスターが現れる。体毛は青みがかっており、発達した筋肉が勇壮さを際立たせている。

「これが、魔王デガドって奴の姿。さすがに原寸大は天井に当たっちゃうから、小さめに再現してみたよ」

シルビオは先日、魔王城で出会ったデガドの姿に変化したのだ。

外見自体は威圧感のあるモンスターであるが、ニコっと可愛く笑ってウインクしたため、驚いていたロゼとハイディは安堵する。

一方で鷹峰は、カブトムシを初めて間近で見た男子小学生のように目を輝かせている。

「おおーー! それがこの辺の魔族を率いているデガドって奴の姿か!」

初めて目の前で披露された魔法と魔王の姿に、鷹峰は興奮を隠せない。

「なあなあ! これ、触ったらどうなるんだ?」

「視覚的なフェイクだから、ボクの実体より大きく見せてるところは何も感触がないよ。頭とか触ってみなよ」

「まじか!?」

鷹峰はデガドの姿を模したシルビオに近づき、自分の目線の高さにある首根っこから肩のあたりに触れようとする。だが、立体映像を邪魔するかのように手の周囲の景色が歪むだけで、手触りは全く無い。

「おお! すっげーー」

どっちが年下なのか分からないようなやり取りに、ソニアが眩暈を覚える。

「あんたにもそういう童心があったんだね……」

「それで、何の目的で魔王城になんか突入したんですかー? やっぱり魔王を倒すため?」

ハイディの質問に、シルビオは変化魔法を解除しつつ答える。

「うーん。ゲオルグ達はその気だったんじゃないかな」

その言葉を聞いて、ソニアが呆れた顔をして言った。

「どうせシルビオは、魔王城の魔法道具や、魔法書なんかをかっぱらう気だったんでしょ」

「うん。そうだよ」

全く悪びれる様子もなく、シルビオはそれを認めた。

「でも、魔王ってどんな顔してんだろって気になるじゃん。それで興味に負けて魔王の部屋まで行っちゃってさー。そしたら一緒に突入したゲオルグとエマって人が即ノックアウトで、お手上げ状態」

両手を上げてヤレヤレとポーズをとるシルビオにロゼが聞く。

「その状況で、どうやって抜け出してきたの?」

「それが良く分かんないんだなー。降参って言ったら、気絶してるゲオルグとエマを背負ってさっさと出て行けって言われて……。まだ死にたくないし、ここは魔王の言う通りにしといた方が無難かなと思って、2人を縄で引き摺りつつ城から脱出って感じ」

ロゼが重ねて聞く。

「で、その2人はどうしたの?」

「魔王城から見えなくなったあたりで置いてきた。ボクの力で大人2人を背負ってここまで戻ってくるなんて到底無理。一応、簡易な防護結界は張っておいたから、そっち系の魔法に詳しい魔族に出くわさない限り、見つかって食われることは無いと思うよ」

「気絶したまま息絶えた場合は残念でした。ってか」と鷹峰は心の中でツッコミを入れた。

「なんでゲオルグなんて馬鹿に付き合ったのよ? あいつが無能なのは有名でしょ?」

ソニアが評したように、ゲオルグはある意味で有名人であった。自称千年に1人の英雄にして伝説の勇者、自称価値観と歴史に変革を促すイノベーター、自称救世主にして創世神の末裔……、と確認不可能な称号を並べる能だけは一流と名の知れた剣士である。

「まさか、あそこまで弱いとはさすがに思わないじゃん。他にも3人居たし。あの程度の実力って知ってたら、さっさと財宝収集してオサラバしてたっての」

そう言いつつ、シルビオは懐からくちゃくちゃになった数枚の紙を取り出して、テーブルの上に投げ捨てるように置いた。

「ってことで、戦果はなんだかよく分からないこの紙だけ。ゲオルグが斬りかかった時に、目くらましにデガドがばら撒いた書類で、ドサクサに紛れて数枚拾ってきたんだけど、数字ばっかでよく分かんないし。ホント無駄骨だったよ」

「ふーん」

鷹峰はそう言いつつ紙のシワを伸ばして内容を確認した。

瞬間、鷹峰の目つきが険しくなる。

「こいつは……、決算書の一部じゃねぇか?」

そう言って鷹峰はハイディに書類を向ける。ハイディがそれを覗き込む。

「うーん。魔族文字だと思うんですけど、数字以外の文字は分からないのでなんともですねー。足し引きしてる感じはあるのでー、決算書と言われれば、それっぽいのは確かですがー」

