今日から始める異世界M&A-1章14『景気よく新しく』

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、カジノ不動産を利用したビジネスで大金を稼ぐことに成功した。しかし、分け前の分配を考えている時に、「税金」という思いもよらぬ敵の存在を知る。鷹峰はギルドを設立することで節税をしようと検討を始めた。

1章14『景気よく新しく』

ルヌギア歴 1685年 4月19日 アテス・酒場『パルテノ』

酒場に戻った鷹峰とソニアは、昼間に話し合った内容を女将さんにも説明した。もちろん女将さんにも分け前を提案したのだが、

「そんな数千万フェンも貰えないわよ。私も『お願い権』でいいわね」

と一笑に伏されてしまった。

「そっちの方が怖いんですけどねぇ」

鷹峰はそうこぼしつつ、まかない飯の『残り物海鮮パエリア』を口に運ぶ。横からソニアがギルド設立の課題について聞いてきた。

「で、ロゼに言われたギルドの主業ってどうするの?」

オプタティオではギルド設立の申請をする際、申請書に「ギルドの主業(何を生業とするか)」を明記する必要があり、それを何にするかが懸案なのだ。

鷹峰は「残り物にしては海老がプリっとしている」などと感じながらパエリアを咀嚼しつつ、目線を中空に向けて考える。

自分がやってみたいのは、いわゆる『投資ファンド』というような事業である。お金を集めて、成長するビジネスに投資して回収する金融事業のことだ。

そもそも自分は、投資ファンドを扱った経済ドラマを見て、その主人公に憧れたがゆえに証券会社に入ったのだ。しかし、現実は思い通りには行かず、顧客回りをする毎日にやるせなさを感じていたところでこちらの世界に召喚された。

そして、こちらの世界で自由になる金が手に入り、夢が実現できるかもしれないという状況になっているのだ。やってみたいという思いは大いにある。

ただし、「今すぐに」というのは難しい。他人から金を預かるとなると色々と法律面の対応が必要そうだし、こちらのビジネスに関する知識が圧倒的に不足している現状、まともな投資ができるとは限らない。ひとまず自己資金のみで、幅広く経営コンサルティング事業あたりから始める方が良いような気がする。

あとは、ハイディがアローズ遊戯場をやりたいと言っているので、賭博運営くらいだろうか。ダーツバーみたいな店舗を持つとなると、飲食業も含まれるだろうか。などと頭に思い浮かぶ。

そして、実は、もう1つ鷹峰には気がかりがあった。

「主業もそうなんだが、どこでやるかってのも実は悩んでいる」

「それはどういうこと?」

「ソニアと女将さんには悪いが、正直アテスは景気が悪すぎてビジネスはやりにくい。ツケや不良債権の回収で街中を回ったが、景気のいい個人やギルドってのに会った試しがない。いくら景気が悪くても、不景気に適した商売で、上手く儲けるようなヤツが1人2人いてもいいもんだが……」

ソニアがそれに頷きながら苦笑する。

「それに該当するのは、あんたくらいよね」

鷹峰は肩をすくめて、「確かに」と言ってから続ける。

「あと、アテスはお城のお膝元ってことで、大きくビジネスを始めるとなるとビブラン大臣なんかとさらに衝突する可能性もある。もう1つ付け加えると、アテス市街地ってカイエン銀行がほぼ1強で縄張り化してるから、場合によっちゃカイエン銀行と対立する可能性もあるんだよな」

鷹峰が、それこそ「ハゲタカ投資ファンド」を地で行くビジネスを展開するのであれば、そんな対立など気にせずに、不景気で死にそうになった、金になりそうな獲物(ギルドや個人)に飛びつき、安く買い叩いて高く売るだけだと言える。

しかし、そこまで冷徹になれないのが鷹峰亨という男である。これ以上ビブラン大臣をいじめるのは気が引けるし、ジョルジュに対しては、「柔軟に決断できる金融マン」という好感を持っているゆえに、利害衝突はしたくない。加えて、せっかくのスカウトを断ったという引け目もある。


