フェニックスファイナンス-2章1『魔王の間は15帖』中編
2章1『魔王の間は15帖』中編
「なっ!? 被害は?」
「建物の損壊は今のところ軽微。門番に被害者は出ておりませんが、砦内で衛兵のデモニック族が数人負傷しています。デモニック族以外がほとんど攻撃を受けていない点から、変化魔法や幻覚魔法を使って攪乱しつつ、侵入してきているものと思われます」
魔族の中でデモニック族が抜きん出て魔法の扱いが上手いのは周知の事実である。そのため、魔法を用いた攪乱合戦になると、「魔法を使えそうな奴から叩く」という原理で、真っ先に狙われるのはデモニック族である。
「ここは危険ですので、離れに移動を!」
「馬鹿者! トップが尻尾を巻いて逃げてどうする!」
避難をすすめるアミスタをデガドが一喝する。
「しかし、相手の手口を看破せねばどうにも……」
動転しているアミスタに向かってデガドが指示を飛ばした。
「同士討ちを防止するため、一切の攻撃行為を禁止し、防御に徹させよ。そしてワシの部屋への通路を空けて、ここにおびき寄せるのじゃ。敵はワシの首を取りに来るはずじゃからな」
こういう土壇場では、肝の座ったところを見せるのがデガドの真骨頂である。
「そんな、デガド様をみすみす危険にさらすわけには……」
「それが一番効率的じゃ。たまにはワシの強さを人間どもに見せつけるのも必要じゃしな」
「確かにそうですが」
しぶるアミスタにデガドが一喝した。
「はようせい! これ以上被害を広げてはならんぞ! 修繕費も医療費も馬鹿にならん!」
「はっ、はいっ!」
アミスタはさらに鱗を赤くしてよろけながら部屋から走り出て行った。
ほどなく、アミスタの声が砦内に響き渡った。魔法による館内放送である。
「全員戦闘を停止せよ。侵入者は変化魔法もしくは幻覚魔法の類を行使している。同士討ちを避けるため、攻撃行為を禁止する。防御に徹せよ。攻撃行為を確認した場合は、即時に士官クラスに報告し、情報を上げよ」
その声を聞き、砦内が一斉に静まる。オプタティオ前線は経営難ではあるが、指揮命令系統はしっかりと機能しており、統率自体は取れているのだ。
「侵入者たちに告ぐ。もしこれ以上の戦果を望み、命が惜しくないのであれば、我が方の魔王、デガドが直々に相手をする。4階の魔王の間まで来るがよい」
砦に侵入してきたのは人間の20歳前後の若者5人であった。その内で、魔王の間に辿り着いたのは3人。リーダー格の男剣士ゲオルグ、女剣士エマ、そして変化魔法を担当していた男魔導師シルビオである。
「なっ……、ここが魔王の間だと?」
勢い勇んで扉を開け、魔王の間に足を踏み入れたものの、15帖程度のこざっぱりとした書斎のような光景を目にし、ゲオルグ達は困惑した。
「まったく、どんなイメージを持っているというのじゃ?」
デガドは椅子に座り、机に両肘をついて手を組み、呆れたような口調で語りかけた。
「禍々しい怪物の置物や、得体のしれぬ液体がドロドロと沸騰している壺などがあれば満足頂けるかのう。あるいは血の噴水などが良かろうか?」
ゲオルグが剣をデガドに向けつつ答える。
「ふざけた事を! 貴様が魔王デガドか!」
人間側の気迫を嘲笑うかのごとく、デガドは落ち着いて答える。
「魔王と言えば魔王じゃが、実際のところは、見ての通り肩身の狭い、ただの雇われ社長に過ぎんよ。自分の部屋の調度品すら満足に揃えられん貧乏社長じゃ。ふははは」
自虐的に笑うデガドに侵入者3名は言葉を失う。
「さて、目的はなんじゃ? と聞くのも馬鹿馬鹿しいか。だが、ワシの首など取ったところで無意味だと思うがのぅ。わしが死んでも後任の雇われ代表取締役魔王が本土から派遣されてくるだけじゃろうし、その後任がワシより武闘派である可能性も否定できんぞ」
そこまで聞いて、黙っていたエマが言い返す。
「あなたが穏健派だとでも言うの? ラマヒラール金山を強奪しておいて、よくもそんなことが言えたものね!」
この指摘ばかりは正鵠を射ていたため、デガドは答え辛そうに、自分の鬣(たてがみ)を撫でつつ、視線を横にそらしてから言った。
「金山の件は、株主の意向なのじゃ。ウチの糞株主どもは経営状況が悪くなると、すぐ過激な手段に出ろと命令しおる」
「なっ……?」
予想外の言い訳がましい魔王の態度に、ゲオルグ達は言葉を失う。
その様子をチラリと見て、デガドは一息入れてから言葉を繋いだ。
「ま、それはこちらの内部の問題と言われれば、返す言葉は無いかの。金山の件の正当性を敢えて言うなれば、300年前にあの金山を発見し、採鉱を始めたのは我々魔族で、それを強奪したのは人間側じゃ。ゆえに我々は金山を奪還したにすぎん。お主らが学校でどういう風に歴史を習ったかは知らんので、そちらの認識は違うかもしれんがの」
この主張に対しては、ゲオルグが脊椎反射で抗論する。
「魔族が所有権を主張するなど笑止千万。この大地は神々が人間に与えたものだ」
「ははは。今どきの若者にしては、珍しいぐらいのクレア教原理主義じゃな。骨董品じゃなあ」
「言いたい事はそれだけか?」
「与太話に付き合ってくれるなら、まだまだお願いしたいくらい……」
その時、デガドの言葉を遮るように、ダッと床を蹴る音が響く。
「覚悟っ!」
突如エマが加速し、剣を振り下ろすように切りかかった。
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