フェニックスファイナンス-2章2『フェニックスファイナンス』後編
2章2『フェニックスファイナンス』後編
鷹峰達が質問し、イゴールの口から語られた内容は、バルザー金庫からの凶悪な取り立てに晒されている他ギルドと似通った内容であった。
まず、これらのギルドが元々借金をしていたのは、地元地銀のオプタ銀行である。しかし業績の悪化から返済が滞り、延滞金を課せられてさらに借金額が膨れ上がり、お手上げ状態になったあたりで、最後通告となる差し押さえ予告がオプタ銀行から来る。
差し押さえを回避するために借り手ギルドは奔走するが、返済遅延を起こしているようなギルドに助け舟を出すような所は少なく、打つ手無しの状況に追い込まれる。そんな時、タイミング良くバルザー金庫の人間が現れる。バルザー金庫はオプタ銀の借金全額分の融資をギルドに行い、返済に充てさせて実質的な借金の借り換えをさせる(貸主がオプタ銀からバルザー金庫になる)。
そして、自転車操業ながらオプタ銀の借金を返済し、差し押さえを回避して安堵していたところに、バルザー金庫からの苛烈な取り立てが始まる。
という一連の流れである。
「ありがとうございます。状況は分かりました」
「いえいえ。それで、どうですか? 軽くはできそうですか?」
鷹峰がロゼに目配せしてから言った。
「ええ。詳しくは当方の法律顧問である準弁護士のロゼから説明いたします」
鷹峰の紹介を受けて、ロゼは軽く会釈してから身を乗り出して説明を始めた。
「実際に提案する手法ですが、大まかに言ってしまえば次の2本立てとなります。1つは、バルザー金庫へすでに返済した金額について、法定利子を超えている分の過払い返還請求です」
一息入れてイゴールの表情を見る。興味深く聞いている様子を確認しロゼは続けた。
「ご存知かもしれませんが、クレアツィオン連合では、金融業者(銀行や中小貸金ギルドなど)が融資を行う際の利子率は年率21%が上限です。バルザー金庫の利子率は年率21%を超えている案件がほとんどですので、我々としては裁判にて過払い分を返還させることが可能かと考えております」
「なるほど。確かにウチも21%どころの率ではないですな」
イゴールが頷いているのを見て、ロゼはもう1つの手法に言及する。
「もう1つは、金品の強奪、器物損壊、傷害、脅迫的な取立などに対する損害賠償です。こちらについては肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料と、物的損害に対する弁償を要求して金銭を得ようと考えています」
ここで、イゴールが一つの疑問を呈した。
「確かに、バルザー金庫のやり方が法律上問題アリなのは間違いないでしょう。しかし、法廷闘争に持ち込む場合、裁判費用の負担の方が大きくないですかな? 裁判に勝利して、実質的に借金の圧縮に成功したとしても、トータルで見てプラスになるとは思えないのですが……」
それを聞いて鷹峰は白い歯を見せてニンマリとする。
「さすがに鋭い。その通りです。ロッサ金属鉱山さん単独で法廷に持ち込んで、裁判で勝てたとしても、コストに見合った見返りは期待できないでしょう」
現在、クレアツィオン連合内では裁判制度の整備が進んでいるが、裁く側も弁護する側もマンパワーが不足している。そのため、裁判費用も高くつく傾向がある。
ここで鷹峰はイゴールの目を見据えつつ、真剣な表情で語り始めた。
「しかし、同じような状況でお悩みのギルドさん達を1つにまとめ、1件の裁判にまとめて法廷勝負に持ち込めばどうでしょうか? 1件では証拠十分とは言えず、勝ったとしても微妙な金額しか手に入らないでしょうが、それが20件30件と集団になればどうなるか。やってみる価値はあると思いませんか?」
バルザー金庫は「裁判で勝ったとしても、裁判費用の負担が大きいため、借りている側は裁判に持ち込むことは無い」という確信があるからこそ、強引かつ暴力的な取立を実行できている。
鷹峰達はその思惑の裏をつき、被害者達を組織化して1件の裁判の原告団(訴える側の集団)にすることで費用を分担し、さらに請求総額を大きくすることを考えたのだ。そうやって、バルザー金庫の「借りている側が裁判しても儲からない」という想定を覆そうとしているのである。
ここで、ハイディが人差し指を立てて得意げに言った。
「要するにー、被害者皆で、悪い奴に一斉カウンターをお見舞いするってことですねー」
イゴールはうんうんと頷いたが、幾分心配顔である。
「なるほど、話は理解できました。しかし、そのようなことが果たして可能なのですか?」
「その辺は当ギルドの代表とロゼちゃんにお任せくださいー。それに、やらなければ、潰れるのを待つだけなんじゃないですかー?」
物騒な表現であるが、同時に真理でもあるハイディの言葉を聞き、イゴールは毒気を抜かれた表情でつぶやいた。
「確かに」
鷹峰達の話が一段落し、詳細については今後情報を集約し、詰めていく事を両者で確認して、この日はお開きとなった。
「被害金額の算定とか、状況の聞き取りのために、また別途お邪魔させていただきますー」
ハイディがそう付言したのを確認し、
「今後とも御協力をよろしくお願いします」
と立ち上がって軽く一礼した鷹峰に対し、イゴールが深々と頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそお願いいたします。地獄にスーベとは、まさにこの事ですよ」
鷹峰は「地獄にスーベ? スーベってのはこっちの仏かなにかか?」と疑問が湧いたが、あとで仲間に聞けばよいと判断し、入り口に向かって歩きはじめる。
そして、先頭を行くロゼが入り口のドアに手をかけようとした時であった。
その機先を制するかのようにドアが開き、小さい影が中に倒れ込むように入って来た。
「お、おっちゃん……一晩泊めてぇ……」
全身砂汚れの衣服に身を包んだ、小学校高学年くらいに見える少年であった。床にうつ伏せになりつつ、首だけ上げて鷹峰達を見て、顔色を曇らせる。
「ん? どちらさん? ひょっとして借金取立の修羅場に来ちゃった系?」
最後尾を歩いていたソニアがひょっこり顔を出して、驚きの声を上げた。
「シルビオ!?」
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