「不景気ってのは間違いないからねぇ。2人がツケ回収してくれたおかげで、先月今月はホクホクだけど、長期的に見るとウチの酒場もどこまで続けられるかって感はあるわね」

「この辺って、どこも景気は変わらないんですか?」

「どうだろうねぇ。ああ、そう言えばこの前、行商をやってるってお客さんが、南の方は割とマシだって言ってたわね。ロッサキニテ辺りはわりと好景気らしいわよ」

久々に新しい地名が出てきた。

「ロッサキニテ?」

その疑問に対しては、横に座っているソニアから返答があった。

「ロッサキニテは、アテスの南200㎞くらいにある海沿いの町よ。南北で言えばちょうど半島の真ん中くらい。私の昔いたラマヒラール金山に近くて、買い出しなんかでよく行っていたわ」

「街の規模的にはどうなんだ? 人は多いんだよな?」

ソニアは頭を掻きながら、うーんと唸ってから答える。

「街は十分にデカイよ。アテスより人の数自体はちょっと少ないけど、なんかこう、商売っ気のあるヤツが多いっていうか…」

説明に困っているソニアに、女将さんが助け舟を出す。

「港が発達してるのもあって、船を使って大きく商売しているようなギルドが集中しているって聞くわね。クレアツィオン連合内で手広く商売をしているようなギルドが多くて景気がいいらしいわ」

投資するにしても、経営コンサルティングで稼ぐにしても、そういう街の方が実りが多いようにも感じる。

「ソニアやハイディが構わないのなら、そっちでギルドを開くのもアリだな」

「そうねぇ。私もそっちでやる方が儲かりそうだしね」

うんうん、そうだろう。と思った鷹峰を違和感が襲う。声の出元が横のソニアではなく、正面のカウンター内で調理中の女将さんなのだ。

「……、私も?」

「え? 何か変なこと言った?」

クエスチョンマークを中空に浮かせながら、女将さんは首をかしげる。

「いや、女将さんもくるんですか?」

「何よ、自分達だけ景気いい街で再スタートして人生謳歌しようっていうの?」

「いやいや、そういう問題ではなくて……」

何か反論すべきなのだが、どこから話せばいいのか皆目見当がつかず、ソニアの方を向いて助けを求める。

「いいんじゃないの? 美味しい御飯が確保できるし、私も用心棒稼業を続けられるし」

確かにその理屈は一理ある。いや「一理しかない」と言うべきではないか。何か大事なことが間違いなく抜け落ちている。

「えーと、ロッサキニテって結構遠いんですよね? こっちの店はどうするんですか?」

「こっちはどうするって……」

ソニアと女将さんは「何を分かり切ったことを」といった表情で目を合わせた後、鷹峰に向かって同じ言葉を吐いた。

「「畳むしかないわね」」

「フゴッ、ゴフッ」

予想外の英断に、飲んでいたビールが鷹峰の気管に入り込む。

「ゴガッ……、ちょ、本気なんですか?」

女将さんは不平を言う小学生のような口調で答える。

「だって、設備的にガタが来てるのは隠しようもないしー、こんな店続けてても浮かぶ瀬はなさそうだしー。だったら『お願い権』でもなんでも使って新店開業! みたいな」

店の主に「こんな」と言われるとは哀れな酒場である。確かに柱やら床やらを見るに老朽化が隠せない状態なのは間違いないし、バランスが悪くて揺れるような椅子・テーブルがあるのも事実だが。

「だいたい、親から継いだ店だからって今までやってきたけど、ホントはもっとオシャレな感じのお店をやりたかったのよねー。石窯とか置いて、ピザとワインで攻めるようなお店が夢なの」

ああ、それはすごく美味しそうだなぁ。って想像している場合ではない。

「ええと、この店に思い入れとか、未練とか、そういうのは無いんですか?」

焦った鷹峰がそう聞くが、女将さんは涼しい顔で「うーん」と少し考えてから断言した。

「無いわね」

鷹峰と、店内の常連客がテーブルに頭を打ち付ける音が響いた。

~~続く~~

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