数字の横に黒い三角形、つまり鷹峰のいた世界では『マイナス』を意味する記号がならんでいる。直感にすぎないが、あまり経営状態が良くないのかもしれない。

「シルビオ、その魔王城ってどうだった? なんて言うか、景気良さそうだったとか…」

鷹峰の突飛な質問に、シルビオは失笑する。

「ボクに魔族の景気を聞かれても分かんないよ」

ただし、シルビオは思い出したように付言した。

「でも、そういや、デガドが株主について文句言ってたよ。『糞株主どもが、経営状態が悪くなると過激な手段に出ろと言ってくる』とかなんとか」

「なによそれ。どういう意味?」

ソニアがシルビオに突っかかる

「知らないよ。一緒に魔王城に踏み込んだエマって姉ちゃんが、ラマヒラール金山を奪ったことを咎めた時、デガドが返答でそう言ったのを聞いただけ」

鷹峰は天井を見るように少し考えてから、思いあたった推測を口にした。

「儲からない場合は戦争で奪って来いって考え方か、戦争が起こることで儲かるようなビジネスをやっている株主なのか…。いや、その両方って可能性もあるかな」

「戦争が起こることで儲かるって、どういうことよ?」

ソニアがその言葉に嫌悪感を抱きつつ、鷹峰を見る。

「この理屈が不謹慎なことくらい、俺だって理解してるさ。だが、事実として戦争で儲かるヤツってのはいるからな。戦争ってのは、言ってしまえば無駄遣いの極致みたいなもんだ。戦争で使用される物資を扱っている商売人なんかにとっちゃ、大儲けのチャンスだろ。オプタティオ前線の株主も、ひょっとするとそういった商売人なのかもな」

話を聞いていたロゼが不安そうに言った。

「じゃあ、これからも、業績が悪かったりすると、戦争を起こすんでしょうか?」

「可能性はあるかもしれない。ま、直近で起こす気があるかどうかは、こいつを解読すれば分かるかもな」

鷹峰はそう言って書類をパンパンと叩いた。

そして、どうやったら解読できるか、と考えていた鷹峰に1つのアイデアが浮かぶ。

「そういや、アヅチって魔族も人間もいる経済都市だったよな?」

「え、そうだけど、それが何か関係あるの?」

話の脈絡が見えず、ロゼが困惑しつつ返答した。

「ちょうど明後日、昔アヅチで仕事をしていた人と約束があるんだ」

それを聞いて、ハイディは合点がいったようである。

「あ、カイエン銀行のジョルジュ支店長ですねー」

「その通り。前にもらった手紙に融資のお願いに伺うってあってな。その日が明後日なんだ。ついでに解読ができないか聞いてみよう」


ルヌギア歴 1685年 5月11日 ロッサキニテ・フェニックスファイナンス事務所

「いやー、綺麗なオフィスですね。バーの方も評判がいいようで、支店の女性職員の話題になっていましたよ。よく2週間の突貫工事であんな立派な石窯が作れましたねぇ」

事務所を訪れたジョルジュは感心したように言った。普段よりフランクな印象である。出先ということもあって、部下の職員たちの目を気にしなくてよく、気楽なのかもしれない。

「石窯は、パルテノの常連客の1人が『漢の餞別がこれだ…』って泣きながら泊まり込みで作ってくれたそうですよ」

「ははは、いいお客さんに恵まれていらっしゃる」

2人で少し笑ってから、応接ソファに座って話し始めた。

「さて、今日は融資のお願いと、お手紙をいただいていましたが」

「ええ。私も銀行員の端くれですから、融資のノルマというのがありましてね。ただ、こういう経済状況ですから、なかなかこれといったギルドや人がおらず、鷹峰さんにお願いできないかと」

そう言って、ジョルジュは銀行融資の条件などを話始めた。それによると、利子率は年率約9%で、事業によって担保設定は柔軟に対応してくれるらしい。今後攻略しようとしているバルザー金庫のやっている悪徳高利貸しと比べると、雲泥の条件差であった。

