フェニックスファイナンス-2章1『魔王の間は15帖』前編

2020年3月21日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界のオプタティオ公国に転移した鷹峰亨は、カジノ不動産を利用したビジネスで大金を稼ぐことに成功した。そして、それを通して知り合った仲間とギルドを設立し、新たな街ロッサキニテで再スタートを切る事となった。
同じころ、オプタティオ公国の東側に位置する魔族勢力圏を統括する株式会社オプタティオ前線は経営危機に陥っていた。

2章1『魔王の間は15帖』前編

ルヌギア歴 1685年 5月6日 クライオリン・ソクノッス砦(魔族側)

オプタティオ近隣の魔族を統括する企業である『株式会社オプタティオ前線』の1684年度決算の最終的な集計が終わり、CEOであるデガドは一人魔王の間で、決算書類と睨めっこをしていた。

(株)オプタティオ前線 1684年度決算B/S 概略(通貨単位:エイ)

項目 金額 内容・概略
売上高 20億 オプタティオ前線の本業の売上
費用合計 ▲20億 売上に対して掛かった費用(人件費・材料費とか)
特別利益 15億 ラマヒラール金山奪取による売上(資産増加)
株式配当 ▲2億 2エイ×1億株
差し引き純利益 13億 B/S上は黒字

※株式配当:1株につき2エイ
※3月末の発行済み株式総数:1億株(株価40エイ)
※エイは魔族とアヅチで使用されている通貨で1エイ=約100フェン

見た目は黒字である。売上も純利益も総資産も、直近10年間で言えば最高値である。しかし、ここには数字のマジックがある。それは、ラマヒラール金山という巨大資産強奪がもたらした会計上の臨時収入である。

現在の魔族界隈においてラマヒラール金山の資産価値は約15億エイと評価されている。ラマヒラール金山は優良な金鉱山であり、その評価額は妥当どころか、若干低いと言っても過言ではない。

ここで注意したいのは、金山と言うのは巨大な不動産物件のようなもの。現代日本で言えば駅前一等地の巨大テナントビルのようなものである点だ。テナントビルがその所有権を売るか、あるいは部屋を貸し出すことで初めてキャッシュ(現金)を得ることができるのと同じく、金山もその所有権を売るか、採掘した金鉱石を売ることで初めてキャッシュを得られるのだ。

だが、金山などという値段の高いものを買おうとする存在などそうはいない。結局のところ、ラマヒラール金山は評価額自体は巨大な『固定資産』であるが、そこから『キャッシュ』を得るには時間と手間がかかるのだ。

(株)オプタティオ前線 キャッシュフロー報告書 概略

項目 キャッシュフロー 内容・概略
売上高 20億  
費用合計 ▲20億  
特別利益 0億 キャッシュ収入はゼロ
株式配当 ▲2億  
負債増減 ▲2億 負債が2億増加(総額は18億に)

実際、今期の純利益13億エイとは言っても、そこから金山取得による特別収入15億を差し引けば『実質的には2億の赤字』である。ちょうど株式配当で分配した2億エイ分がキャッシュ(現金)不足となり、負債が増加してしまった。とても金回りが良いと言えるような状態ではないのだ。

「この状況で配当額をさらに上げろなどと気が狂っておる……」
デガドは呆れつつ呟いた。

この実質的な現金不足状況において、「次の株式配当は1株あたり3エイ程度に上げろ」と株主から圧力がかかっている。デガドとしては「どうやって上げろと言うのか」といったところだ。

「はぁ……」

今日何度目になるか分からないため息をつきながら、書類を机に投げ出すように置いた時だった。

ガシャーン! という陶器の割れる音、そしてドタドタと激しい足音が下のフロアから響いてきた。

「おいおい。さっそく修繕費の発生か……」

デガドがそうボヤいて頭を抱えていると、

「デガド様っ!」

と側近のアミスタが顔を、否、体中のウロコを真っ赤にして書斎に駆け込んできた。マーマン(半魚人族)であるアミスタは、体温が上がるとその表皮である鱗が赤身を帯びるのだが、一族の標準からするとアミスタの変色度合いは極端である。「昂ぶると真っ赤になる。ありゃ魚じゃなくてカニだ。茹でガニだよ」と一部の部下からは陰口を叩かれている。

「どうした? 喧嘩か? それとも、エフィアルテス(大株主)が文句でもつけてきおったか?」

アミスタは息を整えつつ、答えた。

「あっ、はっ……、えー、確かにエフィアルテス様から連絡はありましたが」

「何か別のトラブルか?」

「はい! 人間の一味が砦内部に侵入した模様です! 現在2階中央廊下で交戦中です!」

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