フェニックスファイナンス-1章13『金あるところに税あり』後編
1章13『金あるところに税あり』後編
ギルド設立に関してはロゼが答えてくれた。
「他のギルドと掛け持ちしていない発起人が3人必要です。その3人の内の1人がギルドオーナーですから、鷹峰さんがオーナーになるとして、あと2人必要ということですね」
10人20人となると難しいが、2人ならなんとかなりそうだ。と言うか、ここにいるメンツで可能ではなかろうか。などと希望抱いて3人に視線を向けるとソニアがまず反応した。
「私は今フリーだし、協力してもいいわよ」
「ホントか、助かるよ。ハイディはどうだ?」
そう聞かれたハイディは顎に人差し指をあてて、ウーンと唸った。
「ウチのオーナーがギルドを畳むって言ってますからー、どうしようか迷ってるんですけどぉー」
と、ここでハイディは1つ思いついた様子で、パンと手を叩く。
「あ、さっき言ってた『お願い』を今使っていいですかー? アローズのできる場所をギルドで作ってくれるなら喜んで発起人になりますよー」
いきなり『お願い』を使われたが、もっと無茶な要求が飛んでくると覚悟していた鷹峰にとっては、一石二鳥のありがたい話である。ただし、ハイディは賭けアローズがしたいはずで、賭博の許認可などが気にかかる。
「作るから来てくれ! って即答したいんだが、賭博をギルドでやる場合って認可が面倒だったりしないのか?」
「確かに認可は必要ですが、賭博に関してオプタティオはそれほど厳しくないので大丈夫だと思われます。1店舗単位で、1日のベット額が300万フェン程度までなら、ほぼ無審査と聞きます。ただ、モルゲン遊興さんのカジノがされていたように、顧客名簿、売上帳簿、払い戻し帳簿といった帳簿をつけることが課せられます」
「その辺の帳簿管理は私がやりますしー、ちょっと遊べればいいので300万フェンの上限で十分ですよー」
「じゃ、交渉成立だな。これで2人はクリアか」
と、ここでロゼに視線を移して鷹峰は悩む。彼女だけは存続している弁護士ギルドに所属しており、彼女が正弁護士になることを目標にしている現状、新設ギルドに専任とはいかないと想像できるのだ。
その鷹峰の迷いを見てとったのか、ロゼが先に口を開いた。
「私は、正弁護士になるまで今のギルドを抜けられませんので……」
「実務経験5年だっけか? あれって法律関連のギルドでないと計算に含まれないのか?」
鷹峰の問いにロゼは少し残念そうな表情を浮かべながら、頷いて答える。
「今、クレアツィオン連合内は弁護士不足ですから、条件を緩和するような法改正が検討されているそうです。しかし、今のところは法律関連ギルドか、国や教会の裁判関連部門での公務しか算入されません」
そうなると無理強いはできない。
「残念だが仕方ないな。ただ、法律アドバイスを今回みたいな形で依頼するのは大丈夫だよな? 可能であればロゼを指名してアドバイザー契約をしたいんだが」
ロゼは幾分表情を和らげて答えた。
「上司が納得する料金を提示してくれれば、喜んで協力します」
4人での話し合いを終えたロゼが、法律ギルドの事務室内に戻って自席に座ると、上司にあたるブルドド=フレグノッスが不機嫌な表情で、たるんだ頬を揺らしながら近寄ってきて言った。
「客とちんたら世間話している暇があるのか? 一段落ついた案件なんだからさっさと終わらせて違う仕事をしろ」
ブルドドはフレグノッス弁護士ギルドの創業オーナーの長男であり、ゆくゆくはこの弁護士ギルドを継ぐことになる男だ。そして、2代目お坊ちゃんにありがちな「周囲がチヤホヤした結果、傍若無人になる」の典型ケースと言える男でもある。
ただ、彼は正弁護士であり、今のロゼは歯向かえる立場ではない。ロゼはため息が出そうになるのをグッと堪えて立ち上がり、頭を下げた。
「はい。申し訳ありません」
ブルドドが嫌味なのは、ロゼが1月に教会推薦でこの弁護士ギルドに入った時から変わらない。ただ、鷹峰から個人指名で50万フェンの案件を受けた以降、余計に嫌味に拍車がかかったように感じる。
言葉少なめに謝られたのが余計に癪に障ったのか、ブルドドはロゼを指さして、さらに口撃した。
「お前、いくらストレートで試験に合格したからって調子に乗るなよ。俺はいつでもお前をクビにできるし、その覚悟もあるぞ」
またこれかとウンザリする。ロゼは14歳でアカデミーに入学して2年で卒業、16歳で弁護士試験に1発合格と、『飛び級制度を活用し、理論上の最速で試験合格』した才女である。対してブルドドはアカデミー卒業に4年を要し、『7回連続で試験に落ちて8回目でやっと合格』した男である。「8回目はきっと優秀な替え玉が受験したのだろう。創業者の父親が、若返りの薬でも飲んで受験したのではないか」などと、アテス弁護士業界では噂されている始末である。
要するに、ブルドドにとってはロゼという人物自体がコンプレックスを掻き立て、プライドを傷つけてしまう存在なのだ。
「いいか、たかが50万で働いたって顔するな。分かったか? あと、明日までにこの書類整理やっとけよ」
ブルドドはそう言って、『1685年6月法改正』と書かれたファイルと書類の束をロゼの机に放り投げ、自分の執務ブースに戻っていった。
ロゼは「月15万の客から先日出禁を食らったクセに、お前こそ偉そうにするな」と喧嘩を売りたくなったが、書類整理を済ませないと今日は帰れそうもないという現実に引き戻され、暗澹たる思いで椅子に座った。
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