「ジョルジュさん、融資はかなり前向きに受け入れたいと思います。ただ、お受けするついでと言ってはなんですが、解読していただきたい書類がありまして」

鷹峰はそう言って、件の文書をテーブルの上に出した。

「ん? アヅチ書式の決算書ですね」

やはりそうなのか。

「ひょんなことから入手したんですが、読めますか?」

「ええ。それを読むのが仕事でしたからね。拝見しましょう」

そう言いつつ、書類を手元によせてチェックを始める。20秒ほど沈黙が流れたあと、ジョルジュが言った。

「よくこんな資料を入手されましたね……。これ、貰っていきたいくらいです」

「内容を説明いただければ構いませんよ」

ジョルジュに見せている段階で、その程度の覚悟は当然している。

「これは、株式会社オプタティオ前線の昨年度の決算データです。魔族企業は3月末が年度の区切りなので、今くらいに決算がまとまって5月下旬頃が決算発表シーズンとなるのです。ですから、おそらくこの書類は内部の取りまとめ用の資料でしょうね」

シルビオはデガドが目くらまし替わりにばら撒いた書類だと言っていた。非常時の戦闘に際して、内部書類を活用した結果、情報漏洩を招いてしまったのだろう。

「で、どうですか? 経営状態は?」

「うーむ。一見黒字には見えるが、台所事情は厳しいっていうパターンですな」

そう言って、ジョルジュはいくつかの項目を指さしながら、鷹峰に説明を始めた。要約すると、金山の取得によって表面的には黒字化しているが、現金がそれに追いついておらず、借金も増加しているということだった。

「ちなみに、オプタティオ前線の株主ってジョルジュさんはご存知ですか?」

ジョルジュは書類から顔を上げて答える。

「知りません。と普段なら言うのですが、オプタティオへの転勤が決まってから、その辺の情報は頭に入れたので実は知っています。この資料を本当にいただけるなら…」

「どうぞ、お納めください」

ジョルジュはニッコリ笑って株主に関する情報を明かした。

「有力大株主はエフィアルテス、アーバドという魔族です。エフィアルテスは魔界きっての巨大製薬会社のオーナー、アーバドは空運・郵便事業を営んでいる一族の者ですな。持ち株比率は昨年末時点で、2者あわせて38%くらいです」

いかにも戦争で儲かりそうな事業だ。

「その2者ってどんな魔族なんですか? 好戦的なヤツですか?」

「好戦的と言うか、分かり易い拝金魔族ですよ。『株式配当を上げられないなら、オプタティオ前線が派手に戦争を起こして、金山なり物資なり人間から奪ってでも配当を作れ』なんて無茶な圧力をかけるタイプです」

「ただ、それは表向きの大義名分であって、本音は『本業で儲けよう』という腹積もりだと?」

ジョルジュは大きく頷いてから言った。

「おっしゃる通りです。エフィアルテスなんて、『負傷した魔族が、自社の薬を使うだけ使ってくれた上で死ねば良い。そうすればオプタティオ前線のリストラにもなり、経営体質が改善して配当も上げられるだろう』とすら考えていそうです」

倫理観の無い魔族がカネの亡者になるとそうなるのだろう。

「その2者は、この決算や配当で満足しますかね?」

ジョルジュはその問を一笑に伏した。

「しないでしょうね。去年の金山の一件で儲かったであろう利益を考えると、配当の数倍どころではないハズです」

「と言うことは、今年も甘い汁を吸うために、一戦起こせと株主主導で働きかけると?」

ジョルジュは目線を上げて、幾分神妙な表情を浮かべつつ言った。

「十分にありえる話ですね。金山の件については、『人間からの奪還だ!』なんだとアヅチでも政治工作をしていましたが、また何らかの大義名分を作り上げて、どこか違う場所を襲うという可能性は高いです」

どうやら一大事のようである。ただ、商機とも言える。戦争に際して値の上がりそうな物資に投機するのも良いかもしれない。分かり易いのは燃料だろうか。

そんな策略が頭を巡り始めていた鷹峰に、ジョルジュは思い出したように言った。

「あと、蛇足かもしれませんが、念のために言っておきたいことが1つあります。アヅチ支店の同僚から聞いた話によると、ここ最近第3位株主が変わって、『ブライ』という投資ファンドになったらしいのです。この『ブライ』の代表はレーナという人間の女なのですが……」

ジョルジュは少し躊躇しつつ、絞り出すように言った。

「彼女は、人の形をしたバケモノです」

~~続く~~

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