フェニックスファイナンス-1章13『金あるところに税あり』中編

2020年4月11日

1章13『金あるところに税あり』中編


ルヌギア歴 1685年 4月19日 アテス・フレグノッス弁護士ギルド

今回のカジノを利用した儲け話は、結果的に短期決戦で進んでしまったため、細々とした書類関連の整備が不十分なまま放置されていた。それらを一挙に片付けようと、鷹峰はソニアとハイディを連れてロゼのいるフレグノッス弁護士事務所を訪ねていた。

「あとはこっちの負債放棄証明書にサインしてください。鷹峰さんの分とモルゲン遊興さんに渡す分、そして、こちらの弁護士ギルド保管用の3枚です。ハイディさんはこちらにギルド印を…」

と言っても、書類はほぼ全てロゼが準備していてくれたので、鷹峰はザックリと書類の説明を聞いて、ひたすらサインするだけである。

「了解了解」

と言ってサインをしつつ、鷹峰はふと思い出したように話し始めた。

「そうそう、ちょうど3人揃ってるから、分け前の話をしておきたいんだが、1人7000万フェンくらいでいいか?」

「え!?」

3人が驚いて目を剥く。

「助っ人で来てくれた傭兵の5人には1人500万ずつボーナス出したんだが、まだ3.6億くらいあるからな。俺と皆と酒場に上納する分を考えて、5分割くらいでいいかなって」

サインを終え、ロゼに書類を手渡そうと顔を上げると、3人が困惑した表情で鷹峰を見ていた。

「あれ? 足りない? それとも端数ガメるなっていう感じ?」

言葉が出て来ない3人だったが、なんとかロゼが口を開いた。

「分け前も何も、2週間のアドバイザリー料50万フェンって契約でしたので…」

「……そういや、そういう契約だったな」

それに続いて、ハイディも申し訳なさそうに言った。

「話が進むように協力はしましたけどー、私もギルドのお仕事の一環ですしぃ」

ソニアも2人に同調した。

「私もパス。って言うか、あんた使い道も考えずにビブランから5億もふんだくったの?」


「正直言えば図星だ。ただ、ビジネスは今後も続けていきたいから、投資先の案とか、やってみたいアイデアはいくつかある」

「じゃあ、それに使えばいいじゃない」

ロゼとハイディも頷いている。賛成の様子だ。

「うーん。今回の1件、俺だけじゃどうにもならなかったし、今後も色々と協力して欲しいんだが……」

「また何か面白いことを考えて、それに巻き込んでくれるなら私はそれでいいわ。ま、どうしてもって言うなら、私達から1つ貸しってことでいいんじゃない? 私達が何か『お願いごと』を思いついた時に、1つ聞いてもらうって線でどう?」

ソニアの妥協案にロゼとハイディも乗っかった。

「私もそれがいいです」

「さんせー」

こうなっては鷹峰がいくら主張してもひっくり返らないだろう。

「分かった。じゃ、首を洗って『お願い』を待っているよ」

「それにー、いきなり7000万もらっても、税金が大変ですしねー」

ハイディのなにげない一言が鷹峰に突き刺さる。経済制度の整っているこの世界においては、鷹峰の得た3.6億フェンに何らかの課税がなされてもおかしくはない。カジノの利益にまで課税しているのだから、不動産取引の利益など考える間でもなく課税ありと見た方がよいだろう。

「ハイディ、ちなみに3億6千万だと、どれくらい税金で持っていかれるんだ?」

「3億超だと累進課税の最高税率になりますからー、だいたい40%ですねー」

「マジかよ!? 約1億4千万かよ…」

鷹峰は救いを求めてソニアとロゼの方を見るが、静かにうなずいている。こっちの相場としては一般的な税率なのだろう。それに、よくよく考えてみれば日本の所得税も最高税率は似たようなものだし、短期の不動産売買にかかる税率も4割程度だったはずだ。

「それって、今から節税、節税って通じる?」

ロゼが頷いて答える。

「会計テクニックを駆使して、納税額を減らすことですよね?」

「ああ。なにか節税する方法って無いのか?」

「個人事業では難しいですね。クレアツィオン連合では年末時点で1年間の損益を通算し、その収入額に対して個人収入税が課されるのですが、個人事業だと経費に計上できるものが限られます。ですので、3.6億フェンに丸々課税されると考えられます」

まさに所得税である。異世界に来てまで所得税に怯えるとは因果なものだ。サラリーマンをやっていた時は、「憎き源泉徴収! 金持ちからもっと取れ!」などと思っていたが、いざ自分が40%を取られる側になると「納得できない気持ち」が湧きあがってくる。人間とは勝手な生き物だ。

ここで、ハイディが1つの提案をした。

「1つ方法がありますよー。ギルドを作ってギルドの収入にしちゃえば、税率は20%くらいになりますねー。ギルド税の方が安いです」

鷹峰のいた世界で言うところの「法人化」と同じかもしれない。「個人事業主で年間〇〇円稼げるなら、法人化した方がオトク!」なんて話と一緒だろう。

「ギルドの方が経費にできる範囲も広がるのか? あと、すでに収益は発生してしまっているんだが、今からギルド作っても間に合うのか?」

「経費の範囲は広がりますし、ギルド設立日と収益発生日が多少前後するくらいは大丈夫ですよー」

もはやギルド設立以外の選択肢はない。と鷹峰は感じた。

「ギルドってどうやったら作れるんだ? 1人でも作れるのか?」

1章13後編に続く

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