フェニックスファイナンス-2章2『フェニックスファイナンス』前編
前回までのあらすじ
ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、カジノ不動産を利用したビジネスで大金を稼ぐことに成功した。そして、それを通して知り合った仲間とギルドを設立し、新たな街ロッサキニテで再スタートを切る事となった。
2章2『フェニックスファイナンス』前編
ルヌギア歴 1685年 5月6日 ロッサキニテ・中央通り
ロッサキニテはオプタティオ第2の規模を誇る街である。アテスの200km南、半島中央の西海岸沿いに位置しており、オプタティオ半島周辺の海上輸送を司る海港都市となっている。
とくに港湾設備が発達しており、経済的にもかなり潤っている都市である。アテスに比べて景気も良い。船を使ってクレアツィオン連合内に広く商売を展開するようなギルドも多い。
加えて、魔族勢力圏が近いため、最近は魔族と取引する闇商人が増加している。魔族側からの産品をロッサキニテ港経由で、クレアツィオン連合内に出荷することで利益を上げるケースも増えているのだ。
そんなロッサキニテのオフィス街の一角に、この日新しい飲食店(兼ギルド事務所)の看板が掲げられた。
『アローズバー 鳥の巣』である。
運営しているギルドは『フェニックスファイナンス』と言う。
「フェニックスファイナンスね……、大きく出たもんだよ」
鷹峰は少々冷や汗をかきつつ、看板に掲げた店名とギルド名を眺めていた。伝説の不死鳥をギルド名に掲げるのは良いが、名前負けするのではないかという一抹の不安がある。
「いいじゃない。死にかけのギルドとか個人がサーっと生き返って、それに連れてお金がドーンと増えて昇っていく感じで」
嬉しげに看板を見上げるソニアが言った。鷹峰はギルド名にこだわりは無く、ソニアに命名を任せた結果がこれであった。
「お金が燃える翼とならなければいいが……」と鷹峰は思ったが、口に出すのはやめておいた。
「おっ、良い感じじゃない」
ちょうど看板の設置が終わったあたりで、ロゼが店舗兼事務所に到着した。
元々根無し草同然であった鷹峰とソニア、ギルドが実質的に潰れていたハイディと違い、ロゼはキッチリとした弁護士ギルドに所属していた。そのため、辞めると決めてからも各種の手続きや、業務引き継ぎが必要であり、遅れての合流となったのだ。
「頼まれていた書類を忘れないうちに渡しておくわね。ちなみに、情報料は受け取ってくれなかったわよ。そのかわり、カイエン銀行の客に手を出す時と、資金の必要な儲け話がある時は必ず相談してほしいって言ってたわね。あと、何か伝えたいことがあったみたいで、手紙も同封してるって」
ロゼはそう言って、引き摺って来た大きな鞄から封筒を2つ取り出し、鷹峰にさしだした。1つはA3サイズで目当ての書類、もう1つはつき返されたお金の封筒である。
「はは。さすがにあの支店長は簡単に貸しを作らせてくれないな」
鷹峰はそれを受け取ってからA3の方の封を破き、中身をチラリと確認した。
その様子に興味津々といった雰囲気でソニアが聞いた。
「なにそれ?」
鷹峰は封筒から書類の束を取り出して、ソニアの眼前に提示しつつ答えた。
「いわゆるブラックリストってヤツだ。これから始める仕事に必要な名簿」
ブラックリストとは、一般的には警戒を要する人物や団体の一覧を意味する言葉である。金融業界においては、借金の滞納や踏み倒し、破産の前歴を持つ個人や団体名が網羅されているリストとなる。
10日ほど前に、鷹峰は引越しの挨拶がてらカイエン銀行のジョルジュを訪ねて、ギルド新設と酒場を新店開業する旨を伝え、それに加えてブラックリストをもらえないかと依頼していた。
その際、ジョルジュから提供の承諾は得られたのだが、リストをまとめるのに時間がかかるということだったため、後から合流するロゼに受け取りを頼んでいたのだ。
そして、ロゼが受け取る際に情報料としてお金を渡そうとしたのだが、そちらの方は断られてしまったようである。はした金の情報料を受け取って借りを作るより、貸しにして『鷹峰の進めるビジネスの情報提供を要求』というところがジョルジュらしい。情報の重要さをよく分かっている。
鷹峰は取り出したリストを軽く振りながら言った。
「明日からは、このリストに載っている方々に押しかけ営業だ」
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