フェニックスファイナンス-1章14『景気よく新しく』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

ルヌギアという異世界に転移した鷹峰亨は、カジノ不動産を利用したビジネスで大金を稼ぐことに成功した。しかし、分け前の分配を考えている時に、「税金」という思いもよらぬ敵の存在を知る。鷹峰はギルドを設立することで節税をしようと検討を始めた。

1章14『景気よく新しく』前編

ルヌギア歴 1685年 4月19日 アテス・酒場『パルテノ』

酒場に戻った鷹峰とソニアは、昼間に話し合った内容を女将さんにも説明した。もちろん女将さんにも分け前を提案したのだが、

「そんな数千万フェンも貰えないわよ。私も『お願い』の権利を1つ貰っておくわ」

と一笑に伏されてしまった。

「そっちの方が怖いんですけどね」

鷹峰はそうこぼしつつ、まかない飯の『残り物海鮮パエリア』を口に運ぶ。横からソニアがギルド設立の課題について聞いてきた。

「で、ロゼに言われたギルドの主業ってどうするの?」

オプタティオではギルド設立の申請をする際、申請書に「ギルドの主業」を記入しないといけない。簡単に言えば「何事業をメインの稼ぎ口とするか」を明記する必要があり、それを何にするかが懸案なのだ。

鷹峰は「残り物にしては海老がプリっとしている」などと感じながらパエリアを咀嚼しつつ、目線を中空に向けて考える。

自分がやってみたいのは、いわゆる『投資ファンド』というような事業である。お金を集めて、成長するビジネスに投資して回収する金融事業のことだ。

そもそも自分は、投資ファンドを扱った経済ドラマを見て、その主人公に憧れたがゆえに証券会社に入ったのだ。しかし、現実は思い通りには行かず、顧客回りをする毎日にやるせなさを感じていたところでこちらの世界に召喚された。

そして、こちらの世界で自由になる金が手に入り、夢が実現できるかもしれないという状況になっているのだ。やってみたいという思いは強い。

ただし、「今すぐに実現する」というのが難しいのも間違い無い。他人から金を預かるとなると色々と法律面の対応が必要そうだし、こちらのビジネスに関する知識が圧倒的に不足している現状、まともな投資ができるとは思えない。そもそも、お金を集められるような知名度も無いのだ。ひとまず自己資金のみで、幅広く経営コンサルティング事業あたりから始める方が良いように感じる。


あとは、ハイディがアローズ賭博をやりたいと言っているので、賭博運営も含めるべきだろうか。ダーツバーみたいな店舗を持ち、軽食を振舞うとなると、飲食事業でもよいかもしれない。などと頭に思い浮かぶ。

そして、実は、もう1つ鷹峰には気がかりがあった。

「主業もそうなんだが、どこでやるかってのも実は悩んでいる」

「それはどういうこと?」

「この辺で生まれ育ったソニアと女将さんには悪いが、正直アテスは景気が悪すぎてビジネスがやりにくい。ツケや不良債権の回収で街中を回ったが、景気のいい個人やギルドってのに会った試しがない。いくら景気が悪くても、不景気に適応した商売で、上手く儲けるようなヤツが1人2人いてもいいもんだが……」

ソニアがそれに頷きながら苦笑する。

「それに該当するのは、あんたくらいよね」

鷹峰は肩をすくめて、「確かに」と言ってから続ける。

「あと、アテスはお城のお膝元ってことで、大きくビジネスを始めるとなるとビブラン大臣なんかとさらに衝突する可能性もある。もう1つ付け加えると、アテス市街地ってカイエン銀行がほぼ1強で縄張り化してるから、場合によっちゃカイエン銀行と対立する可能性もあるんだよな」

鷹峰が、それこそ「ハゲタカ投資ファンド」を地で行くビジネスを展開するのであれば、そんな対立など気にせずに、不景気で死にそうになった、金になりそうな獲物(ギルドや個人)に飛びつき、安く買い叩いて高く売るだけだと言える。

しかし、そこまで冷徹になれないのが鷹峰亨という男である。これ以上ビブラン大臣をいじめるのは気が引けるし、ジョルジュに対しては、「柔軟に決断できる金融マン」という好感を持っているゆえに、利害衝突はしたくない。加えて、せっかくのスカウトを断ったという引け目もある。

1章14後編に続く

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