フェニックスファイナンス-1章15『ふんぎり』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、カジノ不動産を利用したビジネスで大金を稼ぐことに成功した。しかし、分け前の分配を考えている時に、「税金」という思いもよらぬ敵の存在を知る。鷹峰はギルドを設立することで節税をしようと検討を始めたが、寝床を借りている酒場ごと、景気のいい土地に移転して新規開業するという話にすり替えられる。

1章15『ふんぎり』前編

ルヌギア歴 1685年 4月21日 アテス・酒場『パルテノ』

先日弁護士ギルドで話し合った鷹峰の新ギルド設立に関して、必要書類のフォーマットなどを揃えたロゼは、最終的な記入と細かい部分を詰めようと酒場『パルテノ』を訪れた。

本来は明日、鷹峰に弁護士ギルドの事務所に来てもらう約束だったのだが、今日は朝から上司のブルドドの機嫌が悪く、誰彼構わずに当たり散らしている状況だったため、「お客様に呼ばれている」という名目で抜け出してきたのである。

「こんにちはー」

パルテノに着いたロゼはそう言いながら店内に足を踏み入れた

「はーい。って、ロゼか」

という鷹峰の声が聞こえた。声の方を向くと、鷹峰がテーブルになにやらノートを広げて書きものをしている。数歩近づくと「クレア文字・練習帳」と書かれているのが見えた。どうやらこちらの文字の練習をしていた様子だ。頭の回る男が、4,5歳児用の教材に熱心に取り組んでいるギャップが面白くてつい吹き出す。

「なんだよ。しょうがねぇだろ、読み書きできないと話にならねぇんだから」

「すいません。ギャップがあって、ついつい笑ってしまいました」

ロゼはそう言いながら、彼の対面に座る。

「書類の準備ができました。ちょっと近くまで来る用事があったので、ついでに記入してもらおうと伺いました」

「ああ、助かるよ。じゃ、その話を片付けちまおう」

鷹峰はそう言って練習帳を畳んでテーブルの端に寄せつつ、眉間に皺を寄せて悩み顔になる。

「ただ、状況がちょっと変わったんだ。ややこしくなっていてな……」

鷹峰は、彼自身が頭の中を整理するかのように、ゆっくりと話し始めた。


「酒場ごとロッサキニテに移転って、正気ですか?」

「ああ、なんだか色々ややこしい話になったが、結果としてはそうだ」

鷹峰が言うには、女将さんがロッサキニテへの拠点移動に興味を持ってから、話がトントン拍子で進んでしまったとのことだ。「ピザとワインをつまみながら、弓の腕自慢達がアローズを競う『アローズバー』をやろう」という方向で、ハイディまで巻き込んで女性陣3人が盛り上がってしまったらしい。

「それで、3人は今どこに?」

その問いに鷹峰はため息交じりに答えた。

「ロッサキニテだ。新店兼ギルド事務所の物件を探すってことで、店を休みにして3人でロッサキニテに視察に行っちまったよ」

「何と言うか……、すごいですね」

驚きのあまり、「すごい」くらいの言葉しか出て来ない。

一瞬の沈黙が流れたが、鷹峰がフッと自嘲的に笑って話始める。

「ただ、メシの不安が無くなるし、俺のビジネスが閑古鳥って時は、酒場で下働きすればいいしな。悪くないと考えるようにした」

ロゼは唖然とさせられるばかりだった。ただ、「面白い人達だ」という好感もどこかにあった。理屈ではなく、自分の感情に対して正直に生きていることが羨ましいとも感じる。

「資金や税金という観点においても、お金のかかる先行投資を先に消化すると考えれば悪くないように思います。酒場があれば、鷹峰さんのビジネスで要人と密会するような場面で使えるかもしれませんし」

それを聞いた鷹峰がロゼに人差し指を向ける。

「その通り。それも利点としてはある。だから、個室を作れるような物件にしてくれとは頼んだんだ。それを3人が守ってくれるかどうかは神のみぞ知るってトコだがな」

さすがに、それくらいは守ってくれる人達であると思う。いや、思いたい。

ただ、このままでは延々と話が横に逸れていきそうだったため、ロゼは気をとりなおしてギルドの主業について聞いた。

「状況は分かりました。それでは、懸案になっていたギルドの主業なんですが、こちらは経営コンサルティング業に、飲食業、賭博アローズ業でよいのですか?」

「ああ。とりあえず、その3つで行こう。ちなみに、申請ってロッサキニテに移ってから向こうで出すのか?」

鷹峰の質問を受けて、ロゼは頭の中に申請手順を思い描く。どちらで申請するとしても、とくに手順は違わないはずである。それより、ロッサキニテで申請することによる「申請の遅れ」の方が気にかかる。

「アテスでもロッサキニテでも、どちらでも申請は可能です。ただ、鷹峰さんの現状を踏まえると、ギルド設立日は早ければ早いほど良いと考えられます。遅れれば遅れるほど、今回のカジノ売買による収入が、ギルドの収入として認められにくくなるからです」

鷹峰が若干身を乗り出すようにして聞く。

「つまり、申告時にギルドの収入じゃなくて、俺個人の収入だとみなされて、個人収入税の40%課税を食らうリスクが高まると?」

「はい。ですので、ひとまずアテスで早急にギルドだけは設立申請を済ませてしまい、設立後に、本拠をロッサキニテに移転申請するという流れがベストかと思います」

1章15後編に続く

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