フェニックスファイナンス-2章2『フェニックスファイナンス』中編
2章2『フェニックスファイナンス』中編
ルヌギア歴 1685年 5月9日 ロッサキニテ・ロッサ金属鉱山ギルド
先述の通り、ロッサキニテは景気の良い街である。ただし、そんな街にあっても金融ブラックリストに載ってしまうような個人・ギルドは存在しており、鷹峰達がこの日訪れたロッサ金属鉱山ギルドもその中の一つであった。
ソニアに案内され、ロッサキニテ西区の町役場から徒歩5分という優良立地のギルド事務所に向かうと、周囲から如実に浮いた、薄汚れたが建物が視界に飛び込んできた。
「うわぁ、ひどいですねー」
とハイディがしかめ面を浮かべる。落書きされた壁、撒き散らされたゴミなどが目に入る。
入り口に回ると、ドアには誰かが乱暴に蹴とばしたと思われる足跡がいくつも残っており、さらには『金返せ泥棒!』『ここは借金踏み倒しギルドです』『守銭奴ギルド』などと書かれた取立業者による嫌がらせのチラシが何枚も貼りつけられている。
「ここもかなり酷い状態だな。やり口も他と似ている。人は残ってるかなぁ」
鷹峰達は2日前から、ロッサキニテでブラックリストに掲載されているギルドの事務所に訪問を始めており、似たような酷い状況に陥っているギルドを4つほど既に見ていた。
注目すべきは、いずれのギルドにも共通して、バルザー金庫という金融業者が貸し出しをしていたということである。
借金を滞納した相手に対し、強盗・器物損壊は日常茶飯事、脅迫状・中傷ビラを定期的に大量投下し、借り主に危害を加えることすら躊躇しない、という悪質な金融業者である。
「ラマヒラール金山の所有権を持ってるのがこのロッサ金属鉱山よ。ここは2階にギルドオーナーの住居があるし、そこのゴミも比較的新しいみたいだから居るんじゃないかなぁ」
ソニアはそう言いつつ、幾分悔しそうな表情を浮かべた。ソニア達が金山を守りきり、現在も正常に採掘ができているならば、こんな状況にはなっていないだろうから、責任を感じるのも無理はない。
「すいませんね。お客様にお出しするお茶すら満足に買えませんで……」
中に入った鷹峰達を出迎え、会議室まで案内して、開口一番にそうこぼしたのはロッサ金属鉱山のギルドオーナーであるイゴール=マダリアガ当人であった。髭と髪の毛が伸びっ放しで、顔色も悪く、痩せこけて頬骨が浮き上がっている。
「お気になさらず」と鷹峰が言おうとするのを遮って、ソニアが問いかけた。
「おっちゃん、体大丈夫かい? あと、奥さんとジェイクの坊主は?」
「俺の方は……、ま、見ての通りだよ。嫁とは離婚して、子供と一緒に実家の方に帰って貰った。この有様じゃ、とても子供を育てられる状況じゃないからな」
「そっか……」
そう言いつつ俯くソニアに、イゴールは優しい口調で語りかけた。
「そう暗くなりなさんな。お前さんが元気そうで良かったよ。アマラオ(前金山防衛隊の隊長・ソニアの元上司)が居なくなったと思ったら、お前さんも行方くらましやがって、心配してたんだぞ」
「ごめん……。なんか居辛くなっちゃってさ」
2人の会話に割って入るタイミングが掴めず、重苦しい空気に流されるだけのその他3人の様子を見て、イゴールは自分から話を切り出した。
「さて、今日はどういった用件ですかね? 昔馴染みに挨拶ってのが目的じゃないでしょう」
そう言ってイゴールは視線を鷹峰に向けた。鷹峰がそれを受けて、話し始める。
「挨拶が遅れました。私は鷹峰亨、こっちがハイディ、それからロゼと申します」
鷹峰の紹介に合わせて2人が軽く会釈する。
「私どもはこの度、ロッサキニテで経営コンサルティングのギルドを立ち上げまして、本日はそのご挨拶に伺いました」
そう言って鷹峰は名刺を取り出して両手で持ち、イゴールの前に差し出した。
「ほう……。フェニックスファイナンスさんね」
名刺を受け取って一瞥したのち、イゴールは再度視線を鷹峰に移す。
「経営に行き詰っているのは間違いありませんし、何か解決策を頂けるならありがたいお話なんですが、見ての通りの惨状で、お支払いできる顧問料などありはしませんよ」
その言葉を待っていました、とばかりに鷹峰の表情がやわらぐ。
「確かに顧問料はいただきたい所存ですが、ウチは実績主義を掲げて行こうと思っていまして」
「はぁ、実績主義、と言いますと?」
「こちらが経営アドバイスを差し上げて、それによって実際に利益が出た場合に、利益の何割かを頂くという料金体系をご用意しています。ですから、こちらから経営アドバイスを提案させて頂く段階では全く料金は発生しませんし、その提案に乗って頂くも却下するも、そちらのご判断にお任せいたします」
「ふむ……」
イゴールは右手で顎鬚をさわりつつ暫し黙考してから答えた。
「なにか目算がおありのようですね」
「ええ。その通りです」
ここで鷹峰は勿体をつけて、すこし間を置いてからゆっくりと言った。
「イゴールさん、我々に借金の整理をお任せいただけませんか? 借金の額を減らす事に成功し、いくらか自由になる現金が手に入った場合、その一部を成功報酬として支払って頂く。そういうアドバイザリー契約はどうでしょうか?」
鷹峰が目をつけたのは、いわゆる債務整理ビジネスである。
借金で首が回らなくなっている個人や法人に対し、貸主との返済交渉、過払い金の返還請求、多重債務(複数の金融機関や個人から借金している状態)を一本化してスリム化、最悪の場合は破産手続きなど、借金を軽くするための専門的なアドバイスをしたり、場合によっては手続きの代行までも請け負ったりというビジネスである。
「借金が減らせるのであれば、無論お願いしたいですな」
イゴールが興味を持ったのを見て、鷹峰がすかさず切り込んだ。
「そのために、少し状況についてご質問させて貰ってもよいでしょうか? 無論、料金は現段階では全く発生しませんのでご安心ください」
「ええ。構いませんよ。私に答えられる事ならなんなりと」
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